東京駅の目と鼻の先にある建設現場から、次々と救急車で運ばれていく作業員。

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9月19日、午前9時20分ごろ、JR東京駅の八重洲口から約200m離れたビル建設現場で、作業員5人が鉄骨とともに落下する事故が発生しました。

落下した鉄骨 周囲には崩れた足場が散乱している
落下した鉄骨 周囲には崩れた足場が散乱している

現場周辺は、オフィスビルや飲食店などが建ち並び、人通りもかなり多い場所です。
警視庁と東京消防庁によると、事故当時5人の作業員が、ビルの7階部分で、はりにあたる鉄骨の組み立て作業を行っていました。

警視庁によると、鉄骨は長さ30m、重さは15t ほど。作業員5人は、クレーンのワイヤーで吊るされた鉄骨の上に乗って作業を行っていたとみられます。

その際、ワイヤーで固定されていた鉄骨が何らかの原因で外れ、作業員とともに約20m下の3階部分に落下しました。

この事故で原裕一郎さん(33)と、花田大和さん(43)が死亡。3人がけがをしましたが、命に別条はないということです。

事故当時、現場近くにいた人たちは…

事故現場の近くにいた人:
急に大きな音。その後に振動があったんですけど、ゴゴゴゴという音が5秒間ぐらい。震度1ぐらいの揺れを感じました。

事故現場の近くにいた人:
(落下の)音はすごい、聞いたことがないぐらい、雷が横に落ちたぐらいの大きさで。作業員の方が、救急車こっちに来てとか呼んでたりとか。

上空から事故現場を撮影した映像を見てみると、いくつもの大きな鉄骨が倒れ、足場らしきものが散乱しているのがわかります。

事故を受け、19日、大林組は以下のコメントを発表しました。

「工事に従事される方の安全を守れなかったことは、悔恨の極みであり、全社を挙げて再発防止と安全施工の徹底に取り組んでまいります」

なぜ鉄骨は落下したのか?人為的ミスの可能性

作業中に突然落下したという鉄骨。なぜ、鉄骨は落下したのでしょうか?めざまし8スタジオでは模型を作成、落下の原因について検証しました。

模型を使って説明する酒主アナウンサー
模型を使って説明する酒主アナウンサー

酒主義久アナ:
まず、この建設現場で何が起きたのか。ジオラマを使って説明をしていきます。
警察によりますと、今回被害に遭った5人はすでに組まれた鉄骨の7階の部分で作業をしていました。そこにタワークレーンでつられた長さ30m重さ約15t の鉄骨が運ばれてきて、鉄骨の上に移動をして、そこで作業をしていたということです。

酒主義久アナ:
ただそこで、何らかの原因でこの鉄骨が落下をしてしまい、下敷きとなった2人が亡くなったということです。大林組によりますと、7階から3階部分、高さにして約20m落下したということです。

建設事故やトラブルに詳しい、マンション管理コンサルタントの土屋輝之氏によると、以下の可能性が考えられるといいます。

マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏
マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏

一つ目は、「タワークレーンの故障」。二つ目は、タワークレーンと鉄骨をつなぐ「ワイヤーの劣化」があったのではないかと言うこと。さらに、三つ目は「人為的なミス」の可能性です。

土屋氏は、この三つ目の人為的ミスの可能性が高いと言います。その理由は、今回施工を担当したのは大林組と大成建設といった日本を代表する大手ゼネコンの共同企業体であることから、機材などのトラブルが起こる可能性は低く、人為的なミスがあったと考えるのが妥当だというのです。

――人為的なミスだとした場合、どのようなミスなのでしょうか?
マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏:

クレーンのオペレーターの方の操作ミスという可能性もありますし、固定作業に入られていてはり材の上に作業員の方が乗られて作業していたときに、何らか重量のバランスが崩れて、はり材が斜めになって滑り落ちたというような事が考えられます。

人為的ミスの事故が相次ぐ「人不足」が原因か?

このような、工事現場での事故が全国で相次いでいます。

19日、足場が崩れる事故が起きたのは、静岡市清水区の治山工事の現場。
50代と60代の建設作業員4人が、約7mの高さから転落、けがをしました。警察は業務上過失致傷の疑いも視野に、事故が起きた状況や原因について詳しく調べています。

静岡市内では、7月にも国道のバイパスの工事現場で、重さ140t の橋げたが落下し、作業員ら8人が死傷する事故が発生。
静岡国道事務所の事故調査委員会は、今月、事故原因の1つとして、橋げたを支える台の設置が不適切だったと指摘しました。

5月には、東京・品川区の建設現場で重さ20t の大型クレーンが倒れ、50代の男性2人が死傷。

ここでも、クレーンの運転手が「掘削機をつって移動している最中にバランスを崩した」と話しています。いったいなぜ、“人為的なミス”による事故が相次いでいるのでしょうか。

相次ぐ工事中の事故
相次ぐ工事中の事故

土屋氏はその原因として、建設現場での「慢性的な人員不足」を上げます。
かつては、施工するゼネコンの社員が現場監督を担当し、人員も十分に配置され作業していたものが、今は、社員が減り、派遣人材が増加。そのため、指示などの意思疎通が困難な状態になっているといいます。

そんな中、建設の需要は年々増加しており、今年度は、建設投資額が70兆3200億円になる見通しとなっており、工事現場が増えることで、さらに人材が不足が加速してしまうのです。

――日本の“安全神話”が崩れてきているのでしょうか?
マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏:

そうですね、発生する事故の件数が過去に比べると間違いなく増えているという印象があります。その理由として、「人材不足」。これは作業をする方というよりも、作業を管理監督する方たちの人材不足。かつては5人必要だったところに今は3人しか予算的には入れないとか、かつては5人が全て施工会社の正社員の監督だったところが、1名の正社員の監督以外は、派遣の方になる。というようなことで、かつてのコミュニケーションと同じ密度で打ち合わせができているかどうかという点は、疑問があるところです。

めざまし8のスタジオゲストである、デービッド・アトキンソン氏は、建設業界には多くの問題があると指摘します。

複雑な問題が絡んでいると話す、デービッド・アトキンソン氏(左)
複雑な問題が絡んでいると話す、デービッド・アトキンソン氏(左)

デービッド・アトキンソン氏:
これは非常に複雑な問題がいろいろ絡んでいると思いますけど。
業界としては、長時間労働、出勤日数の多さ。全国で222日に対して、建設業は251日。やはり疲労が多いんです。高齢化の問題、人口減少による問題、そもそも全業界の中で女性の労働者が44.5%を占めますけども、建設業界というのは下から3番目で16.5%しかいない。そうすると、生産年齢人口が95年以降1400万人減っていますので、男性の労働参加率が高くて減ってくると、どうしても人が不足してしまうという状態にあります。
高齢化の問題、賃金が低い、所得のピーク年齢が早いんですよね。40代くらいがピークで下がっていきます。
いきすぎた指導、ハラスメントの問題から人材育成の遅れもあり、アナログ的な経営も多いです。そうすると、小規模事業者がものすごく多いので、デジタル化していくための予算がないとか、ゼネコンの下に小さな会社がものすごくあって、管理しにくいという構造的な問題も抱えています。本当に問題が非常に多い業界ではあります。

――今後の対策としてはどのようなものがあるのでしょうか?
マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏:

かつての安全神話を支えてくださっていたベテランの作業員、技術者の方たちの持っていた技術、これが高齢化することでその方たちがどんどん離れていく。
技術がしっかりと次の世代、もしくは次の次の世代に伝承されていく仕組みを、どう構築するかということが、非常に大きな課題ではないかと思います。
(めざまし8 9月20日放送)