運転免許を返納した80代女性を乗せ、300円で自宅の玄関先から郵便局まで送迎…永平寺町内を走る「近助タクシー」は、二種免許不要の町民ドライバーが支える“地域の足”だ。2020年の本格運行開始から6年。当初はコミュニティバスの4倍の利用者数を記録した地区もあった一方、人口減少とともに近年は利用者数が伸び悩んでいる。見えてきた成果と課題を取材した。
「ドアtoドアに近い交通を」町民の声が生んだサービス
人口1万7000人あまりの福井・永平寺町。町内ではコミュニティバスや路線バス、地域鉄道が運行しているものの、自宅からバス停まで歩けない高齢者や、鉄道の駅から遠い地区の住民にとって、必ずしも利便性が高くはない。
「ドアtoドアに近い地域交通の運行をして欲しい」という依頼を受け、町は2020年に「近助タクシー」の本格運行をスタートさせた。近助タクシーは、片道料金が大人300円、小中学生50円。自宅から町内の公共施設まで、平日なら日中の好きな時間に利用できる。
一般のタクシーと大きく異なる点は、二種免許が必須でないこと。国に自家用車を使って有償で人を運ぶ「自家用有償旅客運送」の申請をし、運行している。このためナンバープレートも緑ではなく白。ドライバーの条件はただ一つ、永平寺町の町民であることだ。

「新しい地域交通を支えるため、行政主体ではなく、地域の方が地域を支えることを当初からモットーとしていた」と町の担当者は語る。
「気兼ねしなくていい」利用者の声
運転免許を返納した80代の女性は、買い物や通院などで週に何回か「近助タクシー」を利用している。「玄関から玄関まで送ってくれますので、大変助かっています」と話す。
家族や知人に頼むことへの遠慮も、近助タクシーなら感じなくて済むという。ドライバーも「身内に頼むのは気兼ねするというお年寄りは、けっこういますね」と共感する。
ドライバーと利用者の間では自然と会話が生まれ、地域のつながりも深まっている。
人口減少で利用者減も…だからこそ運行継続を
2020年の本格運行開始から6年で、町の人口は1000人近く減少し、2024年からは利用者数が伸び悩んでいる。
小学校の送迎利用があったが、児童数が減ったことも一因。加えて高齢者の利用も減少しているという。
「利用者が一部で固定化されていて、数年前まで利用していた人が施設に入ってしまった影響もある」と担当者。
それでも、電車やバスでは採算が取れない地域だからこそ、利用者の減少を理由に運行をやめるわけにはいかない。
町は高齢者のサロンなどでPRし「一度乗れば利便性が高く、乗りやすいもの」であることを伝え続けている。

ドライバーを務める地域住民も、その思いを原動力に走り続けている。「歩くのが大変な人たちが病院に行くのによく利用してくれるので、その人たちのためになってるんだなという気がしている」と話す。
福井県内では現在、永平寺町のほか8市町で手薄な公共交通機関を補うため自家用有償旅客運送が導入されている。

人口が減る中、バスの減便や撤退がこれからも増える可能性があり、交通事業者だけではカバーしきれない地域住民の移動を地域で支えるという、新しいスタイルが今後も広がりを見せるかもしれない。

