絶滅の危機に瀕するオナガサイチョウ

空を舞うオナガサイチョウ

赤や黄の大きなくちばしに、白と黒の長い尾。タイやマレーシア、それにインドネシアなど、東南アジアの熱帯雨林に生息するオナガサイチョウ。くちばしの上部に硬い突起があるのが大きな特徴で、英語では、ヘルメット・ホーンビルという名前が付けられている。このオナガサイチョウが絶滅の危機に瀕している。1年に1個しか卵を産まないことも、繁殖が難しい原因だが、絶滅危機の大きな原因は森林の減少、そして密猟だ。

「赤い象牙」「金色のヒスイ」と呼ばれ闇取引横行

オナガサイチョウのくちばしや頭部で作られた彫刻

オナガサイチョウはワシントン条約で商業取引が禁止されている。しかし、闇市場で、古くから「赤い象牙」「金色のヒスイ」などと呼ばれ、取引されてきた。象牙と比べ軟らかく細かい彫刻が可能で、象牙よりも高値で取引されることもあるという。はく製や彫刻のほか、ネックレス、指輪、ブレスレットなどに加工される。アクセサリーの場合、1つ2万バーツから3万バーツ、日本円で7万円から10万5000円ほどの高値で取引されている。特に中国人の富裕層に人気があり、密猟が後を絶たない。

オナガサイチョウが生息するタイ・クロンセン野生動物保護区周辺

タイでは2019年までの5年間で摘発された密猟事件はわずか3件で、逮捕者の数もたったの5人だ。しかし、野生動物の取引を監視・調査するNGO「トラフィック」の調査によると、2018年10月からの6ヵ月間で、32のグループで少なくとも173回にわたり、オナガサイチョウで作られた製品の売買に関する投稿がフェイスブック上で確認されたという。

絶滅を回避するために・・・進められている保護活動

クロンセン野生動物保護区でのパトロール活動

タイ環境省もオナガサイチョウの保護に乗り出している。タイ南部のスラータニ―県にあるクロンセン野生動物保護区。この保護区を含む森林は、タイで最も多くオナガサイチョウが生息している地域だ。この保護区で、タイ環境省はおよそ10年前から、「スマートパトロール」と呼ばれる監視・調査活動を進めている。5人程度が1グループになって、野生動物の巣・糞など、生息する地域、生息数などを定期的に調べている。また、不審者の残したたき火や足跡なども確認して、情報を蓄積している。その範囲は保護区内のおよそ85%に及ぶ。このスマートパトロールが始まって以降、この保護区でオナガサイチョウの密猟は確認されていない。その結果、生息数は増加の傾向にあると推定されている。

オナガサイチョウ・クロンセン野生動物保護区

環境省が特に注意しているのが、オナガサイチョウの生息場所を特定されないようにすることだ。取材などで職員以外が保護区に入る場合、許可が必要なことはもちろん、職員が立ち会う。さらに、SNSで生息地域の画像も一切公開していない。

また、この保護区では、地元住民との情報交換が保護活動に役立っている。オナガサイチョウを見たという生息状況に関する情報、不審な人を見たという密猟に関する目撃情報など、住民からの情報をもとに調査に乗り出すことも多い。これは住民との深い信頼関係によって成り立っている。

課題は若手監視員の確保とテロ多発地域での保護活動

クロンセン野生動物保護区のリーダー・カチョンサク氏(58)

しかし、このクロンセン野生動物保護区で急務となっているのが、パトロールをおこなう若手監視員の確保と育成だ。保護区のリーダーを務めるカチョンサク氏(58)は、「いまの世代が働けなくなった時に備え、若い世代に代わっていってほしい」と述べた。現在は30代から40代の監視員が多いものの、経験と知識をもった監視員の年齢が上がっていて、長いスパンでの保護活動を見据えた場合、20代の監視員の不足が懸念材料だという。

また、密猟が多いのが、マレーシアとの国境に接するナラティワート県だ。イスラム過激派によるテロも発生している地域で、クロンセン野生動物保護区よりも監視員が森林に深く入ることが難しく、徹底したパトロールができていないのが現状だ。

保護活動への理解を進めるために

カオソックハーフマラソン大会・2020年1月

今年1月26日、オナガサイチョウが生息するカオソック国立公園周辺をコースにして、およそ5000人が参加するマラソン大会が開かれた。観光と野生動物の保護のPRを兼ねた大会で、この大会の収益の一部は、野生動物の保護活動に役立てられるという。

野生動物を紹介するブース
実物大のオナガサイチョウの模型

大会の会場には、周辺に生息する野生動物を紹介するブースも設けられ、実物大のオナガサイチョウの模型も展示されていた。人間による乱獲によって、多くの生物が地球上から姿を消した。しかし今はこうした乱獲を防ぐ知識と、乱獲しなくても生活できる経済体制があり、絶滅は防ぐことができる。大会の参加者がこうしたブースを見て、この地域に絶滅の危機に瀕している貴重な鳥が生息することを知ってもらい、保護活動に関心をもってもらえることを願っている。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】

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