武漢の死者数を1.5倍に訂正~「意図的な隠蔽の余地はない」

「死者数は1290人多かった」武漢市当局は4月17日、新型コロナウイルスによる死者を2579人からおよそ1.5倍の3869人に上方修正した。理由としては、感染初期の混乱で病院から正確に報告が来なかったこと、自宅で死亡した人がいたこと、重複してカウントされた人があったことなどを挙げている。

1月の武漢の病院には患者があふれかえった(ウェイボより)
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SNSでは「政府の責任ある態度だ」「亡くなった人への尊重だ」と賞賛の声が多数ある一方、「まだ公表されていないものが多数あるだろう」「政府が何人と言えばその人数だ」「また訂正し続けてください」という批判的な声もある。

ただ、武漢では3月下旬、「葬儀場に遺骨を受け取りに来た人が200メートルの長い行列を作り、葬儀場に3500個の骨壺があった」と、調査報道で知られる中国メディア・財新が報じた。映像もSNSに出回って、実際の死者数はもっと多いとの指摘が出たのだ。

武漢の葬儀場には遺骨を受け取る人の長い列ができたとする画像がSNS上に(ウェイボより)

中国では過去にも様々な統計データの改ざんや隠蔽が明らかになっていて、今回、武漢市が自ら訂正発表を行ったことで国際社会の見方が変わるかは不透明だ。

中国共産党系の環球時報(英語版)は『欧米の騒音の影響を受けず事実に基づいて死者数を訂正』との論説を発表。

「欧米などで死者数の隠蔽が疑われているが・・」としたうえで「これは死者への慰霊であり、武漢市はこれらの主張の影響を受けず、感染症予防管理法に基づき訂正した。死者数の厳格な見直しと訂正は意図的な隠蔽の余地がないことを意味する」と強調。その上で「中国は法律を完全に無視してデータをねつ造できる国ではない。国民全体に関わるデータを悪意を持ってねつ造することは犯罪だと誰もが知っている」としてねつ造は起こらないと主張した。

1月の武漢の病院は夜になっても患者の行列が続き医療現場は混乱した(ウェイボより)

また、中国共産党機関誌・人民日報も論説で「“故意に隠蔽する”ような自分で自分の首を絞めるような近視眼的なやり方を、いまだかつて中国政府はとったことがない」と主張した。

死者数についてアメリカのトランプ大統領は、「死者が最も多いのは中国のはずだ」とあらためて強調し早期に情報を提供しなかったことを批判した。

一方、WHO=世界保健機関は「当初は医療体制が逼迫し自宅で亡くなる人などがいたためで、他の国でも起こりうる」と指摘した。

「中国の対応を単純に信じてはいけない」~各国から強まる中国への批判と情報公開求める声

ただ、国際社会の中国の情報公開に対する見方は厳しさを増している。

「中国の方がウイルスに上手く対応していると単純に信じてはいけない」

きつい言葉で中国の情報公開への疑問を呈したのはフランスのマクロン大統領だ。イギリスのフィナンシャルタイムズの取材に「我々の知らないことが起きているのは明らかだ」とも指摘し、中国の対応に警告を発した。フランスでは中国大使館の外交官が、欧米諸国が感染を軽視し拡大させたことを批判する文章を掲載し、フランスの外相が中国の大使を呼んで抗議し対立も起きている。

またイギリスメディアによると、ジョンソン首相の代行を務めるラーブ外相も会見で「感染が終息しても中国と平常のように戻ることは出来ない」とし、「国際社会はウイルスの発生や対応について、中国政府に厳しく答えを求めるだろう」と述べて、今後、中国との関係を変える厳しい向き合いを示唆した。

また新型コロナウイルスの発生源を巡りアメリカが中国への批判を強める。

「この恐ろしい状況について我々は徹底的に調査している」

トランプ大統領は、ウイルスが武漢のウイルス研究所から流出し感染が拡大したとする疑惑を調査をしていると強調した。FOXニュースは「アメリカ当局は現時点でウイルスが生物兵器として作られたことは排除し、研究所で研究されていた自然界のウイルスが市内に流出したと見ている」と報じている。ただ、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は「多くの証拠が自然発生を示唆しているが結論は出ておらず、確かなことは分からない」との見方を示す。

ウイルス発生源を巡り、中国は、習近平国家主席が「ウイルスがどこから来たか調べよ」と指示したり、外務省報道官が「ウイルスはアメリカ軍が持ち込んだかもしれない」とSNSで発信し、中国以外から来た可能性を示唆してアメリカと対立。

ウイルスの流出元は当初原因とされた武漢の海鮮市場ではなかった?(ウェイボより)

中国外務省は「これは科学の問題で専門家の意見を聞くべきだ。WHOは研究所で作られた証拠がないと何度も言い、世界の多くの医学専門家も研究所からの流出に科学的根拠がないとしている」と否定する。

批判が強まるのは中国の情報公開に不信感が拭えないからだ。中国政府は、感染拡大が本格化する前に警告を発した武漢の医師らを摘発し、情報を積極的に公開せず隠蔽して感染を拡大させた、と国際的に批判を受ける。

AP通信は「中国政府がウイルスの深刻な脅威を認識しながら1週間隠蔽したため拡大させた」ことを示すとする内部文書の内容を報じた。

それによると、中国国家衛生委員会の委員長は1月14日の会議で「ウイルスがSARS以来最も厳しく公衆衛生上の大事件に発展する可能性が高い」と述べ、ヒトからヒトへの感染の可能性にも触れていたという。しかし1月20日に習近平国家主席が対策を指示するまで、公表されなかった。

“世界の尊敬を集めた” 国際協力アピールを強化する中国だが、求められるのは、、、

「中国は127カ国に医療物資を提供し、世界の尊敬を集めた」とアピール(ウェイボより)

中国政府は他国の支援を強化する。「マスクや防護服などの医療物資の支援は127カ国、4の国際機関に及び、世界保健機関への2000万ドル(約21億5千万円)の寄付、11か国に13の医療専門家チームを派遣したほか、地方政府や企業も100以上の国・地域や機関に医療物資を寄贈した」(人民日報)として「世界の尊敬を集めた」と強調する。“マスク外交”と呼ばれる外交は、感染終息後の影響力拡大に加え、初期の情報隠蔽による感染拡大への批判回避の狙いも指摘される。

“ウイルスを広めておいて救いの神になろうとしている”との欧米からの批判には「一部の人は中国に責任を押しつけ、感染との戦いでの力不足の責任を負おうとしない」(人民日報)と反論する。

「中国政府は透明で責任ある態度でウイルス情報を提供してきた」と国際協力の姿勢を強調(ウェイボより)

習近平国家主席は、中国共産党の理論誌に論文を発表し「中国政府は、オープンで透明で責任ある態度で、WHOや関連国に適時にウイルスの遺伝子配列などの情報や予防・制御・治療の経験を伝え、国際協力を積極的に展開してきた」とあらためて強調した。

ただ、今回の死者数の大幅修正や初動対応の不透明さから、もともと疑念を抱く国際社会が、“中国はまだ何かを隠しているのでは”という疑念をさらに深める可能性がある。徹底した情報公開こそ中国政府ができる最大の国際貢献だ。

【執筆:FNN上海支局 城戸隆宏】