株式会社Spectee(スペクティ)は災害大国と呼ばれる日本において、テクノロジーの力で企業や自治体の防災・危機管理に貢献しています。同社が取り組むAIによる防災・危機管理とはどのようなものなのか。また、これからの防災テクノロジーはどのように発展していくのか。

フリーアナウンサーの坪井安奈さんが、Spectee代表取締役CEO・村上建治郎さん 、取締役COO 海外事業責任者・根来諭さん、取締役CTO・藤田一誠さんの3名に、創業時の体験や現在の取り組み、今後の展望について伺いました。

被災者としての実感がスペクティ創業の原体験

Spectee代表取締役CEO・村上 建治郎さん
Spectee代表取締役CEO・村上 建治郎さん
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CEOの村上さんは、1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災で被災。この経験がスペクティを創業するにあたっての原体験となったといいます。

――村上さんは20歳のとき、阪神淡路大震災で被災されたと伺いました。

村上さん(以下、村上):
阪神淡路大震災が起こった午前5時46分ごろ、私は兵庫県神戸市東灘区の自宅アパートで眠っていたんです。木造アパートの屋根は完全につぶれてしまって、仰向けに寝ている私の目の前まで天井が落ちてきていました。外に出ると、街のあちこちが倒壊していたのを覚えています。

すぐ近くの小学校に避難すると、人手が足りずボランティアが募集されていて、身体は何とか無事だったので「何か手伝えることはないか」と思って参加しました。災害時に一番必要なのは「人手」だと最初に感じたのはそのときですね。

2つの震災の経験を経て創業されたSpectee
2つの震災の経験を経て創業されたSpectee

阪神淡路大震災で災害時における「人手」の重要性を痛感した村上さん。東日本大震災でボランティア活動に参加したことが、Spectee創業の直接のきっかけとなりました。

――Spectee創業には2011年3月11日の東日本大震災も影響しているのでしょうか。

村上:
東日本大震災が発生したとき、私は東京のサラリーマンでした。震災が起こったと聞いてすぐに「人手が足りないはずだ」と思い、4月には現地に入ってがれきの撤去や泥かきなどに参加しました。そこで感じたのが、テレビやラジオなどのマスメディアから入ってくる情報と、現地の光景や実際の被災者の声との乖離(かいり)です。

ボランティアに行く前、テレビで中継されていた石巻のボランティアセンターでは、全国から多くの人が駆けつけているように見受けられました。しかし、石巻の隣に位置する東松島に足を運んでみると、ボランティアセンターの人手はかなり不足していました。東北は面積が広いですから、それぞれの地域で事情は全く違うんですよね。

そういった現場ごとの現実に即した状況を報道するのは、やはり既存のマスメディアでは厳しいのだなと感じました。そんな中で頼りになったのがTwitterです。「ここでボランティアを募集しています」「こんなものが足りていません」といったつぶやきを通してリアルな状況を知り、こうした情報の収集は今後もっと重要になってくるだろうと実感しました。

そこから、SNS上の情報を収集し、地域ごとにまとめて見やすく可視化すれば役に立つのではないかという発想が生まれはじめます。そして、このまま会社勤めをしていては自分のやりたいことができないという思いが募り、2011年11月に独立し、Specteeを創業しました。

報道機関・自治体に広く活用される「Spectee Pro」

2014年5月、AI防災・危機管理ソリューション「Spectee」がリリースされ、報道機関を中心に広く受け入れられます。2020年3月には「Spectee Pro」として全ての企業・自治体の危機管理向けに大幅アップデートされました。

SNSリアルタイム危機管理情報サービス『Spectee Pro』
SNSリアルタイム危機管理情報サービス『Spectee Pro』

――「Spectee」が現在のように全国の報道機関で活用されるまでの経緯について教えてください。

村上:
創業してから、何件かサービスを立ち上げて試行錯誤の上、2014年にリリースしたのが社名と同じ「Spectee」というサービスです。当初は現在のように報道機関に利用されることは全く想定しておらず、個人向けのスマートフォンアプリでした。

考えを改めるきっかけとなったのが、2015年の春ごろに出展したイベントのブースで報道機関の記者さんが「これは情報を集めるのに凄く役立つ」と話してくれたことです。そこから、スマホだけでなくPCでも使えるようにしたり、情報の速報性をより高めたりするなどアップデートを重ね、全国の報道機関に導入していただけるようになりました。

――2020年3月には「Spectee Pro」がリリースされました。どのような理由からアップデートに至ったのでしょうか。

村上:
「Spectee」は報道機関を中心に広く受け入れられましたが、実際に災害対応される自治体や災害の現場の方々がこのまま使えるかという点でアップデートの必要性を感じたんです。災害の現場では情報が速く届いたところですぐに対応できるわけではありません。

