赤ちゃんの頭はどんなにおい?

赤ちゃんはいい匂いがするとよく言われるが、皆さんはどんなにおいか言葉で表現できるだろうか?

そんな赤ちゃんのにおいに関する化学的な研究を、神戸大学大学院理学研究科の尾崎まみこ教授らが発表し話題になっている。

それは頭のにおいに関する研究で、生後間もない赤ちゃんの頭から「におい」を採取する方法を開発。その化学構成を世界で初めて明らかにし、化学分析結果から「生後1時間以内の赤ちゃんの頭のにおい」、「2、3日後の新生児の頭のにおい」、「羊水のにおい」を模した調香品を作り、出生後の時間経過による「におい」の変化や羊水の「におい」との違いを人がどの程度識別できるかを62名の成人男女でテストして調べたという。


その結果、新生児の頭と羊水の匂いは、それぞれ化学的に違いがあるだけでなく、感覚心理学的にも識別可能であることが判明。また、生後の時間経過とともに新生児の頭の匂いは、感覚心理学的に判別できるほどに変化していくことがわかったのだ。

では赤ちゃんの頭はそもそも、どのようなにおいがするのだろうか。そして、化学的に解明する研究は今後どのようなことに活かされるのだろうか。神戸大学大学院理学研究科の尾崎まみこ教授にお話を伺った。

爽やかフルーティーな中に少し脂っぽいにおい

――赤ちゃんの頭のにおいはどのようなにおい?

概して良いにおいとの評価が得られています。爽やか、フルーティーな中に、少し脂っぽいニュアンスをもつにおいです。


――「生後1時間以内の赤ちゃんの頭のにおい」「2、3日後の新生児の頭のにおい」「羊水のにおい」はそれぞれどのようなにおい?

匂いの言語表現は難しいです。新生児に比べ経日児の匂いは、脂っぽい匂いが増す分、爽やかやフルーティーな匂いから、穏やかな温い厚みのある匂いに徐々に変化していくようです。羊水の匂いは実物を嗅いでいただかないと言葉で伝えることはできないです。よく想像されがちな生臭い、獣臭いにおいはしません。


――なぜこのような研究をしたのか?

昆虫の研究に端を発したフェロモン研究の歴史が約60年になる現在も、「におい」による人 (ヒト)のコミュニケーションについてはよくわかっていません。新生児が発する「におい」の、始原的コミュニケーション手段としての存在と働きについては、出産・育児の経験中に主観的に気づくことはあっても、実際に化学的に調べるには倫理的問題や技術的問題を解決せねばならず、ほとんど着手されてきませんでした。近年、新生児の肌着の匂いが女性に好ましい心理的効果をしめすことが報告されましたが、決め手となる「におい」の探索もされず、脳計測などによる生理学的裏づけも乏しいままでした。

我々は実際的な問題を克服するため、2年前から分野横断的な研究体制を組み、議論を深めながら専門性を活かした対策を講じてきました。 本研究の核心をなす問いは、受動的な存在と思われている新生児が母親や父親らにむけて、生まれつき持っている「におい」を発することで、それが始原的コミュニケーションの鍵刺激となり、ごく初期の社会関係性を生みだすと仮定した場合、どの「におい」が、どのような効果を示し、どのような仕組みで両親らの愛着情動やケア行動を促しているかを知ることが主要なゴールとなります。

なお「始原的コミュニケーション」という言葉は、言葉やしぐさといった通常のコミュニケーション手段が未発達な赤ちゃんが他者とコミュニケーションをとる方法があるとした場合、人の発達過程を遡って使われていた可能性のあるコミュニケーション手段が、赤ちゃんにおいて使われている可能性があるという仮定の下に使われています。

新生児のにおいによる心理的効果

尾崎教授「育児放棄防止などに繋がれば」

――赤ちゃんの頭のにおいをどのようにして化学的に解明した?

浜松医科大学の倫理規定に則り、同大学と協力して、母親の同意のもと、生後1時間以内と2、3日後の新生児の頭5例の「におい」を非侵襲なモノシリカ吸着剤を用いたストレスフリーの手法で採取しました。同時に、母親の羊水の「におい」2例をヘッドスペース法で採取しました。これらの「におい」サンプルを分析し、37種の成分を同定しました。

同定できたことで、赤ちゃんの頭の匂いを構成している化学物質とそれぞれの構成比率が判明しました。この結果、人工的に赤ちゃんの頭の匂いを合成する処方が分かり、調香品を使った心理テストなどのいろいろな研究ができていきます。


――赤ちゃんの頭のにおいを化学的に解明したことは、どういったことに活かすことができる?

赤ちゃんのにおいに総じて好ましい、あるいは、やさしい感覚を誘起する働きがありそうだということが、心理実験から分かったことが大きな成果です。

今後、化学と心理学の両面からその特徴や個性の表出を明らかにし、赤ちゃんが言葉を発する以前の親子間の生得的(本能的)コミュニケーションや、健全な親子の絆形成への寄与を証明することにより、この研究が、深刻な社会問題となっている育児放棄や愛着問題などに対する提言、防止策などに繋がっていくと期待されます。

赤ちゃんは“もともと「嬉しい」などのポジティブな感情を親が持つようになるにおい”を発しています。つまり、親が穏やかにそのにおいに接する機会を多くもつことで円滑な育児ができるようになる可能性があります。

特に新米パパママだと気になっていたかもしれない赤ちゃんの頭のにおい。「爽やかフルーティーで、少し脂っぽいニュアンスをもつにおい」と聞き、さらに赤ちゃんの頭のにおいに興味を持った人もいるのではないだろうか。

今回の研究で、赤ちゃんが“ポジティブな感情を親が持つようになるにおい”を発していることが分かった。このにおいを活用できるような研究が進むことで、育児放棄などの防止となり悲しい事件がなくなることを期待したい。