21年前の強盗殺人事件のやり直しの裁判=「再審」の請求を巡って、重要な証拠を巡る疑義が明らかになった。
「すごい遠い所の防犯カメラに映っている人だって有罪立証に使うわけですよね。にもかかわらず、押収もせずに『返しました』というわけ。我々からすると、えらい普段の捜査と違いますなと」(川崎拓也弁護士)
会見でこう話したのは、強盗殺人罪で無期懲役の刑が確定し、現在、大阪高裁で再審を開始するかどうかが審理されている緒方秀彦受刑者の弁護団。
「本当はあるんじゃないか」弁護団が疑いの目を向けるのは、事件当日のものとみられる現場周辺の防犯カメラ映像だ。
しかもそこには、現場付近から「走り去る男の姿らしいもの」が映っていたという。
■21年前に起きた強盗殺人事件 1年10カ月後に逮捕された緒方受刑者
事件は21年前、神戸・中央区の質店で起きた。
経営者の中島實さん(当時66歳)が、頭部を鈍器で滅多打ちにされ死亡。
ポケットに入っていたとされる現金1万650円が奪われた。
捜査は難航し、“迷宮入り”と思われた1年10カ月後。
スピード違反で検挙された際に取られた指紋が、事件現場から検出された指紋と一致したことをきっかけに逮捕されたのが、緒方受刑者だった。
■裁判の行方を左右した通行人の目撃証言
当時、電気工をしていた緒方受刑者は、仕事で質店を訪れたことがあるのを認めた上で、事件への関与を一貫して否認。
現場には、緒方受刑者とDNA型が一致するタバコの吸い殻も残されていたが、指紋や吸い殻は、質店を訪れたことを証明するにすぎなかった。
そこで、裁判の行方を左右したのが、事件が起きたと思われる時間帯に、「質店のあるマンションの出入り口前で、棒状の物を持って立っていた男を見た」という通行人の目撃証言だった。
■1審は無罪も高裁で逆転有罪 無期懲役刑で服役
1審(神戸地裁・岡田信裁判長)は、目撃者が見た人物と緒方受刑者が同一であるかどうかの判定が、事件から1年10カ月も経ってから行われたことや、目撃内容が曖昧であったことから、「目撃証言の信用性に疑問が残る」として、無罪を言い渡した。
しかし、2審(大阪高裁・小倉正三裁判長)は、この目撃証言を信用できるとして、一転、無期懲役を言い渡し、最高裁でも覆ることなく判決が確定した。
緒方受刑者は岡山刑務所に服役して、15年になる。
去年、冤罪の救済活動を行う団体「イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)」の支援を受け、目撃証言の信用性を科学的に検証した“新証拠”をもとに、再審を申し立てた。
■検察側は「映像が粗く…」説明も…
10月21日、裁判官・検察官・弁護人による5回目の三者協議が行われた。
弁護団は、当時、捜査本部が現場付近の防犯ビデオのハードディスクを回収して解析を進めていると報じた新聞記事を見つけ出し、再審請求審で、この映像を証拠として開示するよう検察に求めていた。
そして、検察はこの日の三者協議で、回収した映像に「走り去る男の姿らしいもの」が映っていたことを明かした。
しかし、なんとその映像は「証拠として残っていない」というのだった。
一体、どういうことなのだろうか。
弁護団によると、検察の説明では「回収した画像は粗く、走り去る人物の人相や服装が分からず、使い物にならないと判断したため持ち主に返却した」というのだ。
■「再審請求における最大の問題」
しかし、「走り去る男らしいもの」というのは、当時、捜査が難航する中、重要な手がかりだったのではないだろうか。
それを複製もせず返却するのか。弁護団がいぶかしむのも当然に思える。
緒方受刑者の弁護団の1人、川崎拓也弁護士は「犯行現場から(犯行推定時刻の)午後8時半に出てきていたのが、目撃者の言うように緒方さんなのか、それとも別の人なのかが再審請求における最大の問題」と指摘。
その上で、「(防犯カメラに)全然別の人が映っているとか、あるいは目撃者が『(犯人を)見た』と言っている時間には複数人が映っているとか、そういうことがわかるのではないかということで、証拠開示を求めている」と説明した。
■過去にも「隠されていた証拠」が再審・無罪のきっかけに
再審請求審で、捜査機関が隠し持っていた新たな証拠がきっかけとなり、再審の重い扉が開き、無罪が確定したことは記憶に新しい。
【緒方受刑者の弁護団 川崎拓也弁護士】「“袴田事件の5点の衣類”や“日野町事件のネガフィルム”とか、一旦は(検察が)『ない』と回答していたものが『実はありました』みたいな話というのは事欠かないわけなので。
『本当はあるんちゃいますか』っていう思いもありますし、『不都合やったから返したんちゃいますか』とか。
緒方さんからしたら一番大切な証拠が『役に立たない』という向こう(捜査機関)の判断で返されたというのでは終われない」
弁護団は検察に対し、映像データの入手や返却の経緯、その際に何らかの記録が残っていないのかなど詳細を書面で提出するよう求めている。
(※「袴田事件」…60年前、静岡県で一家4人を殺害したとして、袴田巌さんに死刑判決が言い渡され、確定から44年後に再審無罪が確定。)
(※「日野町事件」…42年前に滋賀県日野町で、阪原弘さんが酒店経営の女性を殺害して金庫を奪った罪で無期懲役が確定。遺族の請求でことし2月に再審開始が決定)
緒方受刑者が、これまでに獄中から記者に宛てた手紙には、こうつづられている。
「県警が私の逮捕までに収集した各証拠の中に、私ではない真犯人がいるというエビデンスが絶対に見いだせると確信している(原文ママ)」
ことし7月に国会で可決・成立した再審規定を含む改正刑事訴訟法では、「再審請求の理由に関連すると認められる証拠」について、裁判所が検察官に提出を求めることができる制度が新設された。
「神戸質店事件」は施行前で対象外ではあるが、裁判所には「刑事司法の最後の砦」である再審の請求審において、積極的に真実を追求してほしい。
関西テレビ記者 菊谷雅美
