新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。これは同時に、これまで放置されてきた東京への一極集中、政治の不透明な意思決定、ペーパレス化の遅れ、学校教育のIT活用の遅れなど、日本社会の様々な課題を浮き彫りにした。

連載企画「Withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第19回は、コロナ禍で痛む中小企業をどうやって救うのか?だ。

かつてリーマンショックの際に、中小企業金融円滑化法成立を主導し、日本の総従業員数の7割を占める中小企業の危機を救った元金融相、亀井静香氏を取材した。

「平成の徳政令」を主導した亀井静香氏

亀井氏:
「いま日本は、ある意味では世界一の経済力を持っている国ですよ。その国がいま、核戦争じゃなくて、コロナっていう細菌に殺されようとしているんだ。そういう時はとにかく、アメリカや中国に任せるだけじゃなく、日本が持っている経済力、国力すべてを天敵との戦いにつぎ込まにゃいかんと思います」

趣味の油絵が並べられた都内の事務所で、亀井静香氏(84)はこう語り始めた。

亀井静香氏は、衆議院議員(通算13期)時代に、運輸、建設、金融担当相などを歴任した
亀井静香氏は、衆議院議員(通算13期)時代に、運輸、建設、金融担当相などを歴任した
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亀井氏は衆議院議員を13期務め、運輸相や金融担当相、自民党政調会長などを歴任して、2017年に政界を引退、いまは再生可能エネルギー会社の会長をしている。

リーマンショックの際、「貸しはがし」に苦しむ中小企業の支援のために施行されたのが、中小企業金融円滑化法だ。円滑化法は時限立法だったが、中小企業が借金の返済猶予を申し込んだ場合、金融機関に応じるよう努力義務を定めたものだ。

この「平成の徳政令」を主導したのが、当時金融担当相だった亀井氏だ。

「内部留保のある大企業に出すことはない」

亀井氏:
「俺がやった時には、マスコミが全部反対したんだよ。ところが失効するときになると、皆が延長しろと俺の尻を叩くんだよな(笑)。あの時、返済する条件もつくった。『返せるようになるまで返さんでいい』と。無い袖は振れんと昔から言うじゃないか(笑)。だからね、いまやることはこれだ。こういう非常事態に『返済しろ』なんて冗談じゃ無いよ。そんなものは返す必要がない。苦しんでいる人から利息を取って儲けるようなところを、世間は相手にしないよ」

亀井氏は政府こそが中小零細企業に対して、無制限に支援するべきだと語る。

亀井氏:
「銀行から借りるよりも、国が現金を給付した方が早い。中小零細企業には、いまいわれている40、50兆円ということではなくて、200兆円、300兆円でもいい。こういうときは思い切って無制限に、貸付じゃなくて寄付をすることだ。大企業に出すことは無い。内部留保があるのだから、それを使えばいい。そういう割り切り方をしたらいい。中小零細企業は国や自治体が給付金として出して、生き延びられるようにしてやることが大事だ」

「貯金に回る?カネは溢れる分にはいいんだよ」

日本銀行は先月、国債買い入れについて「年間約80兆円」の保有残高増のめどを撤廃、上限を設けず必要に応じて買い入れることを決めた。

亀井氏:
「こういうときこそ大胆に国債を発行することだね。俺が(自民党)政調会長をやっていた時と違って、いまは日銀が引き受けるのだから。日銀が引き受ければ、現金を借りられて、それで経済が回るわけだよ。そして地方交付税交付金を思い切って各自治体に出し、各自治体はそれを自由に使うという2本柱だね。生活保護に何百兆か出すと思えばいいわけだ。簡単にできることだよ。俺が財務大臣だったら一発でやっちゃうね」

一方追加の金融緩和については、その効果を疑問視する見方も根強くある。これに対して亀井氏はこう語る。

亀井氏:
「貯金に回るだけだなんてことを言う人もいるけど、溢れる分にはいいんだよ。貯金に回っても、なんてことはない。それでとにかく金が必要なところにいくのだから。いまはむしろデフレ気味だから、インフレになる心配はないですから、思い切って出しゃいいんですよ。経済はインフレ気味のほうがいい」

都内の亀井静香氏の事務所で、取材はソーシャルディスタンスを取って行った
都内の亀井静香氏の事務所で、取材はソーシャルディスタンスを取って行った

「お金持ちのボンボンには理解できないわな」

亀井氏:
「問題は、やる気があるかないか。麻生ちゃん(財務相)はね、お金持ちのボンで生活に困ったこともないし、生活感覚がないんだから。そういう男にはなかなか理解できないわな。金に困ったことのないボンボンに、金が無い人の気持ちを分かれといっても無理があるよ。まあ、財務省がしっかりやればいいんだし。この前も電話して強く言っておいたけど」

麻生財務相
麻生財務相

さて、亀井氏はアフターコロナの日本と世界をどう見ているのか?

亀井氏:
「この戦いというのはね、我々がいままで遭遇したことのない戦いだから、ある面では手探りみたいなところがあるのですよ。考えてみると、人類、人間の生活は人と人とが接触することによって成り立った。文明も成り立ち、そして発展してきた。その人と人との接触が危険だという事態になって、さてどうするか。国民は『自由でありたい、しかし助かりたい』と都合のいいことを考えたらだめだ。生き延びるためには、ある程度自由が制限をされるのも甘受せねばいかん。その覚悟が今の国民にあるかどうかだ」

亀井氏は政府にもの申すのと同時に、国民に選択と覚悟を問う。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。