“彼氏”に会うために3歳の娘を放置、餓死させた母親

1月27日の初公判に、上下黒色のスーツ姿で入廷した梯沙希被告(26)。髪の毛を染めていたのであろう、毛先だけが茶色く残っていて、逮捕からかなりの月日が経過したことがうかがえる。

2020年6月5日から13日にかけて、東京・大田区の自宅アパートに長女・稀華(のあ)ちゃん(当時3)を9日間放置し、脱水症と飢餓で死亡させた、保護責任者遺棄致死の罪などに問われている。

保護責任者遺棄致死などの罪に問われた梯沙希被告(26)
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起訴状などによると、梯被告はシングルマザーとして稀華ちゃんを育てていたが、交際相手の男性が住む鹿児島県を9日間旅行し、3歳の稀華ちゃんを自宅に1人で放置した。稀華ちゃんがいた寝室は電気が消された状態で扉には鍵がかけられ、外側にはソファーが置かれていた。

おむつを2枚重ねた稀華ちゃんの胃や小腸には飲食物がなく、口の粘膜は水分が足りない状態になって発見された。寝室には600mlの水とスナック菓子の袋が1袋、どちらも空の状態で置いてあった。

証言台に立ち、まっすぐ裁判長の方を見つめた梯被告は、検察官から起訴内容について読み上げられている際、手を握ったり、ほどいたりと落ち着かない様子を見せた。

裁判長:「起訴内容に間違いはありますか?」
梯被告:「大丈夫です」
か細い声ながら、はっきりと起訴内容を認めた。

初公判で梯沙希被告(26)は起訴内容を認めた(イラスト:大橋由美子)

「あんたなんか産まなきゃよかった」 母親は自らも虐待の被害者だった

法廷でまず明らかになったのは、梯被告が壮絶な虐待を受けていた過去と、母親との複雑な親子関係だった。幼少期、母親から日常的に殴るなどの暴行を受け、時には手や膝をガムテープで縛られ、そのままビニール袋に入れられ、風呂場に捨てられていた。包丁でおでこを切りつけられ、口を縫われることもあったと言う。

「あんたなんか産まなきゃ良かった」「お前は何も言わずに笑っていればいい」などの暴言も日常的に吐かれた。最初は母親に対して嫌だと主張したものの、止まない暴力や暴言に無気力になった梯被告は、母親の顔色を常にうかがい、笑って応答するほか為す術が無かった。

母親は警察に逮捕され、梯被告は施設に預けられ育った。施設でも周囲にいる人が母親と同じように感じられ、笑顔でごまかしたという。その後、再び母親と生活することになるのだが、母親は過去のことはなかったかのように接し、虐待により施設に入っていたことは、周囲の人間にも打ち明けることができなかった。

法廷では、梯被告が、自分の母親から受けた虐待の実態が明らかにされた。

そう言った経験から“他人に逆らうことが出来ない人格”が形成されていったと弁護側は主張、「虐待を受けていない人と比べてどれだけ非難できるのか、どれだけ刑務所に入れておかなければならないのかを考えてください」と述べ、情状酌量を求めた。

一方、検察側は冒頭陳述で「稀華ちゃんを旅行に連れて行ったり、知人に頼んだりもせず、交際相手に会いに行った身勝手さ」や「自宅に放置したまま遊びに出かけることを繰り返していた常習性」などを指摘した。

娘を放置して鹿児島へ 「心に空いた穴を埋めるため」 

なぜ鹿児島県の交際相手の男性に会いに行ったのか。この事件の大きな謎が梯被告本人の口から明かされた。「(交際男性の知人から)『今月、鹿児島県に行くでしょ』と言われて、『いや・・・』と言い、『どのくらいですか』と聞いたら、『わからない、行ってから決める』と曖昧な感じで言われて。はっきり言えなくて、合わせる形で行きました」

