新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活、国や企業のかたちは大きく変わろうとしている。これは同時に、これまで放置されてきた日本社会の様々な課題、東京への一極集中、政治の不透明な意思決定、行政のペーパレス化や学校教育のIT活用の遅れなどを浮き彫りにした。

連載企画「Withコロナで変わる国のかたちと新しい日常」の第6回は、Withコロナで見えてきた障がい者を取り巻く社会環境の変化とアフターコロナのあり方だ。

豊かなアフターコロナの社会を作れるか

視覚や聴覚の障がい者とともに、ソーシャルエンターテイメントという新しいジャンルを切り開いた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。1999年の開始から既に22万人以上が訪れているこのイベントを主催するのが、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(以下ダイアローグ)だ。

ダイアローグでは、聞こえない世界を再現する「ダイアログ・イン・サイレンス」も行う
ダイアローグでは、聞こえない世界を再現する「ダイアログ・イン・サイレンス」も行う
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ダイアローグは4月23日から26日の4日間、新型コロナウイルスの感染拡大によって視覚・聴覚の障がい者が新たな生きづらさを抱えている実態を調査した。

理事の志村真介さんは、調査の狙いをこう語る。「どのように私たちの意識を変れば、偏見や差別、分断ではなく、合理的配慮をし誰も置き去りにしない、より豊かなアフターコロナの社会を作れるか。それをみんなで考える対話の機会が必要だと考えました」

オンライン会見中の志村真介理事(右)
オンライン会見中の志村真介理事(右)

接触回避やマスク着用で生活に変化

調査によって、全体の約6割の障がい者が仕事や学習の変化に不安を感じている実態がわかった。

「会社にもしものことがあったら、真っ先に障がいのある自分が切られるんじゃないか」といった雇用の不安のほか、聴覚障がい者からは「オンラインミーティングは音声しか使用せず、(筆談では)皆と同じタイミングで参加できない」という声もあった。

そして、生活環境については6割以上が「生活や外出面に不便がある」と回答した。

その理由について、視覚障がい者からは「ソーシャルディスタンスが確認できない」「日ごろ触覚に頼る部分が多く、感染対策が難しい」などの声が寄せられた。

また、聴覚障がい者からは「マスク着用で口型や表情が読み取りづらく、コミュニケーションが難しい」「筆記用具の受け渡しがやりづらく、筆談を遠慮してしまう」という声が挙げられた。

さらにコミュニケーションについても、視覚障がい者から「街中で声をかけてくれる人が減り、様子がわからなくなった」という声があった。

ダイアログ・イン・サイレンス アテンドの松森果林さん 聴覚障がい者はマスク着用で不便を感じている
ダイアログ・イン・サイレンス アテンドの松森果林さん 聴覚障がい者はマスク着用で不便を感じている

視覚障がい者は申し訳ないと感じてしまう

こうした不安や不便さを訴える声の一方で、約6割が「人のつながりやあたたかさを感じた」と回答したことは救われる思いだ。挙げられたエピソードを紹介する。

視覚障がい者:
「3密が言われてからも、駅ホームなどで声をかけてくれ、誘導してくれる人がいる」
「ドラッグストアで買い物サポートをお願いした時、いつも通り一緒に腕を持たせてくれて歩いてくれた」

聴覚障がい者:
「一生懸命ジェスチャーで伝えようとしてくれた」
「病院の看護士さんがマスクを外して対応してくれた」

こうした状況の中でも思いやりや配慮を持って障がい者と接する人々がいることがわかった。志村さんは次のように語る。

「視覚障がい者はストレートに困っていると言えず、申し訳ないと感じてしまう方が多いのがわかりましたが、この不便な状況にもかかわらず、知らない人に街で声をかけてもらったという話もあり、うれしかったです。また、聴覚障がい者に普段よりもジェスチャーや表情を駆使する方々が増えていることがわかり、気持ちが温かくなったという声も挙がっています」

「マスクをしていても目と目を合わせて」

この調査結果を受け、ダイアローグでは視覚や聴覚の障がい者が抱えている問題解決のため、障がいを持つ当事者からの提案を発表した。

提案の中にはメディアや助成金手続きに対するもののほか、視覚障がい者からは「フィジカルディスタンス(※)や張り紙など、街の変化を声で伝えてほしい」「こんなときだからこそ声をかけてほしい。その際には、対面ではなく横に並んで声をかけていただくと分かりやすいです」「誘導していただく時には、手のひらではなく、肘や肩を持たせてください」「目が見えなくてもマスクの下の声で、十分に表情や感情が伝わります。いつも以上にはっきりとした声で、お互いに笑顔で安心できるコミュニケーションをしましょう」といった提案があった。

(※)WHOがソーシャルディスタンスを「人と人とのつながりは保ってほしい」と言い換えたもの

ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンドの大胡田亜矢子さん 視覚障がい者は声をかけてほしい
ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンドの大胡田亜矢子さん 視覚障がい者は声をかけてほしい

また、聴覚障がい者からは「声も筆談も大きくはっきりと」「ジェスチャーやボディランゲージも、みんなにとってわかりやすい」「手話はフィジカルディスタンスが取れるコミュニケーション手段」「マスクをしていても、笑顔は目や頬の動きで伝わってきます。アイコンタクトをとるだけで安心できます。マスクをしているからといって顔の表情はお休みせず、目と目を合わせてお互いにやさしい気持ちを伝え合いましょう」といった提案があった。

「障がい者は死亡リスクが高い」と国連が指摘

Withコロナの今、障がい者が置かれている現実は厳しい。

国連は「世界の人口の15%、約10億人の障がい者が、健常者に比べて感染で死亡するリスクが高く、集中治療室(ICU)や人工呼吸器の利用を後回しにするなど差別している国もある」と指摘し、保護の強化を求めた。

アフターコロナに向けて、障がい者を取り巻く社会環境はどう変わるのだろうか。志村さんはこう言う。

「日本では現在、約3人に1人が障がい者と高齢者です。今、その方々の深い経験と生きる術からくる知恵を社会に活かす必要があります。お互いになくてはならない存在であることに気づき、慮るチカラと利他性を養うことで、私たちは幸せな『新しい生活様式』へシフトすることができると思います」

アフターコロナで訪れる新しい日常は、排除や分断のない、お互いが支え助け合う社会であるはずなのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。