まるで“あの”ホラー映画?!密漁防止ポスターの狙いとは

4月から東京の地下鉄駅構内で掲出された上記のポスター。ホラー映画「貞子」を彷彿させる、お役所らしからぬデザインが目を引く。なぜこのような奇抜なポスターを作ったのか、作製した水産庁の担当者に話を聞くと「一般国民にも『密漁』について関心を持ってほしい」という狙いだという。では、新型コロナウイルス対策が国民的な関心事となっている中で、なぜ今「密漁対策」にも目を向けることが重要なのだろうか。そこには、あるワケがあった。

水産庁ホームページより
水産庁ホームページより
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「黒いダイヤ」を狙う“アウトロー”の増加

水産庁によると、近年は密漁などの「漁業関係法令違反」の件数が高止まりしているうえ、正規の漁業者以外による密漁が増加傾向にある。密漁というと、規定に違反して漁を行う、いわゆる漁師さんの悪さを想像するかもしれないが、そうした事例はほとんど過去のものとなっている。近年は暴力団など反社会的勢力による密漁が増え、その手口は悪質かつ巧妙化しているという。そして、当然ながら密漁によって反社会的勢力が得た資金は、犯罪行為に使われることとなる。

水産庁資料より
水産庁資料より

そして特に問題となっているのが、こうしたアウトローたちが高価格ゆえに狙う「黒いダイヤ」こと「ナマコ」の密漁だ。ナマコは一般には酢の物として食べることで知られているが、海外では高級食材や漢方薬の原料としての需要が大きく、アワビなどと同様に日本の人気輸出品となっているのだ。希少価値ゆえ採捕の規制が厳しいため、輸出目的で闇市での売買が横行し、水産庁関係者によると乾燥ナマコで1㎏10万円の値を付けることもあるという。真面目に漁に励む漁業者を横目に、反社会的勢力は闇市での売買により暴利をむさぼっている訳だ。

ナマコ・長崎市HPより
ナマコ・長崎市HPより

罰金を最高額に引き上げへ

これまで漁業法では漁業権侵害や無許可漁業などの罪に対し罰則が設けられていたが、例えば漁業権侵害については罰金の最高額が20万円と低く、「これでは罰金を払ってでも密漁を続ける人がいるのでは」と実効性を疑う声も多かった。

イメージ・海上保安庁HPより
イメージ・海上保安庁HPより

そこで2018年に漁業法が改正され、以下の点で密漁への罰則が大きく強化されることとなった(今年中に施行されることとなっている)。

(1)漁業権侵害の罪、無許可漁業等の罪への罰則強化
漁業権侵害の罪については、罰金を20万円以下→100万円以下に引き上げ。無許可漁業等の罪については、3年以下の懲役または200万円以下の罰金→3年以下の懲役または300万円以下の罰金に引き上げ。

(2)採捕禁止違反の罪、密漁品譲受等の罪を新設
これにより、例えば「趣味で採っていただけ」という言い逃れでも検挙が可能となり、密猟者の言い逃れによる“いたちごっこ”が通用しなくなる。また、いわゆる「運び屋」の存在が密漁を助長していた実態があったため、実際に密漁を行っていなくても「譲り受けた」だけでも密漁と同罪と見なされるようになる。
そして、この2つの罪に対する罰則は最高で懲役3年または3,000万円以下の罰金となり、3,000万円以下の罰金は個人に対する罰金の最高額である。​

密漁に対し、個人への罰金額としての最高額を課すことで、「密漁を許さない」との強力なメッセージを発出したい狙いだ。このように、密漁抑止に大きな効果が期待できる罰則の強化に加え、これを機に密漁対策の気運を高めるべく、前出のポスターなどにより広く一般に呼びかけているのだ。水産庁は今後、各都道府県や漁協などと連携し、密漁への関心や注意の喚起を図ることにしている。

コロナで苦しい今こそ密漁対策を

政府関係者は、コロナの感染拡大の影響が長期化する中、漁業者も苦しんでいると語る。料亭などの高級料理店が総じて休業しているために高利益の高級魚が売れず、海外需要も同様に激減している。政府が農林水産物の輸出拡大を目指していた矢先の苦境となっている訳だが、その傷口に塩を塗るのが密漁だ。

コロナ抜きでも、密漁者が地道に頑張る漁業者が得るべき収益を奪う構図が続けば、ただでさえ漁業人口の減少が叫ばれる中、ますます漁業の担い手は減っていくだろう。

イメージ・ナマコを水揚げする様子:水産庁HPより
イメージ・ナマコを水揚げする様子:水産庁HPより

農水省関係者は「ルールを守っている漁業者がバカを見るのはおかしい」と訴え、今回の漁業法改正が抑止力となってほしいと強調する。我々一般国民としても、コロナにより多くの業種が苦しんでいる今だからこそ、漁業をむしばむ「密漁」という問題に目を向ける機会としたい。

(フジテレビ政治部 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部