本番前のラストマッチ

スペインに1-1で引き分けた
スペインに1-1で引き分けた
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なでしこジャパンは2日、スペインとの国際親善試合を戦い、1-1で引き分けた。
7日のフランス女子W杯開幕に向け、課題と収穫が見えた試合だった。

パワーやスピードなどのフィジカル的な優位性を生かしてくる欧米強豪国の中で、スペインはテクニックと組織力を生かしたサッカーを特徴とし、日本のスタイルと似ている。170cm近い選手が多いが、ポゼッション率を高めて11人で駆け引きをする。

2014年のU-17女子W杯と18年のU-20女子W杯のいずれも決勝で日本と対戦しており、育成年代同様、フル代表も急成長を遂げている強豪だ。また、メンバー23名中10名が、今年の女子チャンピオンズリーグで準優勝したバルセロナに所属しており、連係の良さも強みだ。

日本は17年3月にアルガルベカップで対戦し敗れている(⚫︎1-2)。内容的にも完敗だった。その上で、最近のスペインの試合映像も見たMF長谷川唯は、「(優勝候補の)フランスとスペインが今、一番強いんじゃないかな、と思うほどいいチーム」と話していた。

1-1という結果自体は、悪くない。予想通り、スペインはかなり組織的だった。

選手同士が良い距離感で攻守にサポートし合い、ボールを奪われた際の帰陣も早い。攻守に迷いが感じられず、チームとしての成熟度が感じられた。

前半はスペインにボールを持たれる時間が長くなったが、日本にとっては想定内だった。スペインは4-3-3で、4-4-2の日本との中盤にミスマッチが生じたが、マークの受け渡しもスムーズにできていた。2トップの一角で先発したFW籾木結花は、守備の狙いをこう明かしている。

「相手がセンターバックの2枚か、アンカーが落ちて3枚で回してくるのかによって、自分たちが(守備の)スイッチを入れるタイミングを変えていました。最初は守備のスタートラインを低めに設定して、タイミングを伺いながら少しずつ高いところからボールを奪いに行きました」(籾木)

3月のアメリカ戦とイングランド戦では、同じく中盤のミスマッチで浮いたマークの受け渡しがうまくいかず先制点を献上していただけに、守備面の成長は収穫だ。国内合宿からトレーニングやミーティングを重ねてきた成果が着実に現れていた。

コンビネーションの差

だが、問題は奪った後だ。相手のハイプレッシャーをかわしきれずにパスミスから何度かピンチを招いたが、その一つが前半22分の失点につながった。

DF市瀬菜々の手にボールが当たってハンドをとられ、PKを献上。FWジェニファー・エルモソに落ち着いて決められた。

スペインは、奪った後の次のパスが攻撃のスイッチになっていた。それは意図的に日本のパスコースを限定し、狙ったエリアでボールを奪えていたことも大きいだろう。

一方、日本はスペインのハイテンポなパス回しに粘り強く対応し、崩されることは少なかったが、意図的に奪うシーンが少なかった。その結果、ボールを奪う位置が低くなり、攻撃のスイッチを入れる時には、スペインは守備陣形をすっかり整えてしまっていた。

高倉麻子監督は攻撃がテンポアップしなかった理由について、厳しい表情でこう振り返っている。

「スペインはボールを動かすことに関してW杯の出場国の中でもうまいチーム(なので、高い位置で奪うことが難しかった)です。守備のスイッチの入れどころを全員で共有しながら強度を上げて、前から奪えるシーンを増やしたいです」

菅澤がゴールを決めた試合で日本は無敗を継続している。本大会でもゴールに期待したい
菅澤がゴールを決めた試合で日本は無敗を継続している。本大会でもゴールに期待したい

後半、スペインの守備の強度が落ちてきたところで、日本にようやく決定的なチャンスが生まれ始める。

60分にMF三浦成美とFW菅澤優衣香、76分にFW遠藤純とDF三宅史織が交代で投入されると、待望のゴールが86分に生まれる。左サイドの相手陣内でDF鮫島彩からスローインを受けた遠藤が、食いついた相手を3人一気にかわす浮き玉のパスを送ると、タッチライン際で受けたMF杉田妃和がグラウンダーのクロス。中央から絶妙のタイミングで走りこんだ菅澤が押し込み、同点に追いついた。

このゴールで勢いづいたかに見えた日本だが、逆にスペインの猛攻を浴びる。試合終了間際にゴール前で大ピンチを迎えたが、山下がスーパーセーブで弾き出す。90分にはDF宇津木瑠美とDF宮川麻都を投入したがスコアは動かず、1-1で試合終了の笛。

長谷川は、試合を通じてシュートチャンスが増えなかった理由として、
「サイドで数的優位の状況でボールを受けた時に、中かシュートかクロスを選択するのかという判断(の質とスピード)をもっと高めないといけないし、多少遠くても、もっと前向きにゴールを狙っていくべきでした」と、振り返っている。

スペインは上手かったが、4月に対戦したフランスやドイツのような怖さを感じなかったのは、1対1の仕掛けや遠目からのシュートが少なかったからだ。もし、スペインのように高度なポゼッション技術を持ったチームが、長谷川が言うようなゴールへの積極性を持ったら――。きっと、どの国も脅威に感じるに違いない。日本にはそのレベルを目指してほしい。

2年前の敗戦から、スペインとの力の差は縮まっていると感じたが、決定機の数も含め、現状の完成度はスペインが上だと認めざるを得ない。突き詰めれば、それは選手間の連係や、チームとしての成熟度の差だ。

日本は誰が出てもある程度コンビネーションを発揮できるようになったが、強豪国がかけてくる強いプレッシャーの中でも余裕を持ったパス回しができるまでには至っていない。先発でピッチに立つ選手の顔ぶれはある程度固定されてきたため、あとは本番までに、いかにコンビネーションの質を上げていくかがカギになる。

本番までの一週間が勝負に

この試合で出た課題を本大会までに修正したい
この試合で出た課題を本大会までに修正したい

キャプテンのDF熊谷紗希は、ミスの多さを反省しつつも、大会前のラストマッチで課題を出せたことをポジティブに捉えた。

「(チームとしての)課題を出すために全力でチャレンジしよう、と話して臨んだ試合だったので、修正点は多いですが、大会に向けていいシミュレーションができました」(熊谷)

本職ではないサイドバックでの起用に応え、持ち味のビルドアップの巧さで貢献した三宅は、こう話す。

「若手選手や自分たち(20代前半)の代が、本当に伸び伸びプレーできる環境を監督や先輩たちに作ってもらっています。だからこそ軽いプレーはできないし、自分の役割をしっかり考えながらやらなきゃいけない、と覚悟はできています」(三宅)

ベテラン選手から若手まで、チーム全体の風通しの良さは、このチームの強みでもある。

チームは3日にパリに移動し、一週間後の10日(日本時間11日)に、女子W杯初戦のアルゼンチン戦に備える。本番に向け、ここからの一週間が勝負だ。

(文・写真:松原渓)

『FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019』
日本戦をフジテレビ系にて全試合生中継
<放送日時>
グループステージ
6月10日(月)深夜0時25分 日本×アルゼンチン
6月14日(金)21時49分 日本×スコットランド
6月19日(水)深夜3時50分 日本×イングランド
(※すべて延長の場合あり)

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

松原 渓
松原 渓

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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