そこで、SNS上の情報をもっと災害対応に生かせるような形で表示したり、気象や交通などSNSにない有用な情報も組み合わせて災害対応に特化したものに作り変え、「Spectee Pro」として大幅リニューアルを行いました。情報を提供することで、いかに現場のアクションにつなげられるかをコンセプトに行ったモデルチェンジです。

「Spectee Pro」はモニターに情報が一覧で映し出される
「Spectee Pro」はモニターに情報が一覧で映し出される

――実際に災害が起こったとき、「Spectee Pro」はどのように生かされているのでしょうか。

村上:
「Spectee Pro」を導入した自治体からは、情報を素早く仕入れ一元的に把握することが容易になったと伺っています。従来の自治体の災害対応では、警察や消防、関係省庁などから電話やFAXで送られてくる情報をホワイトボードに書き出すところから対応がはじまっていました。そこで、情報を即座に届け、モニターにそのまま映し出すなどして一覧できる「Spectee Pro」が力を発揮します。

また、実際の災害対応では「初動」がすごく大切だといわれています。情報を一元的に把握できることで、被害情報を把握して行動に移すまでのプロセスが非常にスムーズになった、ともよくいわれます。

愛知県豊田市は2019年から導入(プレスリリースより)
愛知県豊田市は2019年から導入(プレスリリースより)

――東日本大震災で得た教訓を生かして、災害対応をアップデートしようという気運が、自治体のなかでも生まれているのでしょうか。

村上:
東日本大震災のとき、津波が迫るなかで避難を呼びかけ続けた女性職員の方が亡くなってしまうという出来事がありました。自治体の方も被災者ですし、安全な場所に避難したうえでの災害対応が望ましいのですが、当時は人力で呼びかける手段しかなく、痛ましい被害が生まれてしまいました。

しかし、そこから10年以上経過し、自動音声で防災無線を無人化するソリューションも生まれ始めています。我々自身、情報提供だけでなく、現場の方の安全を確保するためのサービスの展開にも取り組んでいます。安全を確保したうえで素早く初動に移る体制が確保できるようになってきたのは、この10年の大きな変化です。

防災テクノロジーは「速報」から「予測」へ

防災テクノロジーは進化を続けています。そんな中、「Spectee Pro」で進められているのが、リアルタイムの情報共有から一歩進んだ「予測」の領域の開拓です。

フリーアナウンサー・坪井安奈さん
フリーアナウンサー・坪井安奈さん

――今後、防災においてテクノロジーはどのように活用されていくのでしょうか。

村上:
東日本大震災のころと比べて災害対応で使えるテクノロジーは増加しました。スマホの保有率が1割程度だった当時に対し、今では誰もがスマホを持っていて、現場の情報はすぐに写真などで投稿されます。SNS、カメラ、ビッグデータなどさまざまな情報を収集し、可視化する「Spectee Pro」のような技術は今後も活用されていくでしょう。

また、ドローンやAIの技術も発達してきています。例えばドローンとAIによる自動音声技術を組み合わせて、災害時の避難誘導を無人で行うことも可能になるでしょう。人が関わらなくても災害対応できるようになっていくということですね。

「Spectee Pro」はAIを使い災害“予測”まで対応を進めている
「Spectee Pro」はAIを使い災害“予測”まで対応を進めている

――AIを活用して災害を未然に予測することも可能になるのでしょうか。

村上:
それはまさに今「Spectee Pro」で対応を進めている領域です。これまではいかにリアルタイムに情報を届けるかに力を入れてきましたが、被害情報の予測を提供できるようにすることで、より災害対応に貢献できると考えています。

予測を災害対応に役立てるためにはさまざまな情報を組み合わせ、瞬時に分析して答えを出す必要があるのですが、一番活用できるのはやはりAIです。

SNS投稿、気象データ、自動車の走行データ(車が止まっているか、走っているか、あるいはどのくらいのスピードを出しているか)など、大量のデータを組み合わせて解析した結果、予測精度が高まれば「1時間後、このあたりに被害が及ぶ可能性が高いので避難してください」と避難勧告を行うことも可能になるでしょう。

取締役CTO・藤田一誠さん
取締役CTO・藤田一誠さん

――CTOの藤田さんは、どのような点にこだわって「Spectee Pro」を開発されていますか。

藤田さん(以下、藤田):
情報の正確性を担保することを非常に重視しています。災害現場のご担当者は、現場の状況の整理など大量の役割を抱え、息つく暇もありません。そこで我々の配信する情報が正確でなければ、大きな混乱を生むことになりかねないためです。

――情報の正確性を担保するためにテクノロジーはどのように活用されているのでしょうか?

