我が子が経験した性被害は「氷山の一角」

母親の在宅勤務中に、5歳の娘が襖一枚隔てた隣の部屋でベビーシッターから性被害を受けていた。30歳のこの元ベビーシッター・荒井健被告が逮捕されたのは6月のことだった。

被害にあった女の子の母親Aさんは、先日私たちのインタビューで苦しい胸の内を告白してくれたが、その時Aさんが言ったある言葉を私はずっと忘れられないでいる。

「荒井被告の犯行が、うちの子ひとりだけとは絶対に思えません。
キッズラインのレビューを見ると同じ歳くらいの女の子のお子さんを預けている人がすごく多かった。」

わいせつ行為を行った元シッター・荒井健被告(30)

安全性をうたったマッチングサイトで起きたわいせつ事件

母親は荒井被告をベビーシッターの大手マッチングサイト「キッズライン」を通して依頼した。キッズラインは安全性を謳っていただけに、事件への対応なども含め利用者に大きな不安を与えた。私も4歳と5歳の子供の母であり、キッズラインの利用者の一人だ。他人事とは思えなかった。

キッズラインの荒井被告のユーザーは100人、計199回の預かりをしていた。Aさんはそのうち8回だった。Aさんの危惧も当然だと思う。

実は、キッズラインではこれに先立つ2019年11月にも別のシッターによるわいせつ被害が起きていた。被害者の男の子は体調が悪く保育園に行くことができなかったため、共働きの両親はやむなく条件に合うシッターを、キッズラインを使って依頼した。29歳の橋本晃典被告という男だった。

これまでに6回にわたり逮捕・起訴されている橋本晃典被告(29)

父親が帰宅し橋本被告が帰ったあと、息子が「パンツを脱がされて触られた」と話したことから事件が発覚し、橋本被告は今年4月逮捕された。

ボランティア、福祉施設職員と姿を変え・・・

驚くことにこの橋本という男は2020年8月5日の時点で6回逮捕、起訴されている。私は、橋本被告のこれまでの罪状を見てショックを受けた。それによると橋本被告はこのキッズラインでの預かり中のみならず、「保育」や「預かり」の場を次々変えて紛れ込み、犯罪を繰り返していたというのだ。

あるときはNPO法人が主催するキャンプにボランティアスタッフとして参加。数班に分かれたテントで、就寝中の小学生の男の子が被害にあった。このテントに大人は橋本被告1人だった。

また、ある時期には児童福祉施設で職員として勤務。親との複雑な関係のために幼い頃から入所していた子供の体を触るなどしていた。

この子たちが受けた体や心の傷を思うと、どうしようもない怒りと憤りがこみ上げてくる。いずれのケースも子供たちに逃げ場はなかった。

なぜ、このような男がいとも簡単に子供たちのいる現場に入り込めてしまうのか。

“マッチングアプリの問題”では済まない

橋本被告は「保育士資格」と「調理師免許」保持者だった。雇い入れる立場であれば、資格だけみると申し分ないのではないか。

橋本被告のスマホには男児の裸の画像などが大量に保存されていた。この画像の解析をした警察から連絡があって初めて犯行に気付いた被害者もいるという。

このうちの1人、キッズラインで橋本被告にシッターを依頼し被害にあった別の子供の保護者は、橋本被告について「資格を持ち、話が丁寧で、子供の扱いに慣れているので安心して依頼した。シッター後も好印象を持っていた」と、驚きを隠せなかったという。

被害にあった子供は何をされたのか理解できていなかった。

このような幼い子の無知に付け込む犯罪は発覚が遅れ、犯罪者がつかまりにくい。そして犯罪が繰り返される傾向にある。

今回、「マッチングサイトの登録シッターが預かり中に起こした性犯罪」ということが大きな関心を集めた。しかし、子供が関わる様々な場所で性被害は起きているということに目を向ければ、マッチングサイトの是非を論ずるだけでは問題は解決しないということが、この橋本被告の犯罪歴からもわかると思う。

