職場で同僚から現金1万円を盗んだ疑いで今年9月、高知市内の病院に勤める看護師の女(24)が逮捕された。職員用の休憩室で、置いてあったリュックサック内の財布から1万円札を抜き取ったという。
同僚は6月にも職場で5000円が無くなり警察に相談。防犯カメラの映像や勤務状況をもとに捜査したところ、逮捕容疑の犯行が発覚した。
調べに対し、看護師の女は容疑を認め「何回も盗みをしたうちの1つです」と供述したという。
職場や学校での窃盗はリスクが高そうなのになぜやってしまうのか?
心理学のスペシャリストで、犯罪心理学にも詳しい、明星大学の藤井靖教授に話を聞いた。
「身内だから疑われない」思い込みと“職場のストレス”
【明星大学心理学部 藤井靖教授】
職場や学校は、閉鎖的なコミュニティです。このことが、「自分は内部の人間だから疑われないんじゃないか」とか「被害にあっても仲間内で波風を立てたくないから警察沙汰にしないだろう」と、思い込んでしまうのです。
これは“楽観的認知バイアス”といって、悪いことが起きる確率を過小評価し、「自分だけは大丈夫」と考えます。しかし根拠のない勝手な解釈にすぎません。
また、職場に対するストレスが関係していることも考えられます。
「自分は頑張って働いているのに評価されていない。不公平だ」という“組織的不公正感”を抱くことで、「会社や周囲が悪いのだから、自分は少しぐらいお金を盗って報われてもいいだろう」と、身勝手な“被害者意識”で「窃盗行為を正当化」してしまうのです。
“たまの成功”&“どうにでもなれ”で盗みを繰り返す
なぜ盗みを繰り返すのか。実は「たまにしか成功しない」ことが「その行動を長続きさせてしまっている」といえます。
今回でいうと、犯行場所の休憩室は多くの人が出入りするので、自分が盗もうと思った時に毎回やれたわけではないでしょう。おそらく「今日は人がいたから盗めなかった」と、達成できなかったことの方が多いと思います。
人は、達成感などを経験すると、ドーパミン(神経伝達物質)が放出され、「元気」や「やる気」を生み出します。この脳の神経ネットワークを「報酬系」といいますが、毎回成功するより、たまにしか成功しない方がより強く刺激されるのです。
ギャンブルなども同じで、めったに当たらないからこそ、当たった時の快感が大きい。
これらを心理学で“間欠強化”と言い、「たまに成功するからこそ、脳に大きくプラスに働き、長期にわたって繰り返してしまう」というわけです。
さらに、犯行を繰り返す人には「どうにでもなれ効果」も働いていると考えられます。
これは、一度、ラインを超えてしまうと、「自分は盗みを犯した。もう犯罪者なんだ」と罪悪感や自己嫌悪を持ち、「一回やってしまったのだから、何回やっても同じでしょう」と、次のハードルが下がってしまうのです。
たまにしか成功しないからこそ続けてしまう“間欠強化”と、自分はもう犯罪者なんだからという“どうにでもなれ効果”が重なることで、窃盗が繰り返されてしまうといえます。
今すぐできる防犯対策 カギは「2アクション3秒の壁」
大切なものを盗まれないために、自分で今すぐ簡単にできる対策は、やはり「取りにくくすること」が重要です。犯罪心理学だと「2アクション3秒の壁」。盗むまでに2アクション、かつ3秒かかるようにします。
具体的には、かばんにファスナーがついていれば面倒がらずに毎回閉める。女性用バッグによくあるオープン仕様のものなら、財布を巾着などに入れてからバッグに入れる。奥の方に入れるだけでも効果があります。決して1アクションにせず、「探させる」ということが大事なのです。
また、上着やハンカチを上からかけるだけでも違います。疑われないために元に戻さなければいけませんから、その分、手間が増えることになります。
ちょっとしたことですが、十分に効果はあると思います。
「これだけ簡単に取れるならぱっとやっちゃえ」ではなく「これだけ手間がかかるならちょっと危ないかな」という風に、犯罪者の脳にブレーキをかけさせて下さい。
防犯カメラは「隠す」より「見せる」
「監視の目効果」という言葉があります。目が合うと「見られている」という心理が働き、犯罪や不正を思いとどまらせるというものです。
これは、実際の人の目やカメラである必要はありません。「目の写真やイラスト」のシールやポスターを貼るだけで十分に効果があります。「防犯カメラ作動中」という張り紙も同様です。
ロッカーやデスクに「目」や「防犯カメラ作動中」と貼るだけでも、高い抑止力が期待できますし、防犯カメラを設置する場合は、張り紙も貼った方が効果的です。
また、カメラを設置する場合、「見える設置」と「隠す設置」のどちらがよいか迷われる方もいると思います。
両方に意味がありますが、職場の休憩室などの場合は、プライバシーの問題もあるので、やはり情報をオープンにした方がよいと思います。
カメラがどこにあるかをわかるようにして、できるだけ死角がないよう部屋全体を映す形にする。そしてそのことをみんなに通知する。休憩室で居心地よくすごすためには、その方が良いと思います。
鏡を置くだけで防犯効果あり
休憩室や更衣室には、鏡を置くのも効果があります。
映っているのが自分だと分かっていても、誰かに見られている感覚になるだけでなく、鏡に映る姿を見ることで「自分自身の良心やモラル」に直面させられるからです。
心理学ではこれを“客観的自己覚知”と呼びます。
そもそも悪いことをしている時はドキドキしているので、何かが動いているとか、人の気配があるだけでも抑止力になります。
カメラの設置やロッカーの鍵の取り付けと比べて、鏡の設置は簡単です。安価なものもありますし、身だしなみチェックができ実用的でもあります。
個人でできる対策と、会社がすべき対策と、複合的に実施することで職場での窃盗被害はかなり減らせると思います。
(明星大学心理学部 藤井靖教授)
取材: 高知さんさんテレビ

