「耳そうじは基本的に必要ない」

「耳そうじをしないと、耳あかがたまってしまう」。だから、「耳のそうじは定期的に行うのが当たり前」と思い込んでいたが、それは実は、誤った認識。

日本耳鼻咽喉科学会の静岡県地方部会学校保健委員会が制作し、YouTubeでも公開している動画によると、「耳そうじは基本的に必要ない」のだという。

約12分のこの動画は、耳鼻科医で静岡県地方部会学校保健委員会の植田洋委員長が、成人女性の耳の中を5カ月間観察し、古くなった鼓膜の皮膚が、耳の外側に向かってゆっくりと移動していく様子を撮影。

これが入り口付近で剥がれて耳あかとなり、耳そうじをしなくても、自然と外に排出される様子を映し出している。

なぜ、耳そうじは基本的に必要ないのか?

ではなぜ、耳そうじは基本的に必要ないのか?

その理由を知るうえで、まず知っておきたいのが「耳あかは鼓膜が変化したもの」だということだ。

動画によると、鼓膜は皮膚でできていて、糸電話の紙みたいにピンと張っているのだが、糸電話と同じでゆるんだら音が伝わらない。

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そのため、ゆるまないように真ん中から外側にゆっくりと再生していて、爪のように生え変わるのだという。

生え変わった鼓膜は、外耳道(耳の入り口から鼓膜までのS字状に曲がった管)の皮膚に変化する。

そして、数カ月かけて耳の入り口まで移動。入り口で剥がれて、耳あかになるのだという。

つまり、耳あかは、ほこりやごみではなく、鼓膜が変化したもの、ということなのだ。

しかも、耳あかは、押し出されて自然になくなるため、耳の中にたまらない仕組みになっている。

それゆえ、「耳そうじは基本的に必要ない」のだという。

また、「耳あかがあるから、耳がかゆくなる」、だから耳そうじをしていたが、これも誤った認識。

かゆい理由は、耳あかがあるからではなく、耳かきや綿棒、指で、耳の中を傷つけて炎症をつくるから。
耳そうじがかゆみの主な原因なのだという。

そして、こうした考え方を提唱しているのは、日本耳鼻咽喉科学会の静岡県地方部会学校保健委員会だけではなく、2017年にはアメリカ耳鼻咽喉科学会が「過剰な耳そうじはしないよう」に勧告。

アメリカの綿棒には以下のような警告文が書かれている。

「耳の穴に綿棒を入れないこと。耳の穴に入れたら傷の原因になります。もし耳をきれいにしたいなら、耳の外の表面だけをやさしく拭くこと」

今回の5カ月間観察した動画では、耳そうじをしなくても耳あかはたまらず、観察終了後に綿棒で耳そうじをしたことで、逆に耳あかをはがして奥に押し込んでしまっていることがわかった。

どのような思いから、このような動画を作ったのか?
また、なぜ、「耳そうじは基本的に必要ない」は浸透していないのか?

日本耳鼻咽喉科学会の静岡県地方部会学校保健委員会の委員長で、植田耳鼻咽喉科の医師、植田洋さんに話を聞いた。

「一般の方にも広まれば」という思いから制作

――静岡県地方部会学校保健委員会はどのような思いがあって、このような動画を作った?

耳そうじの弊害、耳あかの押し込みや、耳がかゆい、それらの悪化により、未だに外来に来る患者さんは後を絶えません。これは、まだ耳そうじが当然との認識が強いからです。

耳の取り扱いについては以前からの古い考えが残っており、耳のそうじをしないと耳あかがたまる、耳あかがたまると聞こえも悪くなりかゆくもなりますので、綺麗にそうじをして授業を受けましょう、などと言われてそうじをしている人が大半です。

学校でも耳に対する指導も、古い考えで動いているところもまだ多いと考えています。

昨今、学校での健康教育の推進が言われており、日本耳鼻咽喉科学会静岡県地方部会学校保健委員会では、古い考えの是正をしたいと考えていたのですが、学校に出向いての講演などでは無理があり、困難が予想されます。

そのため、学校保健委員会で正しい耳の取り扱いに対する教育動画を作成し、それを配信することにより、養護の先生と生徒に見ていただこうと考えました。
そして、それを生徒たちが家庭に持ち帰り、いずれは一般の方にも広まればと期待しています。

――植田さんは「耳そうじは基本的には必要ない」という考えを何年ぐらい前から発信している?

私個人の話ですが、20年以上前からです。

「耳そうじは基本的には必要ない」が浸透しない3つの理由

――「耳そうじは基本的には不要」という考えは浸透していないのが現状。この理由として考えられることは?

いろいろな問題が挙げられます。

1つめは「かゆみの問題」。

耳を触るとかゆくなり、かゆみから痛みに変わり、それが奥まで触ることを容認してしまう。
とてもかゆくて触ると気持ちいい(快感)ので、どんどん奥に炎症を作り、鼓膜まで触ってしまい、やめられない、という悪循環に陥ります。

炎症が強くなって、耳垂れや痛みが出てきたら初めて耳鼻科に受診しますが、それまでは快感のため毎日綿棒耳かきをして止まりません。

2つめは「エチケットの問題」。

耳の穴を覗くと少し耳あかが見えるだけで、耳あかがあって汚いと思われるのでそれが心配、というのが大きいと思います。

また、耳あかの性質で、乾燥タイプと湿性のタイプがあるので、湿性の人は耳の入り口が触るとベトベトしているのでそれを嫌がる。

また、耳は性感帯の一つであり、パートナーに耳を触られたり見られたりすることを考えると、綺麗にしようと考えることもあるかと思います。

3つめは「耳あかで聞こえが悪くなるという誤解」。

耳あかがたまると聞こえが悪くなると、未だに信じられています。

実際に綿棒や耳かき、タオルなどで実際に鼓膜から外耳道にかけて、耳が耳あかを徐々に押し込んでパックされて耳栓となり、難聴になる人も中にはいるのですが、それはレアケースであり、みなさんの身近に耳あかで聞こえが悪くなった人はほとんどいないと思います。

――耳鼻科医が一丸となって「耳のそうじは基本的には必要ない」と発信できないのはなぜ?

基本的には必要ない、と皆分かっていると思いますが、エチケット上、どうしても触ってしまう人がいますので、強く言えないのです。

どうしても耳のケアをしたい場合は…

――どうしても耳のケアをしたいという人はどうすればよい?

耳の穴の中のケアは、耳鼻科に行ってやってもらってください。

エチケットとしてやるなら、耳の穴はやらずに、耳の外側(耳介)を2週間から1ヶ月に一度くらい、綿棒でそっと拭き取る程度でいいと思います。

また、耳の症状、耳がかゆい、痛い、耳が詰まっている感じがある、などの症状があれば、必ず耳鼻咽喉科を受診してください。


耳あかが実は古くなった鼓膜の皮膚で「耳そうじは基本的に必要ない」という考え方。
エチケットなどの理由で、なかなか浸透しないのが現状のようだが、今回の動画をきっかけにして試してみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。