子供を性被害から守るには一体どうしたらいいのだろうか。

「犯罪歴ナシを証明」の義務づけ

「保育・教育に従事する者に犯罪歴がないことを証明する『無犯罪証明書』を取得できる仕組みが必要です。」

病児保育のNPO法人「フローレンス」代表・駒崎弘樹さんはこう訴える。

「何人子どもが性被害にあったら政府は関心をもつのか?」NPO法人「フローレンス」の駒崎弘樹さん

性犯罪を過去に起こした人が子供に関する仕事に就けないようにすることで、少なくとも再犯は防ぐことができると言う。性犯罪は再犯率が高いとされている。

犯罪歴証明書の例(NY州HPより)

娘が小学校3年生の時に担任教師から性被害を受けていた母親Bさんも、この制度の導入に賛同している。

被害にあった娘はこの担任から幾度となく下着の中に手を入れられ触られていた。しかもBさんはこのことを今年になって初めて知った。

実は、この教諭については前年度の担当クラスでも児童への不適切な接触が報告されていたことを学校も教育委員会も把握していたにもかかわらず、学年を変えて勤務させ続け被害児童を増やした。結局、この教諭は懲戒免職になり学校を去った。

しかし、である。

日本では、たとえ性犯罪で教員資格を失っても3年でまた再取得できる。保育士資格は2年で再取得可能だ。子供たちに暴行した人間が短期間で再び何食わぬ顔で子供の前に立つことができるのだ――。

皆さんはこの制度をどう感じるだろうか。
まだ幼い子供を育てる私は、恐ろしいと感じる。

Bさんは言う。

「この元教諭が、場所を変えていまも教壇に立っているかと思うと安心できません。」

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教員免許法改正だけでは足りない

萩生田文部科学大臣は7月22日の衆院文部科学委員会で、この教員免許法を改正する方針を示している。
「自分の責任で、できるだけ速やかに法案を提出することを念頭に進めていきたい」と述べた。

教員免許についてだけでも動きがあるのは、親として嬉しく思う。できるだけ早く進めてほしい。

しかし、文科省は教員免許のみ権限がある。保育士資格を管轄するのは厚労省だ。ベビーシッター業については認可制ではく届け出制。子供がかかわるキャンプのスタッフなどにおいては、現状ではどうしようもない。

「だからこそ」
と、フローレンスの駒崎さんは言う。
「無犯罪証明書の発行が有効なのです。」

「無犯罪証明書」の導入を森雅子法相に要望

駒崎さんらはこの制度の導入要望書を森雅子法務大臣や橋本聖子内閣府特命大臣に手渡した。
この要望書には2万件を超える署名が集まっているという。

米・NY州では、ベビーシッターの「無犯罪証明書」提出が義務づけられている

「イギリスでは保育士や教師、キャンプのボランティアなど、子供にかかわる仕事をしようと思ったら、自分に性犯罪の過去はないという証明書をもらって提出しなければならないんです。そうでなければ子供がいる場所では働けない。日本でもこの仕組みを導入してもらいたい。」

このような制度はイギリスのほかアメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなどで取り入れられているという。

日本政府は教育や保育にかかわる人への犯罪歴に関する証明書の提出義務付けについて、個人情報保護の観点から慎重な姿勢だ。

フローレンスの駒崎さんは力をこめて言う。

「加害者の(性犯罪歴の)個人情報は、子供の人権を尊重するという意味では本当は論点にならないと私は思います。子供の人生がかかっています。政治はこうしたことに無関心を続けてきました。あと何人、子供が性被害にあったら関心を持ってくれるのか、政治家に声を大にして言いたい。」

性犯罪を起こした人も、更生の機会があり、職に就き、社会が包摂することは当然必要なことだ。性犯罪者の個人情報、人権、そして子供の安全―――我々の社会はどこで線を引くのかが問われている。

日本ではこの議論は始まったばかり。告白すると、私も、キッズラインで起きた性犯罪をきっかけに取材を進めて、初めて真剣に向き合っている。

息子2人はまだ幼い。子供たちがずっと笑って過ごせますように―――。すべての親の願いだろう。そのような社会をそろそろ本気で考えなくてはならない責任が、今を生きる大人の私たちにはあるのではないかと、深く考えさせられる。

【インタビュー&執筆:フジテレビアナウンサー 島田彩夏】

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