失敗を恐れず、楽しみながら。秋田・上小阿仁村の特産品「食用ホオズキ」を守り続ける生産者がいる。豪雨被害や担い手不足といった課題に直面しながらも、「毎日が実験、研究、改善」と前を向く鈴木孝明さん。地域に人を呼び込み、未来へつなぐ挑戦が続いている。
村の特産品を支える農園
上小阿仁村役場から南西に約4キロ。豊かな自然に囲まれた「たじゅうろう農園」では、約1ヘクタールの畑で2500株ほどの食用ホオズキが栽培されている。
食用ホオズキは南米ペルー原産のナス科の果実で、トロピカルな香りと甘酸っぱい味わいが特徴だ。村では約30年前から特産品として栽培・出荷が続けられている。
農園を営むのは、帽子とオレンジ色のTシャツがトレードマークの鈴木孝明さん(72)。
食用ホオズキにはビタミンEやビタミンC、イノシトールなどが含まれ、美容や健康に良い成分が多く含まれているとして、その魅力を発信し続けている。
村のためにできることを
上小阿仁村で生まれ育った鈴木さんは、高校卒業後に秋田市で農業関連の仕事に就いた。
その後、自身の病気や父親の死をきっかけに15年前に帰郷。「村のためにできることはないか」と考えた末にたどり着いたのが、村の特産品である食用ホオズキだった。
鈴木さんが栽培する「ゴールデンベリー」は、糖度が13~16度ほどになり、メロンにも匹敵する甘さを持つ。2026年は天候にも恵まれ、久しぶりの豊作となった。
豪雨被害にも負けない
しかし、その歩みは決して順風満帆ではない。
豊かな自然は恵みをもたらす一方で脅威にもなる。
2025年までの4年間、農園は毎年のように豪雨による浸水被害を受けた。中には水位が1メートルほどまで達した年もあったという。
それでも鈴木さんは立ち止まらない。
肥料の配合や病害虫対策、支柱の工夫など、多くを独学で研究してきた。
「相談する人はほとんどいない」と話しながらも、「失敗は失敗ではなく、毎日が実験、研究、改善」と捉え、試行錯誤を重ねてきた。
その積み重ねが、15年間にわたり食用ホオズキを守り続ける力になっている。
特産品を未来へつなぐ
現在、村で食用ホオズキを出荷・販売している生産者はわずか3人。そのうち鈴木さんの農園が出荷量の大部分を担っている。
特産品を守り続ける難しさを感じる一方で、鈴木さんには希望もある。長男が後継者として農園を継ぐ予定だという。
「このまま続けていくのは大変」と率直な思いを語りながらも、特産品の明かりを次世代へ受け継ごうとしている。
農業がつなぐ世界との縁
農園には国内外から様々な人が訪れる。
この日、作業を手伝っていたのは、フランスから来日した料理人のアントワーヌ・デ・ヨングさん。日本各地を巡りながら農業を学ぶ旅の途中で、上小阿仁村に滞在していた。
その宿泊先は、鈴木さんが5年前に始めた農家民宿だ。空き家を活用した民宿には、国内外から年間約150人が訪れる。
鈴木さんは、宿泊客との交流を「家族が増えたようなもの」と表現する。
農業体験や共同作業を通じて、人と人、地域と世界がつながっていく。農家民宿は地域に新たな交流を生み出す場にもなっている。
「楽農」の心で
鈴木さんが大切にしているのは、「農業を楽しむこと」だ。
楽をする農業、楽しい農業、楽天的な農業、楽観的な農業。その意味を込めて、自らの農業を「楽農」と呼ぶ。
もちろん、すべてが楽しいわけではない。天候に悩まされることもあれば、思うような結果が出ないこともある。それでも前向きな気持ちを忘れず、困難さえ楽しもうとする姿勢が鈴木さんらしさだ。
「食用ホオズキを食べたことのない人はまだまだ多い。地元の人にも、世界中の人にももっと知ってほしい」と話す鈴木さん。
特産品を広めたい。その思いを胸に、鈴木さんはきょうも畑に立つ。食用ホオズキに託された挑戦は、地域を照らす小さくも力強い明かりとなっている。
(秋田テレビ)