藤田:
色々なやり方があるのですが、例えば投稿している方の過去の投稿から、信頼のおける行動をしているのか、デマを投稿しそうな人物でないかをチェックしています。また、デマによく使われる動画や画像を収集し、データベース化しています。

AIは過去の蓄積からものごとを推測するのが得意です。その反面、未知のものへの対応が苦手で、たとえばコロナ禍のような過去に経験のないような事態の分析は難しく、その解釈では人間の感性が必要になる場面もあります。人間とAIがお互いの得意分野を生かして支えあい、情報の正確性を高めていければと考えています。

災害・危機管理は民間企業にとっても重要

近年、「Spectee Pro」の活用は民間企業の間でも広がっています。その具体的な活用イメージや今後利用が増えてきそうな領域について伺いました。

――どのような企業が「Spectee Pro」を利用されているのでしょうか?

村上:
まず挙げられるのが、電力・ガス・鉄道などインフラ系の企業です。災害時においてもインフラはライフラインとなるため、情報を素早く仕入れすぐに対応するために活用いただいています。

次に多いのが製造・物流関係の企業です。こうした業界で必要とされているのが、多くのサプライヤーから様々な部品を調達し、製品をつくってお客さんに届けるまでのサプライチェーンのリスク管理です。例えば車一台を製造するのに、数万~数十万個の部品が必要になるといわれています。

その一部が災害で届かないとなると、生産はストップせざるを得ません。また災害で道路が寸断されてしまえば、物流会社は予定通り製品や部品を運ぶことが不可能になります。そこで、情報を事前に仕入れリスクを回避するためにリアルタイムの災害情報が役立ちます。

また、全国展開されているスーパーやコンビニなど小売業界でも「Spectee Pro」は採用されています。災害が発生し、店舗そのものが被災してしまうと、食品や日用品といった生活必需品を地域の人々は買えなくなってしまいます。災害情報を素早く、正確に入手することを重視される企業が多いです。

――民間企業の間でも災害リスクへの危機感は高まってきているのでしょうか。

村上:
そうですね。異常気象や地震など、災害リスクは年々高まってきています。災害によって事業が止まってしまうリスクにどう対応するかは、企業にとって重大な課題となっています。

取締役COO 海外事業責任者・根来諭さん
取締役COO 海外事業責任者・根来諭さん

――COO・海外事業責任者の根来さんから見て、今後、利用が増えてきそうな領域はありますか?

根来さん(以下、根来):
自動運転やMaaS、スマートシティなどの領域です。現在、我々は災害に関する情報を収集・解析することにフォーカスしていますが、危機管理以外の領域でも価値は出せるものと考えています。

例えば安全な自動運転を実現するには、車の状況だけでなく、走っているルートで何が起こっているのか、何か起きるかといった情報も重要です。また、データを使ってより効率的で快適な都市、スマートシティを実現するためにも、我々のデータ解析技術は生かせるはずです。

災害・危機の被害をゼロにすることにチャレンジしつづけたい

――今後、Specteeが力を入れて取り組んでいきたい領域はありますか。

村上:
特に力を入れているのは災害の予測です。今、被害状況の見える化と同じくらい、この先どうなるかを予測することは重要だと考えています。

今までの日本の災害対応は、どちらかと言えば情報を事前に集める、避難訓練をする、河川が氾濫しそうなので堤防をつくるなど「事前防災」がメインでした。しかし、近年災害は激甚化する傾向にあり、例えばせっかく堤防をつくっても降水量があまりに多すぎたため決壊してしまうといった事態が起きています。

そのような現象に事前の準備だけで対応することは難しいため、AIなどのテクノロジーを活用して予測に取り組みつつ、迅速なアクションにつなげることが今後重要になってくると思います。
 

<YouTube動画:令和2年7月豪雨時の熊本県球磨川周辺をモデルケースとしてSpecteeが公開。水害発生時の浸水範囲をリアルタイムに3Dマップ上に再現するAIソリューション>

――最後に、Specteeが防災・危機管理の未来に描くビジョンについて教えてください。

村上:
阪神淡路大震災や東日本大震災のころと比べて、スマホやAIなど色々なテクノロジーが広がり、できることは増えてきていると思います。ただし、被害をゼロできるかというと、それはまだまだ不可能です。私がSpecteeの事業を通して抱く理想像はまだ1割も達成されていません。

また、我々にとっての危機は災害だけでなく、新型コロナウイルスのような新たな危機に対応しなければならない機会は今後増えていくと思います。そういったリスクを我々が保有するAIやデータ解析の技術で回避し、被害をゼロにしていくことにチャレンジしつづけていきたいと思います。

<インタビューを動画で見る>

株式会社Spectee(スペクティ)
「"危機"を可視化する」をミッションに掲げる2011年創業の企業。様々なデータを分析し、どこよりも速く、正確に災害・危機管理情報をリアルタイムに提供する「Spectee Pro」や、画像解析やビッグデータ解析技術を活用した浸水範囲の自動予測や道路の路面状態解析など、防災・危機管理に関連した情報解析サービスを展開している。

東京都千代田区五番町12-3五番町YSビル3F
https://spectee.co.jp/
 

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制作:FNNプライムオンライン編集部
文=宮田文机