日本中を熱狂の渦に巻き込んだ2011年ドイツ大会から8年、女子サッカー4年に一度のビッグイベント、FIFA 女子ワールドカップ フランス大会が6月7日に開幕する。

2011年大会の優勝、そして前回大会2015年の準優勝と2大会連続で決勝進出を果たしたなでしこジャパンは、17人が初のW杯出場という実にフレッシュな面々がそろった。

そんななでしこジャパン全23人の選手を特集する。
第6回はINAC神戸レオネッサ所属のMF・中島依美選手だ。
FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

セットプレーのキーマンに

2011年7月17日。日本が史上初のW杯優勝を成し遂げ、澤穂希さんが表彰台の上で黄金のカップを掲げたあの瞬間は、今も多くの人々の記憶に残っているだろう。

あれから8年。6月7日からフランスで行われる女子W杯で、日本は再び世界の舞台に挑む。

16年のリオデジャネイロ五輪出場を逃し、厳しい時代を過ごしてきた日本女子サッカー界に、再び明るいニュースを期待したい。今大会は、高倉麻子監督体制で臨む最初のW杯となる。その中で、MF中島依美はチームの浮沈を左右する一人だ。

「試合に出ても出なくても、一試合一試合、後悔しないように戦いたいです。(自分にとっては)初めてのW杯ですが、チーム全員で同じ方向を向いて一つの目標に向かって戦うつもりです」(中島)

中島は高いテクニックと豊富な運動量でサイドを活性化し、攻守のスイッチを入れる。そして、セットプレーのキッカーも担う。18年のロシアW杯(男子)では、全ゴールのうちの約43%がセットプレーから生まれたという。今回の女子W杯でも、セットプレーは各国が工夫を凝らしてくるポイントだろう。

代表でもチームでも様々な立場を経験してきた
代表でもチームでも様々な立場を経験してきた
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様々な立場を味わった10年間

滋賀県野洲市で生まれた中島は、小学校4年生の時にサッカーを始めている。代表では比較的遅い方だが、頭角を現すのは早かった。今回、フランスW杯をともに戦うMF阪口夢穂の後輩として、中学生時代は大阪府高槻市のラガッツァFC高槻でプレー。高校時代はFC VITORIAでプレーし、FW乾貴士(アラベス)らを輩出した野洲高校を卒業。

卒業後の09年にINAC神戸レオネッサに入団した。10年にはU-20女子W杯(GS敗退)に出場している。フル代表に初選出されたのは20歳の時。11年の女子W杯直前のアメリカとの親善試合に交代で出場したが、本大会のメンバーには選ばれていない。

その後、14年ごろから代表で先発を任されるようになり、14年5月のアジアカップでは日本の初優勝に貢献。16年のリオデジャネイロ五輪予選では5試合中4試合に先発したが、日本は3位で、五輪の出場権を獲得できなかった。

11年から15年までW杯と五輪で3度決勝に進出し、一時代を築いた以前の代表チームで、中島はメンバー入りできなかったことも、ベンチで試合終了の笛を聞いたこともある。その上で試合に出る喜びを知り、結果を出せない喪失感も味わった。

中島はよく「全員で勝ち切る」「勝ちにこだわりたい」と言う。様々な立場を経験し、良くも悪くも結果が世間に与える影響を知ったからこそ、その言葉に実感がこもる。

今大会で代表に5名の選手を送り出しているINACは、仕事とサッカーを両立させている選手が多いなでしこリーグで唯一、全員が仕事をせずにサッカーに打ち込める環境を持ったチームだ。11年の女子W杯では当時の所属選手7名を代表に送り出し、優勝後には日本中を巻き込んだ「なでしこフィーバー」の中で、多くの観客がINACの試合を観にスタジアムに詰め掛けた。中島はこのチームで、代表で歴史を作った選手たちとプレーをともにし、次世代を担う若手として大切に育てられてきた。そして、昨年からチームの主将を務めている。

チームには、人生と同じように「サイクル」がある。

中島はINACでも代表でも、世界と日本の頂点に立ったチームの成熟期に立ち会い、やがてそれが転換する時期が来ることも経験した。そして、高倉ジャパンには16年6月のスタート時から選ばれ、3年間で戦った43試合中、現メンバーで最多の41試合に出場。経験のあるベテラン選手たちとともに「産みの苦しみ」も味わった。
自身初のW杯に向け、心の準備はしっかりできている。

ボールを奪われないテクニックの高さが光る
ボールを奪われないテクニックの高さが光る

力を出しきり「背中で見せる」プレーに期待

中島にとって、「後悔のない試合」とはどのようなものだろうか。

「自分の良さを出し切れたと感じたり、チームの描いているサッカーをやれたと実感できた時ですね。すべての試合がなかなかそうはいかないのですが、(今回のW杯でも)そこに少しでも近づきたいと思っています」

ゴールを決めた時の振る舞いには、彼女らしさがよく現れている。

自分が決めた時はさっぱりしたものだが、他の選手が決めた時は心から嬉しそうな表情を見せる。今年3月のアメリカ戦でMF籾木結花の先制点をアシストした時も、4月のドイツ戦でFW横山久美のゴールをお膳立てした時も、すぐに駆け寄って祝福した。

中島は、代表でもチームでも先輩だった澤さんをとても慕っていた。引退後、澤さんは中島についてこう話している。

「依美は今まで『リーダーとか、そういうキャラじゃないんです』と言っていましたけど、代表でプレーしたり、所属チームでも年上の選手がいなくなった中でキャプテンを引き受けました。選手が変われるかどうかは意識の問題もあると思います。個性の強い選手が多い中でリーダーシップをとっていくのは大変だと思うけれど、彼女にはいつも期待しています」(澤さん)

中島は長い間、苦しい時にプレーでチームを引っ張る先輩たちの大きな背中を見てきた。その一人である阪口も代表に復帰し、ともにW杯を戦う。

「ゲームの流れを読めるし、経験を持っている選手なので、とても頼りにしています」(中島)

今大会は、先輩たちをしっかりとサポートしながら、自らも背中で見せる――。中島のそんなプレーが見られることを願っている。


(文・写真:松原渓)

『FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019』
日本戦をフジテレビ系にて全試合生中継
<放送日時>
グループステージ
6月10日(月)深夜0時25分 日本×アルゼンチン
6月14日(金)21時49分 日本×スコットランド 
6月19日(水)深夜3時50分 日本×イングランド 
(※すべて延長の場合あり)

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

松原 渓
松原 渓

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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