自分がいつも通りかかる場所に、ある日突然見知らぬ画があったり、何か変わった物が置かれていたりしたら、「これは一体…何だろう?」と首をかしげてしまうことだろう。近づいてまじまじと見つめたり、写真に撮って友だちに見せたりするかもしれない。
そんな光景が実際、とあるマンションの一画でも起きていたのだ。
まずはこちらの画像を見てほしい!
「僕の住んでいるマンションは、水道屋のマグネットが投函されるたびに、住民が一丸となって「顔」を作るという謎のイベントが始まります」
というコメントともに投稿された画像には、なんとフジテレビが放送するバレーボール大会のマスコットキャラクターで、現在熱戦展開中のワールドカップバレー2019でも活躍中のバボちゃん!
元気に両手をかかげているところも含めて高い再現度で、「バボ」と名前もしっかり添えられている。その画を構成しているのは「水もれ つまり 即解決!」などのキャッチコピーとともに、「0120」から始まる電話番号が大きく書かれたマグネットだ。
どうやら、この画は水道サービスの広告用マグネットを使い、マンションの「管理室」のドアに作り出されたもののようだ。
この興味深い作品には、「バボみが深い」「 うちのマンションでも流行らせようかな〜。。。」「住民たちの結束力とノリの良さが推せるw」などというコメントが寄せられ、10月9日時点で約1万8000のリツイート、約6万7000のいいねが集まっている。
投稿主は、実家が全焼したサノ(@sano_sano_sano_)さん。 実家の全焼に加えて、大学院で経営学を学ぶも経営していたバーが潰れるなど、波瀾万丈な経験を送った後、現在は「新橋のサラリーマン」なのだという。
実は、サノさんがこうした「画」に触れたのは、今回が初めてではない。
実は6月に、マンション住民が製作したというマグネットの「顔」をTwitter上で紹介したところ大きな反響を呼んでいた。
その際に、「笑顔で挨拶してくれるおじさん、いつも忙しそうなお姉さん、みんな『顔』作ってるくせして、そんな素振りは一切見せません。なんだろう、このマンション。」とコメントしているように、どうやら住民たちが一堂に会して作ってるのではなく、住民の誰かもしくは住民たちが人知れず作成しているという、まさに「謎のイベント」なのだ。
そしてこの6月の投稿が、マンション住民の気を引くこととなり、“新しい作品”が定期的に作られるようになったようなのだ。
そうなると気になるのが、これらはいつから作られるようになったのかということだ。そして、「顔」の製作でつながっている住民同士の関係はどのようなものなのだろうか?
いろいろと疑問が尽きず、サノさんに詳しく話を聞いた。
マグネットの“顔”は住み始めた2年前から既に存在
――まず、現在住んでいるマンションはどんな環境なの?
都内、としか言えません。すいません。
――住民が作っているという「顔」に気づいたのはいつから?
2年前、ここに住み始めた頃からです。
――では、初めて投稿した6月以前には、もう「顔」はあったということ?
ありました。
――この「管理室」というのはどこにある?
マンションの1階、入り口すぐのところです。
――何人ぐらいで作っていて誰がやっているのか、分かっているの?
見当もつきませんが、同じマグネットが複数あるので、複数人でやっています。
―― この「顔」はどのようにできている? 気づいたら新しくなっているの?
徐々に変わって組み立てられていく場合がほとんどです。 気づいたら、少しずつ変化しているといった感じです。
――製作現場を実際に目撃したことはある?
ありません。
住民は挨拶程度の間柄なのに、この連帯感「不思議だな」
――今どのくらいのペースで作られている?
月1のペースです。
――この「顔」は1回につき、どの位の時間がかかっているの?
製作現場を見ていないので実働はわかりかねますが、およそ1週間かけて完成することが多いです。
――サノさん自身も「顔」づくりに参加したことがあったりする?
ありません。
――マンションの住民同士の交流は?
こちらもありません、挨拶程度です。
――この連帯感についてどう思う?
不思議だなと思います。 住民がマグネットで顔を作るのも、定期的に顔が変わるのも、住民が定期的に入れ替わっているのに、なんとなくみんな参加しているのもみんな不思議です。
――「顔」の投稿は毎回好評のようだが、そのことについて感想は?
マグネットでのコミュニケーションは、ネットとリアルのちょうど間のようなコミュニケーションだと思っていて、その絶妙な距離感が多くの人から共感いただいているのかな、と思います。
――最後に、「顔」を作っているマンションの人たちに一言を。
いつも不思議で素敵な気持ちにさせてくれてありがとうございます。
管理室のドアで行われるマグネットでの「顔」製作は、住民たちがお互いに示し合わせたわけでもなく、どうやら自然発生的な形で発生したコミュニケーションのようだ。2年間住んでいる投稿者もその製作風景を一度も見たことがないということなので、謎は深まるばかりだ。
住民の誰がどんな目的で行っているかの核心には辿り着くことができなかったが、こんな住民同士の奇妙な結束感は見ているだけでも興味深い。。住民同士の付き合いが希薄化したとも言われて久しいが、こんな“ゆるい関係”が今の時代には合っているのかもしれない。
(画像提供:「実家が全焼したサノ」さん)