地球温暖化対策に向けた取組みとして政府は、2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指しています。
その鍵となるのが、広大な「海」に広がる生態系です。
2月下旬、那覇港泊ふ頭に停泊する船内で行われたシンポジウムでは、海の生態系を活用した気候変動への取組みについて講演が行われました。
参加者は水中観光船に乗り港を出航。15分ほどで那覇港の防波堤の内側にある、波の穏やかなポイントに到着。
珊瑚の群生が波に揺られる様子はまるで森のさざめき。目の前に広がる豊かな生態系を観賞している乗客の手にはスマートフォン。
そこに映し出されているのは…海の中に溶け込んでいるCO2・二酸化炭素の濃度です。
豊かな海の生態系が吸収するCO2「ブルーカーボン」を体感するツアーです。
森や林などの生態系がCO2を吸収・貯留するグリーンカーボンに対し、海水のほか海草や藻場といった海の生態系が吸収・貯留するCO2はブルーカーボンと呼ばれています。
CO2は水に溶けやすい性質で、海の植物は、海水に溶けているCO2を光合成で吸収し取り込みます。
マリン観光開発の観光船では、海中のCO2濃度をリアルタイムで観測・記録しています。
マリン観光開発早川一正社長:
「いま下に見えているのはソフトコーラルの生態系になります。(海中の)CO2濃度を見ていただければ、ここに来て(海中CO2濃度が)390近くに減ってきております。この生態系が(海中の)CO2を吸収しているというデータを積み上げている所です」
この海域では、海中のCO2濃度が大気中と比べ格段に低くなっていて、ソフトコーラル群の生態系はCO2を吸収する、新たなブルーカーボンとなる可能性が期待されています。
記録したデータは、研究者に提供され、沖縄の海が秘めるブルーカーボンの研究に活用されます。
この時期はホエールウォッチングのツアーも合わせて行われていて、この日も、繁殖期を迎えたクジラたちが、参加者たちを迎えました。
シンポジウムには、ブルーカーボン研究の第一人者も登壇しました。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合桑江朝比呂理事長:
「このCO2を大気から除去する技術は、一つ目に大気中のCO2を捕まえる事が必要。その次にもっと大事なのが、捕まえたCO2を長いこと貯留することなんです。一度大気中のCO2を捕まえたところで、貯留できなければすぐに大気に戻ってきてしまう。安定的に貯留できる技術がブルーカーボンとなります」
桑江さんは、ブルーカーボンを増やすために人の力も必要だと指摘します。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合桑江朝比呂理事長:
ただ守っているだけだと除去できる量っていうのがもう限られちゃっているんですね。いかにして吸収するような海域を増やしていけるかって事になります。港でも色んな構造物があって、沖の防波堤で波を消しているからこそ、内側にソフトコーラルが増えてきたわけです。そうやって人為的な海への介入によってCO2の除去っていうのは今後増やしていく必要があるだろうという風に考えています」
日本が抱える海の面積は世界第6位の広さです。沖縄も豊かな海に囲まれています。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合桑江朝比呂理事長:
「沖縄周辺の海域っていうのは、亜熱帯で生物の活性が高い所です。マングローブ、海草、藻場、それからこのソフトコーラルとたくさんの生態系をもっていて、様々な生息域っていうのをうまく生かせる、そういったところがやっぱり沖縄の強みなんじゃないかと思います」
早川社長は、観光に携わるものとして環境問題にも積極的に関わっていきたいと意気込でいます。
マリン観光開発早川一正社長:
「やはり『見える化』ということが第一の目的。2050年のカーボンニュートラルに向けて、海と関わっている者として、観光資源とさせていただいている以上、温暖化抑止、気候対策という事に対してのテーマに対して観光船が出来る事をやれる事はなんでもやってみようかというのが趣旨です」
世界共通の課題である気候変動への取組みのために、たくさんの命を育んできた豊かな海が注目されています。