「夜眠れない」「いつも何か食べてないと不安」「家族についイライラしてしまう」。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う自粛生活が続き、日常生活の制限や環境の大幅な変化が起こったことにより、こんな声を聞くことが多くなってきた。そして今は「五月病」の心配も。

今年の五月病は例年と何か違いがあるのか。認知行動療法のカウンセラーであり、ハートフルライフカウンセラー学院の学院長でもある石川千鶴さんに今年の傾向と対策を聞いた。

メンタルの不調も増えている…

認知行動療法のカウンセラー・石川千鶴さん

――今年の五月病にはどんな特徴がありますか?

通常よく言われている五月病とは、学校や職場などの新しい環境に適応することができない状態を指しており、広義の意味では適応障害やうつ病になることを意味しています。

特に四月は入学・就職など環境に変化が起こりやすい時期で、五月はちょうどそのストレスが溜まり始めた頃にあたり、不眠やうつ状態を訴える人が急増するため、これを五月病と呼んでいます。 

今年の五月病の特徴は、例年四月に起きる環境変化に加え、新型コロナウイルス感染症への対応から来るメンタル不調も多くみられそうです。多くのビジネスマンが、在宅勤務を余儀なくされ、働く環境に急激かつ大きな変化がおき、ストレスを抱えています。

入社したばかりの新入社員も、オンライン上でしか先輩社員とコミュニケーションが取れず、具体的な業務に就くこともない中で、日々の業務日報を提出しないといけないフラストレーションがあるようです。

またコロナによる在宅勤務は、通常とは違う閉鎖的な環境下であり、そこに適応できないために心が疲弊してしまいます。それを「コロナうつ」、「コロナブルー」といいます。

症状は人によって異なりますが、「私は不幸だ」「明るい未来はない」などと物事を否定的に捉え、「憂うつ」「むなしい」などのネガティブな感情が沸き起こってくるようになります。今までと違った環境に適応できず、ストレスを感じたために起こるものです。

コロナに対する危機感の違いから、家族や周囲に対して不満を募らせたり、イライラすることも挙げられます。「自分はこんなに気を付けているのに、家族は無関心でもう嫌!」という声も聞きます。終わりの見えない自粛生活と経済活動の低迷により、社会に対して強い憤りを感じることも多いでしょう。

セロトニンが不足したら「バナナ」が有効?

自分の心を守るために、五月病や「コロナブルー」を乗り切るための4つの秘策があります。

まず、取り組むのは食事療法。

ストレスの多い「コロナブルー」の状態では私たちの体の中で、脳内物質セロトニンが不足しています。セロトニンは心を安定化させてくれる神経伝達物質で、今のような状況では、それが減少していると思われます。

セロトニンを作る主な栄養素はトリプトファン、ビタミンB6、炭水化物の3つ。この3つの栄養素が含まれている理想的な食べ物が「バナナ」。朝、一品バナナを追加することから始めてみましょう。

次は「行動療法」。

太陽の光はセロトニンの分泌を高めてくれることがわかっています。朝起きたら、太陽の方に向かって伸びをして深呼吸してみましょう。ポイントは「さあ、やろう」と考えすぐに行動に移すこと。

人間は、「コロナブルー」のときは物事を後回しにしぐずぐずしがちです。「さあやるぞ」と声に出すだけでも、重たい腰が上がりやすくなります。

自分の時間を持つことも大切…

そして、今回は同居人の間でのトラブルが多いのも特徴です。そこで必要になるのが「自分の時間を持つ」こと。

最初は普段、家にいない家族や同居人と一緒にいられて嬉しいものですが、だんだんとストレスを感じていることも多いです。親しいからこそ、「面倒を見なくては」「相手をしてあげなくちゃ」と思いがちですが、すべき論で考えることで普段以上に負担になっています。

家族でも個人の一日のスケジュールを決めて、それぞれがひとりで何かする時間を設けるようにしてみてください。

でも、「そんなことできない!」という方も多いでしょう。特に小さいお子さんがいると難しいのですが、そういう場合は子どもの睡眠時間を利用したりすると、細切れながら持ちやすくなります。

相手の動きに合わせて対応していると、自分の時間は持ちにくいのであらかじめ宣言して決めてしまうのがコツ。自分のわがままではなく、心を守るために必要な時間だと伝えれば、みんなの了解も得やすくなるかもしれません。

「うちは家族が協力的じゃない」「理解がない」という方もいますが、自分の気持ちを言葉にして伝えていますか?

