“色違いクワガタ”に注意!

夏に大人気の昆虫といえば、カブトムシと肩を並べるのがクワガタムシ。
なんといってもはさみ状のアゴを持つ勇ましいフォルムが魅力だが、よく似たこんな昆虫が今、「赤いクワガタ」として話題になっている。

画像:初宿氏提供
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大きなアゴを持つ姿はクワガタに似ているが…この昆虫は「ヒラズゲンセイ」。カブトムシやクワガタと同じ甲虫だが、大きさは18~30mmほどの「ツチハンミョウ」という昆虫の仲間だ。

このヒラズゲンセイ、特徴は何と言ってもその朱塗りのような鮮やかな赤色の体。
インターネット上には「赤いクワガタみたいなの発見!」というコメントと共に、手のひらにのせた写真も投稿されていたが…興奮のままに捕まえてしまうと、少々痛い目に遭ってしまうかもしれない。

実は、ヒラズゲンセイの体液は有毒で、皮膚につくと水ぶくれができたり、かぶれたりといった症状が出るという。

さらに、このヒラズゲンセイはもともと高知や徳島、和歌山などの近畿南部に生息していたというが、年々生息域を北に拡大中。
現在では大阪・京都・滋賀でも発見されているというのだ。

SNS上には「こんなの子どもが嬉々として捕まえる」というコメントもあったが、今までにヒラズゲンセイを見たことがない地域の人たちならば、派手なカラーリングとクワガタに似たフォルムに、子どもに限らずうっかり手を伸ばしてしまう、というのは容易に想像できる。

インターネット上には「準絶滅危惧種」との情報も見られたが…なぜ今、“赤いクワガタ”はじわりじわりと生息域を広げているのだろうか。
そして、どんな昆虫で、もし遭遇した時はどのようにすればよいのだろうか?
生態に詳しい、大阪市立自然史博物館の初宿成彦学芸員にお話を聞いた。

温暖化で分布拡大?

――ヒラズゲンセイはどんな虫?どこで見つけられる?

京阪神エリアに広く分布しているのに、ほとんどの方が実際には見たことがないと思います。数が少ないものなのだというのと、複雑な生態が関係していると思います。関西や四国では増えている虫なので、準絶滅危惧というものではないような気がしています。

クマバチの巣(イメージ)

ヒラズゲンセイは、クマバチに寄生する昆虫。
ヒラズゲンセイの成虫はクマバチの巣に潜り込んで産卵し、孵った幼虫はクマバチが集めた花粉などを食べて成長する。
そのため、クマバチが巣を作りやすい「サクラの枝(公園や学校の校庭など)、その他松などの樹、木造住宅の軒下」などで見つかることが多いというが、その一風変わった生態のためか、研究者が見つけるというよりは、一般人が見つけることの多い虫なのだという。

なかなかお目にかかれないヒラズゲンセイだが、じわりじわりと北上を続けている理由については、温暖化がひとつの原因として考えられるという。
温暖化の影響によって、クマバチが巣を作る時期と、ヒラズゲンセイの幼虫期が変化し、この二つが重なる期間が生まれたことが、ヒラズゲンセイの繁殖・北上に繋がった、という説があるという。

オスのヒラズゲンセイ(画像:初宿氏提供)

ちなみに、“赤いクワガタ”のような大きなアゴは、オスの特徴。メスはオスよりもアゴや頭が小さいのが特徴だ。

ヒラズゲンセイの生態についてはわかったが、気になるのはその毒性。
どのくらい危険な昆虫なのかについても聞いた。

「実際にかぶれることはあまりない」

――毒を持っているのはなぜ?

毒は自分の身体を守るために備えています。身体が赤いのはわざと目立たせているのです。そうすることで捕食者(たぶん主に鳥)に「自分は毒があるぞ」と伝えることで捕食を免れている→生存確率が上がる、ということです。テントウムシが派手なのも同じです。


――毒はどのくらい危険?

実際にかぶれることはあまりないように思います。たまに毒の含有量が多いものがあるということだと思います。私が知る限り、事故は1件のみです。その場合はすごい匂いがしたそうです。
(毒は、相手に)吹き付けるというものではなく、身体の中に持っている、せいぜい節々から滲み出てくるぐらい、ということです。


――では、うっかり触ってしまったら…

これは皮膚科の医師に聞いていただくのがいいように思いますが、たぶん水で洗うことで流されると思います。


素手でむやみに触るのは危険…(イメージ)

ヒラズゲンセイの体液に含まれる“毒”は、「カンタリジン」という成分。
この“毒”はヒラズゲンセイの足や体の関節からにじみ出ているが、「死に至るような猛毒」「100%害がある」というものではないそう。
とはいえ、初宿氏によると、まれに強い毒性のものがあり、皮膚の柔らかいところについてしまうと、かぶれなどの症状が出てしまうという。


――ヒラズゲンセイを見つけたらどうするべき?

触らずにそのまましておくということかなと思います。
これは「ハチや毒蛇(マムシ)を見つけたときにすべて駆除すべきか」「肌がかぶれるウルシが生えてたら刈り取るべきか」というと、そういうわけでないのと同じだと思います。人は自然とともに存在していることを認識するということだと思います。


“赤いクワガタ”という響きに惹かれる一方で、確かに危険な面を持つ昆虫ではあったが、初宿氏によると、発見しても市区町村などへの通報をしたり、むやみに殺したりという行動は控え「そのままにしておくべき」だという。
きたる夏休み、昆虫採集に出かけようと計画している人は要注意だが、むやみやたらに怖がるべき昆虫でもないようだ。

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