日本中を熱狂の渦に巻き込んだ2011年ドイツ大会から8年、女子サッカー4年に一度のビッグイベント、FIFA 女子ワールドカップ フランス大会が6月7日に開幕する。

2011年大会の優勝、そして前回大会2015年の準優勝と2大会連続で決勝進出を果たしたなでしこジャパンは、17人が初のW杯出場という実にフレッシュな面々がそろった。

そんななでしこジャパン全23人の選手を特集する。
第2回はINAC神戸レオネッサ所属のDF・鮫島彩選手だ。
FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

スピードと豊富な国際経験を生かしてサイドを活性化

DF鮫島彩のプレーはダイナミックで、華がある。

フランスで6月7日に開幕する女子W杯で、高倉ジャパンの最終ラインの要として期待がかかる。
  
最大の武器はスピード。攻撃では機を見たオーバーラップでチャンスを演出し、守備ではカバーリングの早さに特徴がある。
そして、国際大会の豊富な経験によって培われた駆け引きのスキルも魅力だ。相手の出方をじっくりと観察し、牽制しながら積極策に転じていく。

代表では2011年のW杯優勝、12年のロンドン五輪準優勝、そして15年のカナダ女子W杯準優勝と、3大会の好成績に貢献してきた。高倉ジャパンではW杯出場経験を持つ数少ない一人で、チームを牽引してきた中心選手でもある。

鮫島は相手アタッカーとの駆け引きの中で、最後の最後で足を出し、ピンチを回避できる。それができる理由の一つに、11年と15年のW杯の強烈な体験がある。日本は押し込まれる時間が長い試合が続いたが、粘り強い守備で接戦を勝ち抜いた。

「11年と15年のW杯は攻めこまれる場面がすごく多かったのですが、みんなで体を張って、守り切るたびに『ナイス!』とハイタッチをしていました。(海外の強豪国にギリギリまで押し込まれる)その恐怖感を一緒に味わって、全員で守り抜いていく感じが楽しかったですね」(鮫島)

「俊足を生かして守備の要になる」
「俊足を生かして守備の要になる」
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経験とともに深みを増すパフォーマンス

87年生まれの鮫島は、6月16日生まれで、今大会中に誕生日を迎える。経験とともに深みを増すパフォーマンスは、年月とともに熟成するワインのようだ。

栃木県宇都宮市で生まれた鮫島は、小学校時代、ピアノ、水泳、書道など、様々な習い事に触れながら、将来は母親と同じ看護師を目指していたという。運動神経が良く、マラソン大会では常に上位だった。

兄の影響でサッカーを始めたのは、小学校1年生の時。中学卒業まで、元日本代表のFW安藤梢(現浦和レッズレディース)も所属した地元クラブの河内SCジュベニールでプレーし、高校は女子サッカーの名門・常盤木学園高校に進学した。当時のポジションはサイドハーフ。スピードを生かした突破を武器に、全国にその名を轟かせた。

卒業後は東京電力女子サッカー部マリーゼでプレー。08年にフル代表に初選出されるとサイドバックにコンバートされ、以降は左サイドバックのスペシャリストとして、なでしこジャパンの黄金期を支えた。

クラブでは、11年の東日本大震災によるマリーゼの活動自粛を受けて、アメリカのボストン・ブレイカーズに移籍。W杯優勝後にはフランスのモンペリエHSCでもプレーした。12年からベガルタ仙台レディースでプレーし、15年からはINAC神戸レオネッサで活躍を続けている。直近の4シーズンで2度の皇后杯優勝、3年連続リーグ2位の原動力となり、昨シーズンは自身4度目のベストイレブンを受賞した。

サイドバックというポジションについて、鮫島は以前こんな風に話していたことがある。

「相手のディフェンダーのポジションが一歩でも二歩でも変わるようにプレーする、サイドバックはそういうポジションだと思います。(サイドを駆け上がって)いくらでも囮になるし、その中で少ないチャンスを活かしたいです」

一方、守備面では対戦国の“エースキラー”を任されることも多く、マッチアップすることが多かったオランダのスピードスター、FWファン・デ・サンデンとの対決は見応えがあった。

「あのスピードは、サメさんじゃないと止めるのは無理ですね」

実感を込めてそう話していたのはFW横山久美だ。今大会も、各国のサイドアタッカーとの対戦は見応えのあるものになるだろう。

また、高倉ジャパンではセンターバックとしても新境地を切り開いた。

3度目のW杯で後輩たちに伝えたいこと

「百戦錬磨の経験からくる1対1の強さは見応えがある」
「百戦錬磨の経験からくる1対1の強さは見応えがある」

鮫島は自分に厳しい。たとえば新しいことに挑戦した際、一度の成功を良しとせず、うまくいった要因や失敗の可能性も含めて検証し、次に繋げようとする。国際大会で勝つ難しさを知っているからこそ、親善試合で勝っても甘い言葉を口にはしなかった。

ケガが少なく、パフォーマンスに波がないのは、自分と向き合ってきた時間の長さを物語っている。心・技・体のバランスをうまく調整し、ピッチ上で最適解を導き出すことができる。

「ケアよりも、疲労を溜めないための体づくりを意識しています。それから、食事は、油物はあまり摂らないですね。甘いものも控えています。免疫を上げるために納豆をよく食べています。フランスでも手に入るといいんですが…」

もともとスイーツが大好きな鮫島だけに、強い覚悟が感じられた。チームの練習に加えて、個人でもトレーナーと相談しながらW杯に向けて体づくり、コンディション調整を丁寧に行ってきた。

今大会は、鮫島にとって3度目のW杯となる。だが、年上の先輩が多かったこれまでの2大会とは立場が異なる。

「W杯では試合に出る機会が多い選手や少ない選手などいろんな立場がありますが、どんな立場でも全員がチームに必要で、そういう雰囲気は、(これまでの大会では)年上の選手が作ってきてくれました。今度は自分たちが、それを伝えなければいけないと思います」

鮫島はチームの先頭に立ってグイグイ引っ張っていくタイプのリーダーではない。だが、「若い選手たちの伸び伸びしたプレーをそのまま出せるようにサポートしたい」と話す。そして、試合中は率先して周囲に声をかけ、苦しい場面では体を張り、背中で見せる。

その先に、再び歓喜の瞬間が訪れると信じてーー。


(文・写真:松原渓)

『FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019』
日本戦をフジテレビ系にて全試合生中継
<放送日時>
グループステージ
6月10日(月)深夜0時25分 日本×アルゼンチン
6月14日(金)21時49分 日本×スコットランド 
6月19日(水)深夜3時50分 日本×イングランド 
(※すべて延長の場合あり)

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

松原 渓
松原 渓

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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