アビガンは「希望」 安倍首相が増産を表明

「我が国が開発したアビガンについては、すでに2000例以上の投与が行われ、症状改善に効果があったとの報告も受けています。希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大にすると共に、可能な限り早期の薬事承認を目指すべく努力をしております」

4月27日の衆院本会議で安倍首相がこのように語り、新型コロナウイルスの治療薬としての早期正式承認を目指す意向を示した抗インフルエンザ薬「アビガン」。ウイルスとの戦いが長期化していく中、有効な治療薬として期待されるこの薬の名は、今や一般国民の間でも広く知れ渡ってきている。

安倍首相は7日の記者会見では、アビガンの可能性について次のように言及した。

アビガン
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「全く先が見えない大きな不安の中でも、希望は確実に生まれています。(中略)新型インフルエンザの治療薬として承認を受け、副作用なども判明しているアビガンはすでに120例を超える投与が行われ、症状改善に効果が出ているとの報告も受けています

安倍首相会見・4月7日

安倍首相はさらに、アビガンが新型コロナウイルスの治療に効果があるとの立場から、治療薬としての使用拡大に向けて次のように表明した。

観察研究の仕組みの元、希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大していく考えです。そのためにアビガンの備蓄量を現在の3倍、200万人分まで拡大します。国内での増産に必要な原料の生産には各地の企業が協力を表明してくださっています」

観察研究とは、簡単に説明すると、(1)患者が入院している病院の倫理委員会が、病院としてアビガンの使用を認め、(2)医師がアビガンの投薬が効果的だと判断し、(3)患者本人が同意する。この3点が成立すればアビガンを新型コロナウイルスの治療に使えるシステムのことだ。

政府が早期から期待をかけていた「アビガン」

なお、政府は早い段階でアビガンの可能性に目をつけていて、2月の段階で約45億円をアビガンの研究や感染症研究に対応する施設の整備などに投じていた。担当の竹本大臣は当時、“当初コロナとは関係の無い、ほかの研究に使う予定だった費用を思い切って再配分した”と経緯を語った。

竹本大臣

では、これほどまでに政府が環境を整えてきたのに、なぜアビガンは未だにコロナの治療薬としての承認を得られていないのだろうか。それは、アビガンの大きな欠点も明らかとなっているからだ。

深刻な副作用も存在する「諸刃の剣」

あらゆる薬には副作用が存在し、アビガンもその例外ではない。アビガンは動物実験で催奇形性(胎児に奇形を生させてしまう性質)が確認され、ゆえにインフルエンザ治療薬として使う場合も妊婦への使用が禁じられている。また、政府関係者によると、軽症や中等症の患者では高い効き目が見られるが、重症患者への効き目は必ずしも十分とはいえない。

ただ、コロナ患者の重症化防止が大きな課題となっている現状においては、こうした欠点・副作用を考慮した上で、軽症の高齢者に投与すれば問題ないように思える。

それでも、政府関係者は催奇形性を念頭に、「薬害のリスクがあるため、緊急事態といえども簡単に承認できない」と強調する。引き合いに出すのはサリドマイドによる薬害だ。

薬害を扱う厚労省の教材・厚労省HPより抜粋

サリドマイドは、1950年代後半に日本を含む各国で睡眠薬・鎮静薬として販売されたが、妊娠中の女性が服用したケースで多数の胎児に重度の先天異常を引き起こしたため、世界的に販売中止と回収が行われた薬剤だ。

よって、この関係者は「アビガンが一時的に効いても、サリドマイドみたいに薬害が出てしまうと、将来にわたって禍根を残す」として、承認プロセスは慎重に行わなければならないと語る。別の関係者は「厚労省は、薬害エイズ事件の歴史があるからDNA的にかなり慎重なんだよね。慎重になりすぎな部分もあるんだけど」と解説する。

安倍首相が「希望」と形容していたアビガンは、まさに諸刃の剣であり、政府としては慎重な対応も求められていることがわかる。

世界で関心が示される中、安倍首相の「政治的な賭け」

さて、気になる承認の目処だが、健康医療戦略を担う竹本大臣は24日の会見で、アビガンの企業治験(承認申請を目的として安全性や有効性を確認する企業主導型の治験)が3月31日に始まったと紹介したが、承認の具体的な目処については言及を避けた。そのうえで、実用化に向けた承認について「こういう事態なのでそんなにのんびりしていられないので、相当急いでやることになると思う」「コロナはこれといった確定した治療薬がないというのが非常に怖いところであり、全力を挙げて薬の開発に努力している」と強調した。

一方、アビガンについては日本国内での研究開発と並行して、海外への供与が進んでいる。

茂木外相

茂木外務大臣は17日の会見で、日本が人道的見地から、希望する国々に対してアビガンを無償供与するため計100万ドルの緊急無償資金協力を行うことを決め、これまでに50ヵ国以上から提供の要請を受けており、すでに20ヵ国については一定の枠内で無償供与すべく調整済みだと明かした。

安倍首相は新型コロナウイルスをめぐって各国の首脳と電話会談を行っているが、その多くで相手国から「アビガンを譲ってほしい」と高い関心が示されているという。アビガンの効能が証明されれば、日本はコロナ対策において世界で大きな存在感を発揮できる可能性がある。

こうした世界貢献につながる海外への供与に付随して、日本は自国の利益を維持するために、アビガンを含む感染症関連の医薬品製造への外資規制を外為法で強化することとしている。世界がアビガンに期待を寄せる流れの中、先端を走る製薬会社などが中国をはじめとする外資に買収されるのを防ぐためだ。

アビガンが新型コロナウイルス感染症の治療に功を奏するかまだ確定的には分からない中で、安倍首相がアビガンへのこだわりをみせるのは「政治的な賭け」だと政府関係者は語る。確かに、リスクを冷静に見極める必要がある一方で、せっかくの自国開発の薬に関して日本が外国に遅れを取ることはあってはならず、藁にもすがる思いの患者たちの期待にも応えなければならないのが現状だ。

それだけに、アビガンが新型コロナ対策の確かな希望となることを願うと共に、同時に国民一人一人がアビガンについて、正と負の両面を正確に理解する必要性を感じる。

(フジテレビ政治部 山田勇)