“筋強直性ジストロフィー”という病気をご存じだろうか。この病気は、筋肉が正常に作られなくなる遺伝性の病気で国の指定難病でもあり、根本的な治療薬はまだない。世界中で治療薬の研究が進む中、日本で世界初の成果が確認され、光明が見えつつある。

既存薬を転用 研究進める

愛媛・四国中央市の総合病院に脳神経内科医として勤務する明地雄司さんは、筋強直性ジストロフィーの患者でもある。24歳の時にこの病気だと診断され、治療研究に携わるため医師になった。

脳神経内科医として勤務する明地雄司さん
脳神経内科医として勤務する明地雄司さん
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国内の筋強直性ジストロフィー患者は2万人から5万人とされ、筋肉の病気では大人で最も多いといわれている。

“筋強直”とは筋肉の一種のこわばりのこと。手を強くぎゅっと握ると、その後すぐに指が伸ばせずスムーズに手を開けない症状がみられる。この病気の源は遺伝子にある。

私たちの身体を構成するタンパク質はDNAの中にある「設計図」、すなわち遺伝子情報により作られていく。

筋強直性ジストロフィーの患者は、この設計図の一部が変形し、ここに正常な筋肉になるよう制御する役目の物質を必要以上に取り込んでしまう。

つまり変形した設計図のため制御物質がまわらず、筋肉にとって必要なたんぱく質を作れなくなってしまう。

病気が進むと筋肉が作られなくなるため、歩行や呼吸も困難になり、さまざまな合併症を引き起こすことがある。山口大学の中森医師はすでにほかの病気の治療薬として認可されている薬に、この病気への有効性を見いだし、研究を進めている。

山口大学院 医学系研究科臨床神経学・中森雅之教授:
お薬の名前はエリスロマイシンというこれまで長年使われてるお薬なんですけど、それが筋強直性ジストロフィーの病気をおこしている悪いRNA、異常なRNAに直接作用してその毒性を抑える作用があるというところが一番のポイントです

中森医師の研究は、遺伝子の異常で変形したタンパク質の設計図を薬でブロックすること。これでタンパク質を作るために必要な制御役の物質を過剰に取り込んでしまうことを防ぎ、正常な設計図通りにたんぱく質を作ることを邪魔しないようにするというものだ。

この作用を、これまで抗生物質として処方されてきた薬に見いだした。

安全性の高い既存薬で世界初の結果

中森医師が現在、取り組んでいるのは、筋強直性ジストロフィーの治療薬としての効果や安全性を確かめる治験だ。

治験は3段階あり、1段階目は少数の健康な人、2段階目は少数の患者、3段階目が多数の患者を対象にする。

山口大学院 医学系研究科臨床神経学・中森雅之教授:
今回は30人の患者さんにご参加いただきまして、半年間エリスロマイシンあるいはプラセボという有効成分の入っていない薬を模したものをお飲みいただいて、安全性と有効性について調べています

中森医師が進めているのは2段階目の治験。30人の患者を3つのグループに分け、服用する薬の量が多いグループと低いグループ、そして有効と見られる成分が入ってない偽の薬のプラセボグループで行われた。

治験の服用は半年間。その結果を2023年12月に発表した。
安全性については、薬による有害事象は起きず、有効性についてはタンパク質を正しく作ることができる割合が改善された人の方が多かったことがわかった。エリスロマイシンは2種類の遺伝子で同様の改善を示したとしている。

山口大学院 医学系研究科臨床神経学・中森雅之教授:
結果で一番重要視していたのは安全性でして、特にこの6か月間お飲みいただいた方々にも問題となるような副作用、有害事象は見られませんでした。実際効果があるかどうかにつきましては、さまざまな指標で確認しておりますけど、一番有効であると分かったのは異常を筋肉で調べてるんですけど、そちらが統計学的にも意味のある改善があったという結果が得られております

病気が発症する原因に作用する薬がない中、安全性の高い既存薬で得られた改善の結果。中森医師によると、世界で初めての成果ということだ。

この結果に、四国中央市の総合病院に脳神経内科医で、筋強直性ジストロフィーの患者でもある明地雄司医師は「承認されていないので、知らずに処方して、何か重大なことが起こると治験が第3相に進めなくなるので、そこはしっかり医師にも認識してもらう必要があると思います。また、この薬は心臓機能に異常がある人や不整脈の人は使うことが難しいので、この薬がたとえ治験第3相をクリアしたとしても皆が使えるわけではない。使える人が限定されたとしてもかなり期待できるし、僕自身も使えるようになりたい」と話す。

明地さんはエリスロマイシンがどんな症状の患者にも使用できる万能な薬ではないことに触れ、認可されるまでは処方しないよう呼び掛けている。

患者の協力で治験を実現

今回の治験は、筋強直性ジストロフィーの患者の病状などをデータベース化する任意の登録制度「Remudy」へ登録している患者の協力で実現した。

2024年1月末時点で、全国の1,223人の患者の情報が登録されており、登録患者が増え、データが増えることは海外の製薬会社が日本の患者数の多さを把握することにつながるので、国内でもさまざまな症状に対応でき、可能性も広がるのだ。

このため、筋強直性ジストロフィー患者会の妹尾さんは、患者自身の病気への理解と努力が必要と励ます。

筋強直性ジストロフィー患者会 事務局長・妹尾みどりさん:
患者登録で今の状況をきちんと登録してそれを継続していただき、治験に参加できるかどうかはデータを元に患者登録側から声がかかります。遺伝の問題は遺伝子を調べるとか、患者の心にとってはハードルが高い。遺伝子の病気だからこそ、色々な努力をして勝ち取っていくことがすごく大事です。もし参加できなくても応援し続けること、希望を捨てないことがとても大事です

山口大学院 医学系研究科臨床神経学・中森雅之教授:
現在全く治療薬がない、特に難病と言われている病気に対して、薬が候補として見つかって、なおかつそれが他の病気で使われてきた安全な薬であるということで、第3相さえクリアできれば患者さまにお届けできると思っておりますので、非常に一番臨床に近い薬の候補なんじゃないかなと考えてます

中森医師は現在、治験の最終段階となる第3相に向けて準備をしていて、そこで安全性と有効性に問題がなければ、約3年後をめどに承認申請につなげたいとしている。

(テレビ愛媛)

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