梯被告が鹿児島県を訪れたのは、この知人男性から誘いがあったためで、誘いを断れなかった背景には、幼少期に虐待を受けたことなどが影響していると話した。梯被告は、この知人男性に5月と、事件が起きた6月の2回誘われ、交際相手の男性に会いに行った。

梯被告は「心の穴を埋めるため」、娘を放置して、鹿児島の”彼氏”に会いに行っていたという(イラスト:大橋由美子)

交際相手の男性のことは、心から好きではなかったが、“心に空いた穴を埋めるため”に、会いに行ったとも弁明した。

「行きたいと思って行ってないし、のんちゃん(=稀華ちゃん)を置いて行っているというのが大きくて。途中でお金貸しているし、何してんだろう自分って思いました。飛行機も乗らずに断っていれば、のんちゃんといられたのになと思って。全然楽しめなくて、言えないまま過ごしていました」

梯被告は交際相手の男性に会うために旅行に出かける際、稀華ちゃんが寝ていた寝室の電気を消し、部屋の扉の鍵を閉めた上で、外側にソファーを置いて出られないようにしていた。なぜソファーを置いたのかについて、逮捕時の警察の調べに「台所の包丁を取りに行ったら危ないと思った」と供述していた梯被告。

希華ちゃんは、食料も水もない、真っ暗な部屋に、1人で放置されていた。

法廷でも同様に「キッチンが危なかったので行かせないようにするためだった」と話した。しかし、結局、このソファーのせいで、稀華ちゃんは、外に助けを求めに行くことができなかった訳だ。

梯被告は裁判の中で、稀華ちゃんが寝ていた寝室の近くに、お菓子やパン、ペットボトルの飲み物少なくとも7本以上などを置いて行ったと何度も話した。しかし事件当時、現場から発見されたのは600mlの水が入ったペットボトルわずか1本とスナック菓子1袋のみだった。

事件の“真相”について、梯被告の口からはっきりと語られることは無かった。母親が帰ってこない不安の中で、わずか3歳の稀華ちゃんは空腹に耐えながら放置され続け、救急車で搬送されたが、すでに脱水症と飢餓の状態となっていて、その後亡くなった。

梯被告は被告人質問の最中、声を震わせ涙ながらに「戻れるなら戻りたい、やり直せるならやり直したい」と話したが、わずか3歳でこの世を去った稀華ちゃんはもう二度と戻ってこない。

被告人質問で、梯被告は「戻れるなら戻りたい、やり直せるならやり直したい」と語ったが・・・。

検察側は懲役11年を求刑 「身勝手な犯行」と指摘

検察側は論告で、「稀華ちゃんが最後までもがき苦しんでなくなったのは一目瞭然」であるとして「交際相手に会いたいという自己の欲求を優先させた身勝手な犯行」と指摘した。

また起訴内容以外にも19回にもわたって稀華ちゃんを放置したまま外出したことも明らかにした上で「育児放棄を常習的に繰り返す中で起こった犯行であることは明らか」として、懲役11年を求刑した。

検察側は懲役11年を求刑、弁護側は情状酌量を求めた(2月1日 東京地裁)

一方、弁護側は、母親からの虐待や施設で育った過去が影響し、「強い愛情欲求があり、交際男性に愛されたい自己が強く出ていた」と述べ、加えて「積極的に傷つける意図はなく、憎しみを抱いていたわけではない」などと情状酌量を求めた。

梯被告は最終意見陳述で、証言台に立ち、涙を流しながら振り絞るような声で「ずっと変わらずのんちゃんごめんねって思いでいっぱいだし、全部後悔しかないです」と自らを責める言葉を口にした。

身勝手な“ネグレクト”が原因で起きた悲惨な事件その理由が“虐待の連鎖”だとしても、亡くなった稀華ちゃんがあまりに無念でならない。この母親に対して、司法はどういった判断を下すのか。判決は2月9日に言い渡される。

(フジテレビ社会部 司法クラブ 熊手隆一)

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