バスキアから学ぶ、時代に求められる“ニュータイプ”になる方法

カテゴリ:ビジネス

  • 時代は「『役に立つ』から『意味がある』」へシフト
  • 「ニュータイプ」になるために必要なものは喜怒哀楽
  • 時代が変わっても「ニュータイプ」であり続けるためには…

夭折の天才として知られるアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア。彼の作品は現代美術史の流れの中に位置付けるのが難しいといわれるほどオリジナリティに溢れており、近年、ますます評価が高まっている。

世界各地から集めた約130点の絵画やオブジェなどを展示する、現在開催中の『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』を著作家・山口周さんが鑑賞。

著書『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)で説いた「ニュータイプ」とバスキアを対比しながら、これからのビジネスシーンで必要な思考や行動様式を聞いた。

(聞き手・永尾亜子アナウンサー)

ジャン=ミシェル・バスキア Untitled, 1982 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Artwork (C) Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

「意味があるもの」は生きがいを与えてくれる

ーー著書『ニュータイプの時代』では、これからの時代に求められる思考として「『役に立つ』から『意味がある』」にシフトしていくと述べていましたが、この違いについて教えて下さい。

「役に立つ」というのは不便や不満を解消するもの、問題解決をするものです。たとえば、食べ物が腐ると困るから開発されたのが冷蔵庫、洗濯の手間を軽減するために生まれたのが洗濯機です。

一方で、「意味があるもの」は、平たく言うと人生を豊かにしてくれるもの、生きがいを与えてくれるものです。たとえば、荷物を運ぶためや移動するためだけの自動車ではなく、“この自動車が自宅のガレージにあると思うと嬉しくて仕事が頑張れる”といったものが「意味がある」もの。同じ自動車でも前者と後者では全然違いますよね。そして「役に立つ」ものは昨今どんどん値段が下がっていますが、「意味がある」ものの値段はどんどん上がっています。

ーー「役に立つ」ものよりも「意味がある」ものに価値が生まれるのはなぜでしょうか?

今は生きがいが失われがちな時代です。なぜかというと、役に立つものがどんどん生まれて文明が進化し、便利になったおかげで、私たちは「今日をどうやって生き残るか」といった心配をしなくて済むようになった。その結果、生きがいや働きがいを感じにくくなってしまった。不便さや不満がたくさんあった時代よりも心を病む人が増えているというのはそういうことです。生きがいや働きがいの意味が失われている。

経済学の原則では需要よりも供給が足りないものに価値が生まれますから、なんらかの意味を作れる人や組織に経済的な価値が生まれるんです。バスキア作品もまさにそうで、僕も今回の展示を見て、欲しいと思う作品がいくつかありましたが、それはつまり、“家にあの作品があるとうれしい”と思ったから。そういった意味で、絵画は「意味がある」ものの究極だと思います。

バスキアは「ニュータイプ」か

ーー著書では、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」へのアップデートの必要性も説かれていますが、「ニュータイプ」とはどのような人材でしょうか?

先ほどの枠組みでいうと、意味があることの価値を作ることができる人、なんらかの問題を見つけられる人、少なくとも見つけようとしている人がニュータイプ。与えられた問題を解くことに価値を見出す人、問題をただ待っている状態の人はオールドタイプです。

ーーバスキアと「ニュータイプ」に重なる部分はありますか?

バスキアが既存の評価軸を無視して、アートの世界に出てきたという点でニュータイプ的だなと思います。それまでのアートは、デッサンや油絵のトレーニングを積んで上手いか下手かといった尺度だったけれど、そういう世間のものさしに自分を当てはめることなく、直感や感情にどこまでも忠実でそれを表現した。オールドタイプは古いものさしで判断してしまうので“トレーニングを受けていないから”とコンプレックスを感じて、自分のやりたいことにフォーカスできないんです。

「ニュータイプ」になるために必要なもの

ジャン=ミシェル・バスキア Onion Gum, 1983 Courtesy Van de Weghe Fine Art, New York Artwork (C) Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

ーー山口さんの目に現在のビジネスパーソンはどのように映っていますか?

