日本は世界から見ると“眠らない国”であることはご存じだろうか。

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本(2016年)の1日当たりの平均睡眠時間は442分(7時間22分)にとどまり、調査対象の33カ国で最低水準となっているのだ。

OECDのデータを元に編集部が作成
OECDのデータを元に編集部が作成
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調査時期が国ごとで異なるため、単純比較はできないが、南アフリカの553分(9時間13分)とは1時間30分以上もの差があり、日本との調査時期が比較的近い、カナダ(2015年)の520分(8時間40分)やイタリア(2013〜14年)の513分(8時間33分)と比べても短かった。

日本人の7割以上が「7時間未満」の睡眠

そして、上記の数字を見たときに「7時間22分?眠れてるじゃないか」と感じた人もいるはず。

しかし、日本国民の平均睡眠時間は、厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」(2017年)でも集計されているのだが、こちらでは、回答者の30%近くが「5時間以上6時間未満」、35%近くが「6時間以上7時間未満」と答えている。さらには「5時間未満」という人もいて、総数では7割以上が「7時間未満の睡眠」しかとっていないことになるのだ。一般的に7時間未満だと、「寝足りないかな?」と感じる人は多いかもしれない。

厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」(2017年)に編集部で一部加筆
厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」(2017年)に編集部で一部加筆

最近では、さらに睡眠不足の蓄積を負債に例えて「睡眠負債」と呼ぶようにもなった。この睡眠負債は実生活に悪影響を与えるだけではなく、休日の寝だめでは“返済”が難しいともいう。

私たちはこの問題とどう向き合えばよいのだろうか。
脳科学者で睡眠研究に詳しい、早稲田大学の枝川義邦教授に話を伺った。

そもそも睡眠負債ってどんな状態?

――睡眠負債はどんな状態?たまるとどうなる?

睡眠負債は自覚がないくらいのわずかな睡眠不足でも、積み重なることでいつの間にか大きな影響を及ぼす恐れがある状態を指します。蓄積すると、もの忘れや判断ミスが増えたり、集中力が続かなくなる、怒りっぽくなる、風邪をひきやすくなる、太りやすくなるなど、自覚できるような状態が増えてきます。さらに常態化すると、うつ病、高血圧症、糖尿病、がん、肥満、認知症にもなりやすくなると考えられています。

スマホの操作も悪影響を与える(画像はイメージ)
スマホの操作も悪影響を与える(画像はイメージ)

――睡眠負債がたまる要因を教えて。

夜間に十分な睡眠を取れないと、睡眠負債がたまりやすくなります。生物は太陽のリズムに合わせて生活してきたので、昼には起きていて夜に眠るというリズムが生物学的に自然です。夜に眠れなかったりすると、このリズムが乱れて睡眠不足につながります。

例えば、朝起きても薄暗い部屋で過ごしたり、日中の活動量が少なかったり、夜に明るすぎる環境で過ごすのはよくありません。夕方以降にカフェインを摂取したり、夜にアルコールを飲んだり、部屋の睡眠環境が整っていないのもいけませんね。このほか、寝る直前までスマホを使っている、夜中も連絡が来る状態でスマホを枕元に置く、就寝・起床のリズムが一定しない...なども悪影響を与えます。気をつけたい場面は多いので、普段の生活習慣を見直すことが睡眠負債をためない秘訣でしょう。

すぐの“寝落ち”は睡眠負債の可能性が大

――睡眠負債の増減はどう判断する?

睡眠負債が増えると、自分のパフォーマンスが以前とは違うと感じる場面が出てきます。
最低限、以下の3つをクリアしていないと、睡眠負債に陥っている可能性が高いでしょう。

・朝起きたときに、スッキリしているか
・朝起きて、午前中に眠くならないか
・寝つきが良すぎないか(すぐに“寝落ち”するのは要注意)


この中で注意しなければならないのは、「寝つきが良すぎる」こと。

自然な睡眠では、寝床に入ってから15分程度でまどろみ、深い睡眠に入ります。これが寝床に入ってからすぐ、記憶もないほどに深い睡眠に落ちるとなると、脳や身体にとって睡眠がなくてはならない状態だったことが想定されるので、睡眠負債の可能性が高いと言えるのです。

寝落ちは睡眠負債のシグナル(画像はイメージ)
寝落ちは睡眠負債のシグナル(画像はイメージ)

――睡眠負債を感じたらどうすればよい?

睡眠負債は週末に長く眠った程度では返せないので、コツコツと計画的に返済することです。
「睡眠負債かな?」と感じたら、できれば毎日、普段より1時間程度長く眠ってください。朝が忙しい人は、夜早めに眠るようにしてはいかがでしょうか。夜30分早く寝て、朝30分遅く起きるような工夫をしてもよいでしょう。毎日、長めに眠ることは難しいかもしれませんが、週に何回か試してみると、効果が実感できると思います。


――1日中寝るような休日の寝だめはいけないの?

私たちの生活には1日24時間というリズムがあり、睡眠でもそれは大切です。休日に長時間眠りすぎると「起きている時間」と「眠っている時間」のリズムが崩れ、週明けに気分が晴れなかったり、寝付きが悪くなったりする原因となります。睡眠不足を助長する恐れもあるのです。

「自分に最も適した睡眠時間」を知っておくことが大切

――睡眠負債を減らせるような、睡眠のコツやポイントなどはある?

基本的なことですが、充分な時間の睡眠をきちんと取ることです。睡眠で得られる効果は「時間×質」というかけ算で決まるので、深く眠れる、質の高い睡眠を取ることも重要でしょう。一日の過ごし方や睡眠環境を整えることにも、目を向けてもらえればと思います。


――適切な睡眠スケジュールとは?

「自分に最も適した睡眠時間」を知っておくことが大切です。
理想的な睡眠環境で自然に目が覚めるまで眠り続けると、最初は12時間程度の睡眠を取れるものですが、続けるとだんだんと睡眠時間が短くなってきます。そして一定になったときが、その人に適した睡眠時間と考え得られています。

普段の睡眠の取り方としては、平日は仕事や学校で起床時刻が決まっている人が多いはずです。起床時間から逆算して、適した睡眠時間を確保することが望ましいですが、睡眠時間を短くせざるを得ない場合は、長めに眠る日を設けてもよいでしょう。もし休日に睡眠負債を返済したい場合は、普段の習慣になっている睡眠時間よりも、2時間程度までは長く眠っても、睡眠のリズムに大きな影響は出ないとされています。


――睡眠不足の人に呼びかけたいことはある?

睡眠負債は自覚がなくてもかさんでいる場合があり、影響の多くは目に見えません。睡眠中のことは考える機会がないかもしれませんが、自分の睡眠習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

充分な睡眠を取れると身体も気分もスッキリして、脳の働きももっと活発になるはずです。

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仕事で疲れていると、休日で補おうと考えてしまいがちだが、長時間眠り過ぎるとかえって生活リズムの乱れにもつながるとのことだった。睡眠負債かな?と思ったら先ほど紹介した

・朝起きたときに、スッキリしているか
・朝起きて、午前中に眠くならないか
・寝つきが良すぎないか(すぐに“寝落ち”するのは要注意)


をチェックし、普段の睡眠習慣を見直してみてはいかがだろうか。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。