金正恩委員長“重大な危機”から2週間

「金正恩委員長は重大な危機に陥っている」

アメリカのCNNがこう伝えてから2週間以上。いまだに金正恩・朝鮮労働党委員長の姿は確認されておらず、その“不在”は、様々な憶測を呼んでいる。北朝鮮は情報統制が厳しく、内部で何が起きているか容易には窺い知れない。

CNNの報道の後、ツイッター上などでは「心臓の手術が失敗した」、「金委員長は脳死状態に陥っている」などと、様々な情報や憶測が飛び交っている。金委員長は一体どのような状態なのだろうか。衛星画像から北朝鮮の分析を行うアメリカの研究機関「38ノース」の首席アナリスト、マイケル・マッデン氏(Mr.Michael Madden)に話を聞いた。

マッデン氏のインタビュー フジテレビ・ワシントン支局にて
マッデン氏のインタビュー フジテレビ・ワシントン支局にて
この記事の画像(5枚)

ーー「金委員長が重篤な状態に陥った」、「医療チームが駆けつけた」との報道もありますが?

マッデン首席アナリスト:
その点について特に注意深く見てきましたが裏付ける事象が今のところは見当たりません。衛星画像の分析と情報をクロスチェックすることで観察することが可能ですが、彼の体に関する不測の事態で、隠しようのない事象は2週間のモニターで確認することはできなかったのです。

マッデン氏は、衛星画像の分析から、金委員長は、平壌ではなく、直線距離で約150キロ離れた東部の元山に滞在しているとした。その上で、公式な場に姿を現さない理由として、新型コロナウイルスの感染拡大が影響している可能性が高いと指摘。次のような見方を示した。

新型コロナウイルスからの回避か

北朝鮮でも道行く人はマスク姿
北朝鮮でも道行く人はマスク姿

マッデン首席アナリスト:
先週は「心臓の手術を受けた」という説が出て、「死亡説」まで取り沙汰されました。今度は、新型コロナウイルスを回避する動きだという説です。それは退屈な理論ですが、おそらく最も可能性が高いシナリオです。

北朝鮮はウイルスの感染者数はゼロとしていますが、それはPCR検査体制が無かったからです。しかし周辺国の援助もあり検査体制が構築された結果、複数の感染者が確認されたのです。これにより、金委員長がウイルスに晒されるのを防ぐ緊急対応がとられたのです。北朝鮮では最高指導者である金委員長の健康を守ることは何よりも大切なことです。それは過去の南北首脳会談で金委員長のサインする際に使うペンが消毒されたり、体に触れるものが消毒されたことからも垣間見えます。

2018年4月の南北首脳会談では署名式の前に北朝鮮側が消毒を実施
2018年4月の南北首脳会談では署名式の前に北朝鮮側が消毒を実施

それに留まらず、興味深い一つの推論があります。金委員長が単に避難しているだけでなく、公の場に姿を見せていないのは、彼のボディーガードがウイルスに感染したからではないかいう推測です。これは非常に可能性の高いシナリオだと考えています。

5月1日に姿を現す可能性も

マッデン氏は金委員長が長期にわたって公式な場に姿を現さない理由として、金委員長に接近を許される数少ない身辺警護担当者への感染の広がりを指摘する。

一方で、金委員長が近く、公式の場に姿を現す可能性についても言及した。

マッデン首席アナリスト:
金委員長は5月1日に姿を現す可能性があります。私がそう言う理由は、過去10年間、北朝鮮は1日の国際メーデーを、金委員長の指導の下でより積極的、かつ、公に祝い始めたからです。この祝日は彼の父親から引き継いだものではなく、彼自身のリーダーシップと「朝鮮民主主義人民共和国」が結びついていたものです。これに合わせて何かしらの形で姿を現すかもしれません。

2019年5月平壌
2019年5月平壌

マッデン氏は、金日成主席から脈々と続く金一族の権威を強調する行事が多い中、5月1日のメーデーは金委員長のレガシーとして特別な意味合いを持っていると指摘した。健康不安説を払しょくし、健在ぶりを誇示するのは、まさにそのタイミングなのか。金委員長の動静に注目が集まっている。

【執筆:FNNワシントン支局 ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。