2040年、医療・福祉分野での人手不足は96万人に達するとされている。高齢化が急速に進むなか、地域の病院では医師不足が深刻だ。そんな現場に、「医学と看護、そして病院をつなぐ」新たな存在が加わった。富山県高岡市のJCHO高岡ふしき病院で今年4月から働く診療看護師・澤田瑞木さん(47)だ。かつては医師にしかできなかった処置を担い、医師と看護師の橋渡し役として奮闘している。
■患者が苦しがっているのに、できることに限界があった」
澤田さんはもともと秋田県出身で、地元の総合病院で10年以上看護師として働いてきた。しかしある出来事が転機となった。
「患者が熱を出して吐いている状況だった。ドクターに報告するも、ドクターはその時に用事があってすぐには行けない。けれど患者はすごく苦しがっている」
そのとき、看護師としてできることの限界を痛感した。診療看護師(NP)という職業を知ったのはその頃。44歳でその道を目指した。看護師として5年以上の経験を持つ者が大学院で学び、認定試験に合格することで得られる資格で、去年取得した。「地域医療に関わりたい」という思いを胸に、今年4月に高岡ふしき病院へ着任。病院にとって初めての診療看護師となった。
■動脈採血も、薬の見直し提案も――医師しかできなかった仕事を担う
診療看護師は、医師と連携しながら一部の医療処置や診察を担うことができる。人工呼吸器の取り外しや、リスクの高い動脈からの採血など、これまで医師にしかできなかった処置も行える。
取材当日、食事をとることが難しくなった80代男性の手術が行われていた。胃に直接栄養を届けるため、医師が腹部に小さな穴を開けチューブを挿入する処置だ。通常は別の医師がサポートに入るが、この病院では澤田さんがその役割を担っていた。
澤田さんは担当の患者や診療科を持たず、病院全体を見て回る。医師や看護師からの連絡が次々と入り、「タイムリー」に動くことを大切にしながら現場を駆け回る。
ある日は、食事をとらなくなった90代の男性患者のもとへ向かった。管理栄養士からナトリウム濃度が高くなっているという報告を受け、薬剤師と意見を交わしながら処置を検討する。患者の足を確認した澤田さんは、服用中の血圧を下げる薬に目を向けた。
「脈も遅いし、血圧も低くなってきていて必要かな?と思いまして。先生どうかお願いします」
検査データ、病歴、普段の様子――様々な情報を集め、治療方針を医師に提案する。
「私の目と看護師からの視点で共通認識を図って、飲んでいる薬で『今は必要ないのでは?』と考えているものを先生に提案してみようかなと」
■「看護師の目線で医師に伝える」――双方をつなぐ存在
看護師としてのコミュニケーションも澤田さんの大きな強みだ。転院してきたばかりの70代男性がナースコールを押すことができずにいると知ると、すぐに担当看護師に働きかけ、肘で押せるナースコールがないかを確認した。
「ご本人気にしているところだった」
患者の小さな不安や負担を見逃さない姿勢は、看護師ならではの視点から生まれている。
病院の副看護部長・医療安全管理室長を務める長澤千和看護師はこう話す。「医療安全の質が高まっている。看護師の目線で患者さんを見て、看護師の目線として医師に伝達する役割もしてくれる。診療看護師って大病院とか都会に行きがちだけれど、実はこういう地域ほどやっぱり必要」
呼吸器内科の篠田千恵医師も、「もう1歩進んだところまでできる人」として澤田さんの存在を歓迎する。「指示を出すのは医者なんですね。(診療看護師が指示を)実施したり何か起こらないよう見て対応してくれるところがありがたい」
■着任半年、周囲の看護師にも広がる影響
澤田さんが着任して半年が経ち、周囲の看護師たちにも変化が生まれている。看護師の小竹洋介さんは「こんなところを観察しているんだなとか、特定行為に関わることなどは澤田さんがいるから学べること」と話す。岩島さやかさんも「スキルを見せてもらいシミュレーションも立ち会ってくれているので流れがつかみやすくて自信がついてきた。そろそろ試験に臨めそうかな」と前向きだ。
中辻裕司院長は「まさか来てくれるとは誰も思っていなかった」と率直に語る。医師の働き方改革が大きな課題となるなか、「医師の負担軽減という面でも非常に大きな役に立っている」と評価する。さらに「看護師の一つのキャリアパスが見通せることは非常に重要」として、診療看護師を目指す人材を病院として積極的にサポートしていく考えも示した。
■全国に1118人、県内にわずか5人
診療看護師はアメリカでは一般的な職種だが、国内では2008年に初の教育課程が開始されたばかりで、今年4月時点で全国に1118人、富山県内には少なくとも5人しかいない希少な存在だ。
澤田さん自身はこの仕事をこう表現する。
「1つ1つ情報を集めて検査データや患者が生きてきた歴史にスポットを当て、医学と看護の両方の視点で関わっていくことが大事」
「私の働く姿を見て、診療看護師ってこういう仕事なんだと見せられたら良い。医学と看護、そこをつなぐ。そして病院をつなぐ役割なのかなと思っています」
高岡市の伏木地区は、ほかの地域よりも高齢化が進む地域だ。病院では救急患者の受け入れに加え、高齢患者の治療からリハビリ、在宅復帰までを担っている。その最前線で、澤田さんは今日も医師と看護師の間を縦横無尽に動き回る。地域医療の危機を支え、つなぐ新たな力が、ここ高岡に根を張り始めている。
