“総数2万点”96歳イラストレーターと元アナウンサーの母娘がつむぐ物語
「この年になって、こんなことあるとは思わんかった」
笑顔で語るのは、松山市在住の山田 久栄さん96歳。
毎日3枚のイラストを描き続け、6年間で2万点以上の作品を生み出してきた現役イラストレーターだ。
そばで支えるのは、テレビ愛媛の元アナウンサーである娘の幸子さん、71歳。
この親子が9月、人生で初めての書籍を共同出版した。
人生で初めての書籍を共同出版
凛とした瞳が魅力の女の子。
こちらは、くるんとカールした髪の毛が特徴的。
輪郭が横にながーい個性的な顔の人物も。
来場者が口をそろえて「かわいい」とコメントするイラスト。
描いているのは…松山市の山田久栄さん御年96歳だ。
「(絵は)90歳から始めたんですよ。毎日ね、3枚くらいは描きますけどね。足は悪いし、目は悪いし、手は動きますけどね、毎日こうやって。手も動かんなったらいけない思ってこうやってね、しているんです」と、久栄さんは笑顔で語る。
6年間、毎日描き続けたイラストは、実に2万点を超える。
山田さんをそばで見守るのは、娘の幸子さん71歳。
幸子さんは、テレビ愛媛の元アナウンサー。
65歳で定年退職し、今は母・久栄さんと2人暮らしだ。

コロナ禍の大ゲンカ、そしてブログという「親子プロジェクト」へ
今でこそ仲良し親子に見える2人ですが、6年前、その関係は危機にあったという。
「2020年のコロナ禍真っただ中に私が定年退職して、それまで一緒にいる機会がなかったのに、毎日顔を突き合わせて。何をやっても“よかったね”とは言ってもらえず、“料理の味がまずい”とか、“この味が薄い”とか言われたりして。お互いの気持ちがとげとげしくなって大ゲンカになって」
幸子さんは、当時の様子をこうしたためた。
エッセイ『リビングで踊るワルツ』より:
「2020年春、母から、ある一言を突きつけられた。『あんたとおっても、全然癒されんのよ』母の姿が歪んで見えた。母は両手で顔を覆い、息を凝らして泣いている。しっかりしてよ、お母さん。このままじゃ私たち、壊れてしまう」
高齢親子2人の6年間をつづったノンフィクションエッセイ『リビングで踊るワルツ』の一節だ。
娘の幸子さんが文章を、母の久栄さんがイラストを担当した、2人の初めての書籍が今月10日に出版された。
出版のそもそものきっかけは、親子仲の改善のためにと始めたブログだった。
エッセイ『リビングで踊るワルツ』より:
「90歳と65歳の生きがいづくりのブログ、スタートです」

ブログは2人の人生に光を灯した
インターネット上で毎日、幸子さんが親子の日々を綴り、久栄さんの得意な俳句と味のあるイラストが個性を添える。
この二人三脚の「親子プロジェクト」が、母と娘の関係を大きく変えたという。
「一緒にやるようになったら、今度は母のほうがイラストに夢中になった。一緒にブログ発信をするようになって、相談しなきゃいけないし、相手の力、創作者としてのパワーを身近に感じると、尊敬するし、一緒に同じものを送り出すのは同志にもなるし」と幸子さん。
お互いを認め合って紡ぐブログは、2人の人生に光を灯した。
久栄さんも「やっぱり、なんかあったら生きがいになりますね。やりだしたらね、負けず嫌いでね。最初はね、若冲なんかも何回破って捨てたかね」と、イラスト制作に夢中な日々を振り返る。
高齢で外出が難しい久栄さんは、図録を見ながら、江戸時代の絵師・伊藤若冲や歌川広重の作品を模写するなど、絵を描くことに熱中。
ベッドに横になる時間が長かった日々は、リビングで筆を走らせる日常へと変わった。
幸子さんは「90歳過ぎてからでも、これだけ人は自分が好きなものに向かったら、どんどんよくなるんだっていうのは、いろんな人たちに知ってほしいなと思って」と、熱く語る。

「ばあばのイラスト人物図鑑展」
そして今年3月、幸子さんは、地元の出版会社に自ら売り込み、親子2人の6年間を書籍化した。
松山市内の書店で開催されている「ばあばのイラスト人物図鑑展」。
ばあば、こと、久栄さんの豊かな空想から生まれた愛らしいキャラクターたち、約20点が出迎える。
展示会初日から、さっそく2人のファンが駆け付けた。
ファン:
「この絵を売っていただきたい。飾りたい」
「幸子さんとちょうど同い年なんです、私も71で」
「母も生きてたらそれくらい。81で亡くなったから。おかあさんに長生きしてもらいたいですね」
親子2人の生きがいづくりは、いつしか、勇気や希望のメッセージとして多くの人の心に届いていた。

『人生はいつだって春にできる』
幸子さんが本の結びにつづったのは、『人生はいつだって春にできる』という一言。
幸子さんは「人はいくつになっても自分が好きなことを見つけて、それを一生懸命やっていれば、自分のことも大切だし、誰かと一緒に住んでいれば、誰かのことも大切に思えるようになるっていうのを今になって感じるようになり、なんとなく小さな人生のヒントになるのかもしれないって思って。きょうもね、楽しくやろうねっていうのが二人の合言葉で」と語る。
71歳と96歳の2人は、「親子」であり「バディ」。
「老い」や「介護」「定年後の孤独」といった現代社会の困難なハードルも、手をとりあいながら軽やかに飛び越える。
それはまさしくワルツを踊るように…。
久栄さんは言う。
「はじめから終いまでやるいうのが私の性格で、この絵も死ぬるまでやめません」


