タイの首都・バンコクのショッピングモールで、失業した観光ガイドが食べ物や雑貨、衣料品などの物品を販売するイベントが6月19日から6日間の日程で行われた。観光業が新型コロナウイルスの感染拡大によって壊滅的な状況となり、失業したガイドを支援するため、タイの観光ガイド協会と観光スポーツ省などが開催した。

参加した観光ガイドは約300人。少しでも新たな収入を確保するきっかけにしてもらうのが目的だが、ガイドの収入とは差が大きいのが現実だ。大勢のガイドたちは、感染拡大が収束し観光客が戻って来ることを切望している。

GDPの2割近くを観光収入が占めるタイ

ワット・サマーン・ラッタナーラーム チャチュンサオ県
ワット・サマーン・ラッタナーラーム チャチュンサオ県
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タイ政府観光局によると、2019年の外国人観光客数は約3980万人、外国人観光客による収入は約1兆9300億バーツ(約6兆5620億円)で、いずれも過去最高となり、日本を上回っている。国内の観光客とあわせ、GDPに占める観光収入の割合は2割近くにのぼるという。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、外国人の入国制限が敷かれ、4月以降、観光客はタイに入国できていない。タイ国家社会経済開発委員会NESDCによると、観光業に従事する労働者約390万人のうち、6割を超える約250万人が失業する恐れがあるという。観光ガイド協会は4月以降、観光ガイドの仕事は一切なくなったと話している。

バッグ販売も「生活費の足しにもならない」

日本語ガイドのオームさん(43)
日本語ガイドのオームさん(43)

イベントに出店した観光ガイドに話を聞いてみた。これまで17年間、タイを訪れる日本人の観光ガイドを務めてきたオームさん。観光客が激減した2月以降、ガイドの仕事がなくなったと話す。バンコクに住んでいたが、実家があるナコンパトム県に戻り、地元のホテイアオイを材料に作られるバッグに飾り付けをして販売している。しかし、収入はほとんどなく、生活費の足しにもならないという。

オームさんが販売するバッグ
オームさんが販売するバッグ

フェイスブックで食品販売

フランス語の観光ガイド・ウィモンフォンさん(55)
フランス語の観光ガイド・ウィモンフォンさん(55)

フランス語の観光ガイド、ウィモンフォンさん。観光ガイドとして32年間、働いてきたが、この新型コロナウイルスの流行で仕事がなくなった。ショックを受けて、最初は何をすればよいかわからなかったと言う。生活を続けるためには、収入を得る必要があり、現在は出身地であるナコンパトム県のイカの干物などをフェイスブックなどで販売している。

ウィモンフォンさんが販売する食品1袋500円ほど
ウィモンフォンさんが販売する食品1袋500円ほど

観光ガイドがイベントで物品販売

イベントに出店した日本語ガイド会
イベントに出店した日本語ガイド会

イベント会場には約160のブースが設けられ、食べ物を中心に、観葉植物や雑貨、本、マスクなどさまざまな物品が並んだ。約300人の観光ガイドが登録されている日本語ガイド会も出店していて、それぞれの故郷の食べ物を販売していた。特に人気なのが、「プラーソム」と呼ばれるタイ東北部の発酵食品だ。日本の鎧兜をかたどった写真撮影のスポットも用意されていた。日本語ガイドたちは背中に「祭」と書かれたはっぴを着ていて、日本からタイへの観光客、そしてタイから日本への観光客の往来を待ち望んでいる。

イベントを主催したタイ観光ガイド協会のウィロード会長は、「観光業が危機的な状況の中で、観光以外の仕事で収入を得るきっかけにしてもらえれば」と話している。そして、タイの一刻も早い外国人観光客の受け入れを願っている。

人気の食品「プラーソム」
人気の食品「プラーソム」

旅客機の便数回復は2021年か

タイの新規感染者はここ1カ月ほどタイへの帰国者のみで、市中感染は確認されていない。このためタイ政府は、ビジネスや医療目的の渡航者などに限り、外国人の入国制限を緩和する方向で、検討を進めている。

タイの6つの空港を運営する空港公社AOTは、2020年度(19年10月~20年9月)の利用客数が前年度と比べ半数程度に減少すると予測している。そして、旅客機の便数が通常に回復するのは2021年10月頃までかかるとしている。まだ1年以上かかる予測だ。外国人を案内するガイドたちにとって、しばらく試練の期間が続く。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】