日韓防衛相会談も「進展なし」

国同士が防衛上の機密を共有する際に第三国への流出を防ぐために結ぶ協定「GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)」。一方的に韓国が日本に破棄を通告し、その失効が6日後に迫った11月17日、“ほほ笑みの国”タイ・バンコクで河野大臣と韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相による日韓防衛相会談が開かれた。

GSOMIA破棄直前の担当閣僚による会談は当初より注目を集めていた。しかし直前の15日、韓国・ソウルで文在寅大統領がアメリカのエスパー国防長官との会談の中で「日本とは軍事情報の共有はしがたい」と言い放ったことで「事態の打開は難しいのでは…」という雰囲気が現地・バンコクにいる記者たちの中にも漂っていた。実際、私自身もその一人だった。ある日本の防衛省関係者も「韓国はもはや意地になっている」と指摘するほどだ。

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そして注目?の会談だったが、「進展なし」という結論に終わった。
会談後の鄭国防相の会見を聞けば納得だった。下記は会見の要旨だ。

・日本側は「とにかく引き続き(GSOMIAを)維持していくことを望む」と言った
・(河野大臣に対して)「日本による輸出管理の見直しが理由で、安全保障上の信頼が傷つき、終了決定の措置をするしかなかった」と言った
・「国防分野の話よりは、外交的に解かなければならない部分があるので、うまく解決できるように努力してほしい」と要請した

韓国・国防相さじ投げた?「国防よりも外交で…」

「国防分野の話よりは、外交的に解かなければならない部分があるので…」
これまで国会答弁などで「GSOMIAは必要」と訴えてきた鄭国防相だが、上記の発言は、国防を担う閣僚でありながら、いわば、担当は韓国大統領府であり「自分ではどうにもできない」と“さじを投げた”ともとれるだろう。

確かに韓国側はGSOMIA破棄決定の理由を「日本の輸出管理の見直し」としている。韓国としては日本側が見直しを撤回しない限り、GSOMIAの破棄決定を撤回することはないと繰り返し主張しているので、輸出管理の担当外である鄭国防相からすれば「それは外交で…」と言わざるを得ないのだろう。そうなれば防衛相同士の会談でGSOMIAをめぐる議論に進展が望めるはずもない。

河野大臣も会談後の会見で「韓国側が日米韓の連携が必要だという認識は一致しているのであるならば、韓国側は賢明な対応を取る必要がある、と申し上げた」と明らかにし、あくまで対応をとるのは韓国側だと強調した。

その後、開かれたアメリカのエスパー国防長官を交えた日米韓3か国の会談でも、韓国はアメリカから破棄の撤回を促されたが、結局議論は平行線をたどった。

苦しい立場の韓国 すでに破棄時の「予防線」を準備?

苦しい立場に追い込まれている韓国側だが、現地バンコクでそれを物語る場面があった。日韓・日米韓の会談後に開かれた鄭国防相と韓国メディア記者との懇談会で、国防相は下記のように述べた。

・残念なことにならなければ良いが、外交的に多くの努力をしていると知っている。結果を見守ってくれ
・GSOMIAは米韓同盟の象徴で、戦略的価値が多かった。 アメリカ側もそのように考えていて、日本側に圧迫を加えた。私たちにもGSOMIA維持するようにしろと(圧迫を加えた)。アメリカの立場では日米韓の協力の維持が重要なので(圧迫を)強くしている。 私たちにだけなく日本にも強くしている

「残念な結果にならなければ良いが…」という、もはや他人事のような表現も気になるところだが、アメリカは自分たちだけでなく、日本にも強く圧迫を加えているという点を繰り返し強調している。
GSOMIAの破棄が中国・北朝鮮を利することにつながると考えるアメリカはこれまで「強い懸念と失望を表明する」などと異例の強い表現で韓国の決定を非難してきた。こうした状況の中でも、アメリカと関係が悪化しているのは自分たちだけではないということを強調したいのだろう。ある軍事専門家は実際に破棄された場合、「アメリカ政府から強い遺憾、失望などの立場が発表されるだろう」と指摘する。こうなった場合、その矛先は自分たちだけではなく、日本にも向かうのだ!と、すでに実際に破棄された時の「予防線」を張っているように感じてしまう。

文政権の支持層の半数以上がGSOMIA破棄に「賛成」

韓国としては、このまま何の“見返り”もなく破棄を撤回すれば、国内世論に示しはつかないだろう。文在寅政権の選択が失敗だったと証明してしまうことになるからだ。国内の経済問題やチョ・グク前法相をめぐる一連の疑惑などで政権支持率が低調となる中で、大きな打撃となるのは間違いない。さらに韓国の世論調査会社が18日に発表した調査結果によると、「55.4%」がGSOMIA破棄決定を維持すべきと回答した。これは6日の調査よりも7ポイント上昇している。特に文政権を支える与党支持者はおよそ9割が破棄決定を維持すべきとの回答だった。韓国では来年4月に政権の「中間評価」ともいえる総選挙が控えている。このような状況の中で、文政権が破棄撤回を決断する可能性は低いといえるだろう。韓国政府は河野大臣が求める「賢明な判断」を下せるのだろうか。残された時間はあとわずかだ。

FNNソウル支局 川村尚徳

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