急速な高齢化が進むタイ

タイはアジアの主な新興国の中で、最も急速に高齢化が進んでいる。国連によると、タイの人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、2015年時点で10.6%で、2022年には14%となる見込みだ。総務省によると、日本は2019年9月、高齢者の割合はすでに28.4%に達しているが、実はタイは日本より高齢化のペースが速い。

タイでは、1970年代以降、生まれる子供の数を抑制する家族計画を奨励し、徐々に出生率が低下。また、女性の社会進出が進む一方で、家事や育児、介護は女性が担うという伝統的な考え方が残り、少子化に拍車をかけている。世界銀行によると、2017年の女性1人が一生の間に産む子供の数、合計特殊出生率はタイが1.5人。日本は1.4人で、近い水準となっている。一方で、医療機関の増加と医療技術の向上などによって、タイ人の平均寿命も延びていて、2017年で76.68歳に達し、今後さらに延びていくと予想される。

タイでは急速な高齢化に伴い、社会保障制度の整備が急務となっている。高齢者の医療サービスも、指定された病院での受診に限られたり、年金制度に未加入だったりする高齢者も多く、家族の仕送りに頼っているのが現状だ。

プールで遊ぶタイの高齢者たち
プールで遊ぶタイの高齢者たち
この記事の画像(5枚)

先行する日本企業にとってビジネスチャンス

タイでの急速な高齢化は、日本の企業にとっては大きなビジネスチャンスだ。高齢化で先行する日本は、高齢者の介護・福祉の分野でさまざまな企業がしのぎを削ってきており、優れた製品をはじめ、サービスの技術もノウハウもある。すでにタイに進出している日系企業も多い。

企業の海外への展開を支援する日本貿易振興機構JETROバンコク事務所は、1月15日から3日間、介護や福祉に関する製品・サービスを扱う日本企業を対象とした視察・勉強会を開いた。タイで初めての開催となった背景には、タイをはじめ東南アジアでの高齢化の進展もある。企業側からも要望があり、定員もいっぱいとなって、参加できなかった企業も数社あったという。

参加した企業は、医療機器を取り扱う企業や介護サービス事業者、整骨院など14社。タイ保健省やすでに進出している日系企業の講演のほか、販売店やリハビリ施設などの視察が行われ、参加した日本企業にとって、タイでの展開・進出に向けて、大きな後押しとなる機会となったようだ。

タイ保健省の講演を聞く日本企業の担当者
タイ保健省の講演を聞く日本企業の担当者

タイならではの課題も山積み・・・競争も激化

タイの高齢化は日本企業にとってビジネスチャンスであることは間違いない。しかし、異国では課題も多い。介護や福祉関連の事業ですでに進出した日系企業の中には、苦戦を強いられているところもある。日本の製品・サービスをそのままタイで導入できればコストを抑えることができるが、そうもいかない。2014年に現地法人を立ち上げた車椅子メーカー「松永製作所」は、デパートなどで自社の車椅子を中心に、他社の介護用品なども販売している。しかし、車椅子などはタイでは医療機器にあたり、タイ食品医薬品承認局(FDA)の輸入登録が必要となる。これは日本国内なら必要ない手続きだが、現地では必要な書類や基準などがたびたび変更され、業務の中でも、大きな割合を占めるという。

また、「車椅子は縁起が悪い」というイメージがあるのだそうだ。例えば、車椅子に乗った後、悪いことがあると、中には、「車椅子に乗ったからだ」と思う人もいるという。高齢化が進むことで、徐々に意識は変わりつつあるというものの、考え方の違いを踏まえ、日本と違う販売方法を工夫しなければならない。

Matsunaga Thailandショールーム・バンコク
Matsunaga Thailandショールーム・バンコク

また、日本の製品・サービスは、これまでのノウハウも蓄積され、タイと比べ、優れているものが多い。その違いをどうタイの人たちに理解してもらうかも一つの課題だ。多数を占める中間層をターゲットにできればよいが、輸入などの手続きも加わってコストがかさむ傾向もあり、主なターゲットは富裕層や上流中間層に限られてしまう。さらに、タイの高齢化をビジネスチャンスと捉えるのは、日本企業だけではない。中国・台湾などの企業も、タイ市場をターゲットに見据え、積極的に展開している。タイの企業もあり、競争が激しさを増すことは間違いない。

今後、介護サービスを含む社会保障制度が整備されれば、さらに日本企業が進出しやすい状況も生まれてくると予想される。競争を勝ち抜くためには、困難を承知でいち早く進出し、タイで信頼を勝ち取りながら、政府とともに制度の整備に関わっていくぐらいの積極的な姿勢が必要だ。

【執筆 FNNバンコク支局 武田絢哉】

「隣国は何をする人ぞ」すべての記事を読む
「隣国は何をする人ぞ」すべての記事を読む
武田絢哉
武田絢哉

FNNバンコク支局