鉄道界のカーオブザイヤー、「ブルーリボン賞」を2026年に受賞したのは、広島のデザイン会社・GKデザイン総研広島のシニアディレクター、鈴木スバルさんが手掛けた路面電車「KYOTRAM」(モボ1形)。嵐電の愛称で親しまれる京福電鉄の24年ぶりの新型車両として誕生したこの車両には、京の街への深い愛情と、こだわり抜いたデザインの秘話が詰まっていた。
「社長に抱きついた」 悲願のブルーリボン賞
GKデザイン総研広島のシニアディレクター、鈴木スバルさんは、受賞の知らせを受けた瞬間をこう振り返る。
「うれしかったですね。会社でその電話を受け取ったんですけど、社長に抱きつきに行きました!」
鉄道友の会が前年に運行開始した車両から選んで表彰するブルーリボン賞は、鉄道界で最も名誉ある賞とされる。「ローレル賞は取ったことがあったんですけど、ブルーリボン賞はやっぱりトップというのもあるし、一両だけの路面電車が受賞というのもかなり珍しいケースなので」と鈴木さん。格別の喜びだったという。
原点回帰の丸いフォルム 「街に溶け込ませたかった」
KYOTRAMの最大の特徴は、前面の丸っこいフォルムとくりくりとしたライト。しかし当初のデザイン案は、在来車に近い全く異なるものだったという。
転機となったのは、依頼を受けた鈴木さんが京都の町を自分の目で歩き回ったことだった。「住宅と住宅の間を通っていくし、ものすごく狭い駅があったり、街との距離がめちゃめちゃ近い。現代的で合理的なインフラ的電車がこの街の姿にマッチしているのかな、と疑問に思って」。
街に馴染む本来的な路面電車の姿を求めた末に、あの丸みが生まれた。「新しいようで、実は原点回帰」と鈴木さんは言う。さらにヘッドランプにも工夫を凝らし、白い「瞳」の部分を広げることで、可愛らしい表情を演出。命が宿ったような個性あるキャラクター性が生まれた。
「京紫」に込めた哲学 試作を重ねた内装デザイン
外観だけではない。車内の内装にも鈴木さんの哲学が宿っている。
モノトーンをベースに、随所にイメージカラーの「京紫」をアクセントとして配置した空間。注目は優先席の配色だ。「優先席って目立つ色を使って、一般席にブランドカラーを使うのが一般的なんですけど、今回は京紫のブランドカラーを優先席に、あえて使ったんですよ」と鈴木さん。優先される方が「ドギツイ色のところに行くわけじゃなくて」、かつ空間全体を明るくしたいという思いからの大胆な逆転発想だった。
座席のモケット生地は、嵐山の竹林を由来とする伝統的な「網代格子」をベースに、嵐電の新シンボルマークをさりげなく織り込んだ「嵐小紋」と名付けたオリジナル柄。色や手触りを追求して、数多くの試作を重ねた。7両しか製造しない車両のため大量発注ができない制約の中、それでも「車両ブランドを作っていきたい」という熱意が細部に宿っている。
「愛してくれている」 街と育つKYOTRAM
鈴木さんはKYOTRAMと対をなす存在として、同じ京都を走る叡山電鉄の観光列車「ひえい」(2018年デビュー・ローレル賞受賞)も手掛けている。「ひえい」が観光の比重を重視したデザインであるのに対し、KYOTRAMは「もっと街に」というコンセプト。ふたつの車両は、鈴木さんにとって「対になった存在」だという。
運行開始から1年以上が経ち、地元ではKYOTRAMをかたどったプランターが置かれるなど、車両が街に根付き始めている。「そういうのがずっと続くといいなと思っていますね」と鈴木さんは目を細める。伝統の京紫をまとった丸みある車体は、これからも嵐電の新しいスタンダードとして、京の都の風景に溶け込み続けることだろう。
テレビ新広島