アカデミックな絵画のトレーニングを積まないとキャンパスに向かってはいけないと思い込んで、苦手な作業を粛々としている気がしますね。また、課題があれば描けるけれども“好きなように描いてください”といわれると何を描いていいのかわからなくない人も多いと思います。

ーー課題を与えられたら取り組むけれども、自分でテーマを見つけるのが苦手な人が多いということですね。ニュータイプのビジネスパーソンになるためにはどうしたらよいでしょうか?

おそらくバスキアをはじめ多くのアーティストに共通することだと思いますが、喜怒哀楽の感情をしっかりと持つこと。バスキアの作品を見ていると「これは喜びに溢れているな」とか「怒って描いているな」ということが感じられると思います。

それはなぜかというと喜怒哀楽は人の共感を呼ぶからです。たとえば、ある問題に憤りを抱えていて、それをどうにかして解決したいと思って生まれたビジネスや、こういうものがあるとうれしいと思って作られた製品には、同じ思いや感覚を持っている人が顧客になってくれる。共感がビジネスを作る上で重要になります。

「ニュータイプ」であり続けるためには…

ジャン=ミシェル・バスキア Untitled, 1982 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Artwork (C) Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

ーーニュータイプのビジネスパーソンになるためには喜怒哀楽が重要ということですね。

喜怒哀楽の感情に突き動かされてビジネスを行う人は、上司に“やれ”と言われてやっている人とはモチベーションが全然違う。そういう人は寝食忘れてできるから敵いません。

バスキアは10年ほどの間に数千枚の絵画を描いていますが、師匠や顧客から描けと言われていたらこんなに膨大な数は描いていなかったと思う。本人が喜怒哀楽の感情に従って描き続けたからあれだけの作品数になった。自分の喜怒哀楽をうまく発動させ、世間とマッチングできると強いビジネスになるのではと思います。

ーー喜怒哀楽を発動させるより前に、そもそも喜怒哀楽の感情を持てない人もいるような気がします。

鋭い質問ですね。僕自身は、喜怒哀楽を感じない人はいないと思っていて、どれだけ喜怒哀楽を感じさせる状況に身を置くかだと思うんです。そして、喜怒哀楽の感情を発動させるには心を動かすこと以外ないと思います。そのためには映画を見る、音楽を聴く、絵画を観るといったことで見聞を広めることが大切。

世界のさまざまな問題に目を向けずに、快適な空間だけで過ごしているとなかなか心を動かすことはないですから。だから、目を凝らし、耳を澄ませ、いろんなところへ足を運ぶことが大事なんです。心を動かすというのは情報量の問題だと思う。バスキアの絵もまさにそうです。情報量がある一定の臨界点を超えると心が動きますから、生の情報に触れるということが大事かなと。

ーー今は「ニュータイプ」であっても、数十年後には「オールドタイプ」になる可能性もあります。時代に取り残されないために大切なことは?

心理学者のチクセントミハイは創造性の研究をしていた人で、彼は“年齢を重ねるにつれて創造性は下がっていく”という事象について、そうではないことを明らかにした人です。60、70、80歳…といくつになっても創造力を失わずに活動している人たちを調べると、彼らは喜怒哀楽がはっきりしていて、常に問題意識を持ち、さまざまな事柄に向き合っているとわかった。そういう人たちは知的パフォーマンスが落ちないんです。“どうせ世の中こんなもんだし、仕組みは変えられない”と諦めていたら創造性は落ちていくだけ。

チクセントミハイ自身も70歳のときに「現在の関心事は?」と問われて、次々に興味のあることややりたいことを答えたそうです。バスキアもそうですし、僕にとってのロールモデルである数学者・哲学者のバートランド・ラッセルもそうです。彼は80歳になっても反戦運動に身を投じていた人で、10代の若者と一緒に投獄までされている。いくつになっても好奇心や問題意識、批判的精神を失わないことがニュータイプでい続けるためのヒントだと思います。

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』
森アーツセンターギャラリーにて11月17日(日)まで開催中
開館時間:10時~20時
※10月21日(月)は10時~17時(入場は閉館の30分前まで)
https://www.basquiat.tokyo/

文・浦本真梨子