「横ばいになりつつある」-ニューヨーク州のクオモ知事が今週になって使い始めた言葉だ。確かに入院患者の増加数はピーク時のおよそ7分の1に減ってはいるが、一方で、死者は3日連続で一日の最多を更新している。ニューヨーク州では2001年の同時多発テロの死者の2.5倍にあたる、7067人(9日現在)もの命が新型コロナウイルスによって奪われた。最前線で治療にあたる、マウント・サイナイ医科大学病院の石川源太医師(専門:呼吸器集中治療)に話を伺った。

マウント・サイナイ医科大学病院の石川源太医師
マウント・サイナイ医科大学病院の石川源太医師
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現在、ほとんどがコロナウイルスの患者ですか?

石川医師:
ほとんどというか全員がコロナです。ICUをすべてコロナ専用にしました。10日くらい前は60人程度だったICU患者が、今は120人と倍増しました。ICU自体も増やしました。

人工呼吸器の不足が報じられていますが

石川医師:
基本的にはまだ人工呼吸器は供給できている状況ですが、もし今後、患者がものすごく増え足りなくなったときに備え、一つの呼吸器を使って2人の患者に治療するやり方を試験的に行っています。理想的なことではないですが、このやり方は可能なことだと思います。

コロナは「性格が悪いウイルス」

石川医師は、コロナウイルスの恐るべき特徴を、人工呼吸器を装着する“期間”を例にこう説明する。

石川医師:
このウイルスは「性格が悪いウイルス」です。一回呼吸器が必要な状態になるとなかなか短期間で治る病気ではない。人工呼吸器をつける期間は統計的には11~21日の間と言われています。一般的な疾患だと3~5日なので、普通の病気に比べると長いですね。

限られたICUベッド ”板挟み”医師の思い

人工呼吸器の装着期間が11日~21日と、一般の疾患に比べてかなり長い。そういった状況も、「呼吸器不足」を引き起こす要因となっている。さらに、それだけ長い間呼吸器を装着しても、病状が改善しないまま亡くなる患者も少なくないという。

人工呼吸器にICUという限られた医療資源。このため医療現場は、厳しい決断を迫られるケースもあるという。

石川医師:
最初は重症ではなくて一般の病床にいて、かなり悪くなった肺炎で、その後人工呼吸器をつける患者さんがいるとします。その患者さんの「予後」が難しいと判断されたとき、基本的には人工呼吸器の患者さんはICUに送られるのですが、ICUのベッドを確保するために一般の病床においておくという判断をしたりすることを迫られる医療チームもある。心臓マッサージにしても、心肺停止の際に、ご家族としては延命を希望すると思いますが、コロナの肺炎で肺が侵され心臓がとまった時に心臓マッサージしても、ノン・ベネフィシャル=あまり患者にとって利益がない、という場合もある。そのように医師が判断したときは、ご家族の希望があっても(延命)治療をしないという判断は、医療現場で行われていると思います。

限られたICU、増え続ける重症患者。こうした現場で医療従事者が抱える葛藤は、相当なものだ。

石川医師:
患者のご家族の(「延命してほしい」という)気持ちがあっても、医師が判断せざるを得ない時もあると思います。ICUに行けば数日間は命が伸びるかもしれませんが、医師から見ると、助かるのは厳しい、という判断をする際、患者のご家族の思いとの間で、「板挟み」のような気持ちになることはあります。

石川源太医師
石川源太医師

外来閉鎖、専門外の医師も「コロナに総動員」

コロナ治療の最前線に立つ石川医師。この未曽有の危機に立ち向かうためのキーワードは「総動員」だと語る。

―医療スタッフが足りない、と言われていますが、実感としては

石川医師:
足りている、というわけではありませんが、ニューヨーク州で非常事態宣言が出てから1カ月あまり、病院としてかなりいろんな対策をしました。大学病院の外来をすべて閉鎖し、緊急手術以外キャンセルする。外来を閉鎖したことで、外来メインの内科の先生を動員できる。私は呼吸器集中担当医としてフロントラインで重症者を診るが、それ以外の専門以外の先生は軽傷の人を診ます。手術がキャンセルになったので外科の先生も動員、放射線科の先生に点滴をとってもらったり、と業務分担しています。

―外来はすべて閉鎖ですか?

石川医師:
外来は完全閉鎖ではなく遠隔(オンライン)診療に切り替えています。外来でご高齢の医師、60歳とか70歳の先生には、家にいてもらって、自宅からオンライン診療で外来してもらいます。若手の医師がコロナ患者のフロントラインに立つというすみわけをしています。ニューヨークのほとんど大きな病院は外来を基本的には閉めていると思います

感染が拡大している日本も参考にすべきことですよね

石川医師:
今後日本で医療のマンパワーが少なくなった時に、専門の医師に患者のケアをすべて任せるのではなくて、専門ではない先生も何かできないか。病院のシステム、自治体や国で一致団結ことが必要だと思います。それをやらないとマンパワーが回っていかないと思います。大切なのは特定の医療スタッフを、疲弊させないことです。特定の医療スタッフが倒れると本当に医療崩壊が起きかねないと思います。

石川医師の勤務する病院では、こうした工夫も行われている。睡眠時無呼吸症候群の患者が使う、「在宅用」の小さな人工呼吸器を、“改良”してICUで使えないか、というものだ。こうした試験的な取り組みも行いながら、「人工呼吸器不足」に対応しているという。

現場“発”の発想と工夫で、危機を乗り切ろうと奮闘している医療現場の人々。石川医師は最後にこう訴える。

石川医師:
私たちのような患者さんを診る医療者も必要ですが、一方で患者を診ない、研究者の方にはコロナについて研究を頑張ってほしいです。研究者の方は、今やっている専門の研究をやめてコロナの研究をしてほしいです。治療薬を開発してほしい。どうしたら重症化が防げるかを研究してほしい。1か月後、2か月後ではなく、今すぐ、研究を進めてほしいし、臨床試験を行いやすい環境を作ってほしい。本当にコロナにはわからないことが多く、治療方法が限られています。現場の医師は病気を治したい気持ちがありますから。

【聞き手:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。