SNSを利用していると、コミュニケーションに時折「難しさ」を感じることがある。

例えば、チャット形式のアプリでは「調子どう?」などと短い文言でやりとりすることが多く、Twitterであれば、一つの投稿が140文字以内(海外では280文字)に制限されている。その結果、自分が伝えたい内容と違った捉えられ方をされることも珍しくはない。

SNSでは些細な書き込みがトラブルにつながる

このような状況は、データにも表れている。総務省が2015年にまとめた「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」では、調査対象者1178人のうち、約15%がSNS上でのトラブルを経験。SNS利用者が多い20代以下では、約26%が遭遇している。

SNS上でのトラブル経験の有無(出典:総務省)
SNS上でのトラブル経験の有無(出典:総務省)
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注目したいのはトラブルの内容で、理由の上位には「自分の発言が自分の意図とは異なる意味で他人に受け取られてしまった」「自分は軽い冗談のつもりで書き込んだが、他人を傷つけてしまった」などと、些細な書き込みが自分の意図とは違う伝わり方をしてトラブルを招くケースが目立った。

トラブルの内容(出典:総務省)
トラブルの内容(出典:総務省)

対面の会話であれば、表情や声のトーンから相手の感情を読み取ることもできるが、文章ではそこが伝わりにくい。だからこそ、LINEの「スタンプ」機能のように、文字だけでは表現しにくいニュアンスを伝えられる手段が受け入れられているのだろう。

それでも、SNSでのコミュニケーションから言葉自体がなくなることはないだろう。相手を傷つけずに自分の気持ちを伝えるには、どんなことに気を付ければよいのか。元教師でもある、ITジャーナリストの高橋暁子さんに話を伺った。

同じ言葉でも文章にするときつく感じることも多い

高橋暁子さん
高橋暁子さん

――SNSでトラブルが起きてしまうのはなぜ?

SNSでは文章中心のコミュニケーションとなりますが、そもそも文章でのコミュニケーションは難しいものです。文章力や読解力が必要な上、誤読も生まれやすいのです。対面でコミュニケーションする場合は、相手の反応を見てフォローなどできますが、SNSでは顔が見えず声も聞こえないため、気持ちが伝えにくい上、相手の反応も分かりません。それ故、気持ちの行き違いなどが起きやすく、トラブルにつながりやすいのです。


――誤解はどんなときに生まれる?

言葉足らずが誤解を生むことは多く、同じ言葉を話しても、文章に変えるときつく感じることも多いです。自分の気持ちが伝えられず、すれ違いにもつながります。

実際の話では、PTAの会費をめぐる連絡がトラブルを招いたことがあります。会費を徴収した人が「会費が余ったので次回に持ち越します」と投稿したところ、別の人が「お金を多く取り過ぎちゃったね」と反応し、徴収した人が「非難された」と感じ、トラブルになってしまったのです。

このケースでも、対面だと悪意のなさや「ムッ」としたことが伝わりますが、文章だと「非難された」ことだけが伝わり、相手の心証を害してしまいます。このような投稿をしてしまったときは、そのつもりがなかったこと、言い過ぎだったことをフォローするべきでしょうが、相手の反応が見えないため、気持ちが届かないことも多いです。


ネガティブなメッセージのやりとりには向いていない

――SNSで適さない言葉遣いやコミュニケーション方法は?

例えば「バカだな」という言葉も、笑って優しい口調なら、愛情を込めた軽口と分かります。ところが「バカだな」とSNSで送ると、相手は単純にけなされたと感じます。顔が見えず、声も聞こえないため、「バカ」という情報のみが伝わるのです。普段は問題が起きない軽口などでも、相手を傷つける可能性が高くなるでしょう。

SNSはポジティブなメッセージ、連絡事項、報告など、明快なやり取りを伝えることに向いています。逆に複雑なこと、感情が絡むこと、ネガティブなメッセージなどのやりとりには向いていません。そのようなことは、トラブルを避けるために対面で伝えるべきではないでしょうか。


対面での会話と言葉だけでは伝わる情報が違う(画像はイメージ)
対面での会話と言葉だけでは伝わる情報が違う(画像はイメージ)

――公開対象や人数などで気を付けることはある?

グループチャットの場合、1対1と同じ感覚で時間を気にせず投稿すると、迷惑になることもあります。LINEなどのアプリはプッシュ通知にしている人が多いためです。送るメッセージは厳選し、時間帯も固定電話にかける常識的な時間(9時~21時くらいまで)に限定するべきではないでしょうか。

例えば、チャットの参加者全員が「了解」とメッセージを送れば、通知の嵐となってしまいます。決定事項や肝心な話を知りたい人にとっては、コミュニケーションや噂話ばかりが続くと、うんざりすることもあるでしょう。SNSの連絡に求める内容は人によって違うので、グループチャットは必要最低限の話題、お喋り的なやり取りは1対1にとどめるなど、望まないところには伝わらないようにするべきでしょう。不特定多数に発信する場合は、さまざまな価値観や考えを持つ人が見るので、内容にも細心の配慮が必要です。


――SNSにもさまざまな種類があるが、この点では?

連絡事項などは、LINEやFacebookのメッセージなど、限定された場でやり取りすることをお勧めします。Twitterなど不特定多数が見る場所では、さまざまなリスクにつながる可能性があるからです。

実際にあった例では、10代の女性がTwitterで「○○に何時集合ね」と友人に連絡したところ、当日の待ち合わせ場所に知らないおじさんが待っていたことがありました。個人的な連絡は、ダイレクトメールなどの閉じられた空間でやりとりするべきでしょう。


傷つけてしまったときは対面での謝罪を

――相手を傷付けないためには?もし、傷つけてしまったときは?

相手の立場や気持ちに立って最大限の注意を払い、読み返した上で投稿をしましょう。SNSは顔が見えないので、リアルタイムのようでリアルタイムではありません。人間関係が構築できていないときにやりとりすると、トラブルにもなりがちです。

もしも失敗してしまったときは、なるべく対面で謝罪するようにしましょう。相手が気分を害しているのであれば、「ごめんなさい」などと自分の本意を伝えるべきです。若い子の場合は、共通の知り合いに仲介してもらうのも一つの方法です。


――ネットと現実では言葉遣いも違うことがあるが?

ネットの言葉や表現にはきついものもあり、受け入れられない人はいます。年齢を重ねた人だと違和感を覚えたり、失礼だと感じることもあるでしょう。相手を選び、内容も推敲するべきです。ネットの流行語などを送る場合も、親しい間柄で「この子なら大丈夫」と思える相手に限定するべきでしょう。


SNSはあくまで「おまけ的」なツール

――SNSユーザーに伝えたいことは?

SNSはあくまで、現実の人間関係ありきの存在だと思います。なかなか会えない人や一度会った人にまた会うためだったり、会わない間の情報交換に使うなど、リアルを補完する「おまけ的」なツールです。生活の全てになると、振り回されてしまうでしょう。SNSは実際の生活や人間関係を潤すために使い、大切なことはリアルでしっかり伝えるなど、上手に使いこなしてください。


相手を傷つけたときは対面での謝罪が大切(画像はイメージ)
相手を傷つけたときは対面での謝罪が大切(画像はイメージ)

SNSは手軽さが魅力の一つだが、思うままに書き込むと周囲を傷つけたり、傷つけてしまったことすら気付かないリスクも伴う。画面に映し出されたアカウントの向こう側には、一人一人の人間がいることを忘れてはならない。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。