相手の出方を予想して勝手に萎縮してしまっているケースもありますし、不満を募らせつつも自分がどうしたいのか伝えていないこともあるのではないでしょうか。

また、相手に伝えるときに「自分の時間を持たせて欲しい」とお願いする形ではなく、「悪いのだけど」とことわりをいれつつ、「心を守るために自分の時間を持つ」と最初に宣言することが大切です。

まずは自分の考えを伝えましょう。どうしても意見が合わなかったら、お互いに言葉に出して調整するのです。日本人は「おもいやり」を美徳としている方が多いため、自分の気持ちを言葉にすることはよくないことと考え躊躇しがちですが、言葉にしないと伝わないのが現実です。

お互いの意見を出して、互いを尊重しながら妥協点を探ってみてください。適切な自己主張も心を守り、人間関係を保つために大切なことです。

次に、「運動療法」。必ずリズムをとりながら体を動かす時間を持ちましょう。体の中で血液が循環され、リズムを刻むことで脳も活性化してきます。簡単な運動としては散歩がおすすめです。またラジオ体操なども家で手軽にできるので、毎日の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

自分が“負の感情”に陥るのはどんな時?

最後は「認知行動療法」。

ストレスになる状況を作り出す否定的な考え方やモノの見方(認知)に自らが気付き、それを修正し、バランスのよい考え方を身につけていく療法です。

日本の厚生労働省でも効果的だと認められ、うつ病、パニック障害、薬物・アルコールなどの依存症、摂食障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)をはじめとする心の病気にも有効とされています。

認知行動療法をセルフケアに活用するには、自分が負の感情を感じるとき、どんな状況で何を考えているのか、まず、記録してみましょう。それだけでも自分の考え方のクセを知ることができます。考え方の偏りを知ることで、どうしたらバランスの良い考え方を持てるか冷静に見つめることができます。

実はネガティブな考えは、「自分否定」「他者否定」「世の中否定」の3つのパターンのどれかに分かれます。

たとえば、テレワークで五月病になったときに、自分否定タイプは「自分のせいだ」「自分は会社の足でまといになっている」と落ち込み、他者否定タイプは「私は頑張っているのに家族は私の邪魔をして評価してくれない」「うるさい家族のせいだ」と憤り、世の中否定タイプは「外出できない社会はもう終わりだ」「この国の制度がしっかりしていないからだ」と悲観するのが一例です。

しかし、これは自分の「考え方のクセ」のせいであって、事実でもなければ、だれでも考えるような一般的・常識的な考えではありません。

視点を変え、他人ごととして捉えてみると、いつもの自分の考えのクセとは別のバランス良い考えを持ちやすくなります。「大切な友人が同じことで悩んでいたら、どんなアドバイスをするか」「家族が同じ問題で苦しんでいたら、何と声をかけてあげるか」を考えてみてください。

他人ごとなら、意外と別の捉え方ができることに気付いたりするものです。その言葉を自分にもかけてあげるようにすると、心が楽になります。

最初は自分の考え方の型に戻ってしまうものですが、繰り返すことで違う考えができるようになってきます。わたしのスクールでも認知行動療法演習や脳活性トレーニングをして、脳の活性に役立つ手法を身につける講座を提供していますが、みなさん何度も繰り返すことで心のバランスを取り戻しています。決して諦めず、自分の頭の中を活性化する練習をして「コロナブルー」を乗り切りましょう。

突然の事態で環境は変わってしまうもの。周囲の状況はなかなか思うように変えられませんが、せめて自分の心は自分で平穏に作れるようにできるといいですね。 

〈取材・文〉遠山怜

『人間関係の悩みをスッキリ解く 5つの公式』(光文社)

ハートフルライフカウンセラー学院 学院長
日本推進カウンセラー協会理事。大手通信会社人事部で、人材育成や業務研修を通してカウンセリングやコーチングの手法を習得。仕事の重圧から心が疲弊し、自身でメンタルケアについて積極的に学習するなかで、認知行動療法に出合う。認知行動療法を取り入れたカウンセラー&メンタルトレーナー養成スクールと心理カウンセリング・メンタルトレーニングルームを開設。著書に『人間関係の悩みをスッキリ解く 5つの公式』(光文社)がある。

ハートフルライフカウンセラー学院
https://www.heartfullife.jp/