10月8日は「木の日」だ。漢数字の「十」と「八」を組み合わせると漢字の「木」になることに由来する。この日にちなんで注目したいのが、「木育(もくいく)」と呼ばれる取り組みである。木のおもちゃで遊ぶ子どもたち、保育士として木の魅力を届けるインストラクター、そして森林資源を次世代へつなごうとする研究者――鹿児島県内で静かに、しかし確実に広がる「木育」の現場を取材した。
鹿児島の面積の約65%は森林――豊かな資源を生かす
鹿児島県は豊かな自然に恵まれた土地だ。県の面積の約65%を森林が占め、2024年度の木材生産量は年間約141万立方メートルと全国9位を誇る。県の産業を支える大きな柱でありながら、その恵みが日常生活の中で意識されることは少ない。

そのギャップを埋めるために始まったのが「木育」である。鹿児島大学教育学部の寺床勝也教授はこう説明する。
「2004年に北海道で生まれた考え方。木に触れて、木で色々なことを体験し、木の良さを学び、何十年後に子どもたちが『やっぱり木っていいよね』となり、例えば木造住宅を作ったり、地域の森林資源に関心を寄せたり、最終的には地元の森林資源を活用する新しい世代を作る活動」

木の香りや手触りが子どもの発達にも良い効果をもたらすと期待されており、遊びを入り口にして森への関心を育てることが「木育」の本質だ。
伊佐市の子育て支援センターで生まれた、地元の木との出会い
伊佐市にある大口子育て支援センター・ルピナスでは、老朽化に伴う建て替えを機に「木育」の考え方を全面的に取り入れた。壁や床、柱、備品のおもちゃに至るまで、利用者が触れるところには可能な限り県産の木材が使われている。
「週2〜3回は来ている。すごく楽しそうで、木でできているので安心して遊ばせられる」と話す保護者の声が、施設の方向性を象徴している。
さらに2026年5月には、伊佐市でとれたヒノキを使った積み木おもちゃ「クミノ」がお披露目された。伊佐市が特注したもので、凹凸を組み合わせてさまざまな形を作ることができる。これを手にした地元の小学生は「さわやか」と香りを表現し、「伊佐市の木でできていると知らなかった。うれしいし、びっくりした」と目を輝かせた。
センター長の宮脇美鈴さんはこう語る。「伊佐市には大自然があるが、関わる・触れる機会は少ない。遊ぶことで意識してほしい。少しでも子どもたちの良いきっかけになれば」
保育士から「木育インストラクター」へ――廣森智美さんの活動
「木育」を広める担い手として、県が認定する「木育インストラクター」という存在がある。2020年に始まったこの制度は、現在県内で142人が認定されており、林業関係者や木工作家など多様な人々が参加している。
その一人が、保育士でもある廣森智美さんだ。4年前に書類選考と講習を経てインストラクターに認定された廣森さんは、鹿児島市内の保育所のイベントに招かれ、50種類以上の木のおもちゃを集めた遊び場をつくった。中には鹿児島産の木を使ったおもちゃも含まれている。

「子どもたちが匂いを嗅ぐなど普段使わない五感を使って、木の魅力を発見している姿を見るととてもうれしく思う。木のおもちゃで遊んで楽しんだ経験が、いつか大人になったときに木を大切にすることにつながったらいいなと思う」
イベントに参加した保護者も「使い方次第で色々な遊びができて、手で触ったときもあたたかく、柔らかい感じがするのでいいよね」と話し、木ならではの感触を子どもと一緒に楽しんでいた。
効果が現れるのは「30歳を過ぎたあたり」――長い目で見る木育の未来
「木育」という考え方が北海道でスタートしてから約20年。鹿児島県内でも取り組みは広がりを見せているが、寺床教授は「まだまだ道半ば」と現状を冷静に見つめる。
「森林資源を活用すると地域の経済も潤うし、森林が豊かになると健康な土地になる。土砂災害の防止、おいしい水ができる。もっと言うと地球温暖化対策にもなる。そこまでいけたらいいと思うが、効果が見えるのはもっと先になると思う。子どもたちが大人になって、30歳を過ぎたあたりから世の中が変わってくれたらいいなと思う」

木のおもちゃを手にした子どもが、やがて森を守る大人になる。そのサイクルを生み出すために、鹿児島の「木育」は今日も続いている。身近な木との出会いが、豊かな森を次の世代へとつなぐ小さくも確かな一歩となっている。
【動画で見る▶10月8日は「木の日」 木の魅力に触れる「木育」県内の取り組みは?【鹿児島】】

