京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判の判決で、京都地裁は青葉被告に「死刑」を言い渡した。裁判を取材してきた越後記者に聞く。25日の法廷で青葉被告そしてご遺族はどのような様子だったのか?

■異例の長期143日間の裁判 真実はどこまで明らかになったか

越後みなみ記者:
私はこれまでの裁判のほとんどを傍聴しましたが、法廷は朝からこれまでにない緊張感に包まれ、特に主文が読まれる時には特に静まり返っていた印象を受けました。傍聴席のご遺族たちの中には目頭を押さえ、泣いている方もいらっしゃいました。死刑を言い渡された時、青葉被告は斜め下をじっと見つめながら、動揺する様子もなく聞いていました。量刑については、裁判の中で「死刑で償うべき」と言っていたこともありある程度想定していたように思います。

吉原功兼キャスター:
事件から4年半、真実は明らかになったと感じますか?

越後みなみ記者:
裁判の中で、青葉被告は『できるかぎりのことを話す』と質問に対して自分の生い立ちや考え方を事細かに話していました。『申し訳ない』と謝罪の言葉を述べる場面のあった一方で、遺族の代理人弁護士が質問した時にはいらだちをみせたり逆切れするような発言をして裁判長から制止される場面もあり、私は、本当に反省しているのか、遺族に対し心から向き合っているのかと疑いを感じてしまいました。また、裁判で青葉被告は『小説コンクールに落選し、地震の小説のアイデアを盗まれた』ことが犯行動機だと繰り返し主張していたのですが、関係者を取材すると事件直後、青葉被告は『追い詰められていた、自分は底辺の人間で生きる価値がない』と語っていたそうです。事件を実行するに至った最後のキッカケなど、青葉被告の『本音』みたいなものは明らかにされなかったのではないかと思いました。

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■裁判員は「順序を立てて事件と向き合えた、理解しやすかった」

吉原功兼キャスター:
今回は143日間という大変長い審理となりました。裁判員の方々も大変難しい判断を迫られたと思うんですが、どのように話していましたか

越後みなみ記者:
閉廷してから開かれた裁判員の会見でそのことについて語っておられました。23回行われた裁判は、大きく3つのパートに分けて審議されてきました。 『事件の経緯・動機』 『刑事責任能力』 『量刑』 です。そのことについて裁判員の方々は、『順序を立てて事件と向き合えた、理解しやすかった』と話していまして裁判員の意義に関しては裁判員としての重みをすごく感じたと話していらっしゃる方もいました。 今回の裁判の唯一の争点は、青葉被告の責任能力がどう判断されるかでした。 裁判の中で青葉被告の精神鑑定を行い証言した2人の医師も、責任能力についての見解が食い違っていたり『青葉被告はどこからが妄想で、どこからが現実なのかわからない』と話をしていました。裁判員の方々はかなり難しい判断を迫られていたのではないかと感じました。

吉原功兼キャスター:
今後弁護側は、控訴するんでしょうか?

越後みなみ記者:
現時点で弁護人の控訴は確認されていませんが、青葉被告は裁判の中で『死刑で償うべきだと思う』と本人が話していたこともあり、今後の動向が注目されます。

判決では「青葉被告が被害の実態に十分向き合えていないと言わざるを得ない」という厳しい指摘があった。判決理由は次のようになっている。

検察側、弁護側とそれぞれの主張は分かれていたが、判決理由では、良心の呵責があり犯行直前に逡巡したと供述。このことから善悪を区別する能力を有していたと裁判所は判断した。妄想性障害による妄想は動機形成に影響したものの、「放火殺人の選択」にはほとんど影響は認められず、被告の性格傾向や考え方に基づき、被告が自らの意思で選択したと判断した。

■妄想障害は動機形成に影響したが放火・殺人には影響がなかった

青葉被告の責任能力が認められた決め手は何だったのか?

菊地幸夫弁護士:
判決理由ですね。妄想障害による妄想は動機形成に影響したけど、放火・殺人というところには影響がなかったと。そこに凝縮されていると思います。大方の予測はそういうことだったんだろうと思います。そういう意味で今回は『結論が見えていた裁判』というようなことも言えるかとは思います。 弁護側も最大限努力したと思いますが、今回の事件で死刑を避けようと思うと、死刑制度自体を否定する論議をしなければいけないのかな…と思います。多くの命が失われたことに対する断罪を、被告人の命を奪うということで行う矛盾というのは、弁護士としては感じざるを得ないところなのですが、ただ、ご遺族の方の多くの苦しみを考えると、裁判所の立場からすれば今回の判決はやむを得なかったのかなという風に思います。

 今後、弁護側はどういう風に対応をしていくのか?

菊地幸夫弁護士:
死刑事件というのは弁護士はほぼ確実に控訴します。そこからどうするかは2審の担当の弁護人がどう考えるか、あるいは青葉被告がどうするのかによります。弁護人が控訴しても、被告人本人が取り下げるというケースもあります。そこも注目の1つだと思います。

関西テレビ・神崎博解説デスク:
今回の大量殺人の凶器はガソリンでした。これまでにも青森の消費者金融であったり、大阪のパチンコ店であったり、ガソリンを凶器にした大量殺人が起きています。ただガソリンは、車の燃料や発電機の燃料でもあり、販売自体を規制することはできません。ただ、模倣犯がまた起こる恐れもあるわけです。今回青葉被告は、ガソリン店で携行缶を持って行って「発電機用」とうそを言って購入しています。 今回の事件を機に、購入時の本人確認や、販売店でも記録を残そうということで、規制は強化されました。しかし、自分の身分がバレてもいいし、記録が残ってもいいと思うのであれば、こういう犯行は可能となります。 なので、われわれはガソリンとどう向き合っていくのか、こういう犯罪を2度と繰り返さないためにどうしたらいいのか、考える余地はあると思います。

 判決は出たが、アニメに情熱をささげた36人の方々の夢そして未来は奪われた。 青葉被告にはしっかりとこの判決に向き合ってほしい。

(関西テレビ「newsランナー」1月25日放送)

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