僕らは弁護士夫夫です

僕は、同性愛者の弁護士だ。パートナーの吉田も弁護士で、一緒に暮らし、二人で法律事務所を開設している。さらに僕らの事務所では、75歳になる僕の母親が事務員として働いている。僕は吉田と母親の二人に甘えられる職場環境だが、吉田にとっては常に姑がいる職場環境だ。

南和行さん(左)南さんの母(中)吉田さん(右)
南和行さん(左)南さんの母(中)吉田さん(右)
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僕らの事務所は、マチベン(いわゆる普通の町の弁護士事務所)として雑多な案件を引き受けるが、LGBT固有の相談が持ち込まれることも多い。同性婚など法的保障がない中で、遺言や後見など、同性カップルからの将来の備えについての相談はどんどん増えている。また同性愛のアウティング(バラされること)の被害や、戸籍の性別を理由したサービス提供拒否など、LGBTに対する差別に関わる訴訟も手がけている。

僕と吉田は、せっかく「弁護士夫夫」で事務所をしているのだからと、LGBTの案件だけでなくほとんどの案件を二人共同で担当する。男女夫婦で一緒に事務所を経営している弁護士夫婦は少なくないが、僕らように夫夫で同じ案件に一緒に取り組んでいるという話はあまり聞かない。事務所は一緒だけど、仕事の中身は互いに干渉しないという話のほうがよく聞く。

弁護士夫夫の家事分担

僕らの場合、家事のメインというべき料理と家計管理は全て吉田がやっている。
料理については、吉田はとても手際がよく、何よりもおいしい。一緒に帰宅して、僕がノロノロと服を着替えてトイレに行って、カバンの中をあれこれ整理していると、すぐに吉田から「できたよ!」と声がかかる。玄関ドアを開けてから20分くらいしかたっていないのに、ダイニングテーブルには3品くらいの料理が並んでいる。どれもおいしい。

そして僕は細かいことが苦手なので、あらかじめの予算や計画に沿って、住宅ローンや奨学金の返済、マンションの管理費、水道光熱費、保険、通信費の支払い準備、将来を見据えた貯蓄、買い物や行楽に使える財布の中の現金と、お金を取り分けておくなどとてもできない。でも吉田は凝り性なので、事務所の売上げ、経費、利益の見込みから家計をあらかじめ予算化し、その予算執行のマルチタスクをテキパキ処理する“ひとりサイボウズ”だ。

でも僕だって家事を一切しないわけではない。吉田が料理をしたあとのキッチンシンクには、大鍋小鍋がひっくり返り、調理に使ったボウルやバット、食事に使った食器類がグチャっと積み重なっている。僕は、それらをチマチマと順番に洗い、洗い水切りかごに絶妙なバランスで積み重ねる。僕は「吉田に料理をしてもらったから、せめて洗い物だけは・・・」と思っているのではない。洗い物の作業をしていると、さっきまで頭の中で渦巻いていた仕事のあれこれが真っ白になっていくから、洗い物をするという作業が好きなのだ。それと同じ理由で僕は、洗濯、洗濯物の片付け、そしてネコのトイレの掃除を好きだからする。

それぞれが得意な分野で力量発揮! パートナーの吉田さんは料理が得意
それぞれが得意な分野で力量発揮! パートナーの吉田さんは料理が得意

ちなみに吉田は自分が料理をすることについて「僕は食べるのが好きやから、自分の食べたい物を食べたい味で作ってるだけやねん」と言っている。いずれにせよ本当においしいし、僕は恵まれている。

法律や制度が「取りこぼした家族」

僕らの家事分担の話を大人向けの講演ですると「男同士のカップルだから何か違うのかと期待したけど、共働きの男女夫婦と同じじゃないか」と、ガッカリしたのか驚いたのかという感想をもらうことがある。僕らに何か男役と女役があって、それで家事分担をしていると思っていたのか、それともジェンダーイクオリティに基づく完全平等の作業分担を期待したのか。

そういえば中学生向けの講演で、僕らの家事分担の話をしたあと、生徒さんたちに「今の日本では結婚したら夫婦同姓、同じ名字になりますが、皆さんは僕らが結婚したら、南と吉田、どっちの名字になると思いますか?」と質問したことがある。「吉田さんのほうが強そうだから吉田にすると思う」と言った子もれば、「南さんのほうが年上だから南にすると思う」と言った子もいた。そして「吉田さんが料理をしていたから、料理をしていない南さんの名字にすると思う」と言った子もいた。

僕たちカップルの3年間を追いかけたドキュメンタリー映画「愛と法」(戸田ひかる監督、2018年公開)の中で、少年時代の一時期を僕たちの家で暮らした青年カズマがインタビューに答えている。カズマはそのインタビューで、吉田と料理の思い出を話した後、家の中で吉田は父親のような存在で、僕は兄のような存在だったと述懐する。カズマの中の遠い家族の記憶では、料理を作る吉田の姿こそが父親に重なったのかもしれない。

全く違う二人が出会って家族になっていくのだから、その中身が全く違うのは当たり前だ。中身がそれぞれ違うのだから、外から見える形もそれぞれ多様なのも当たり前だ。中身も形も違うのに、法律や制度が「このパターンの家族しか保護しませんよ」なんていうのは、そもそもナンセンスだ。法律や制度は、あらゆる人や家族を等しく大切にしなければならない。はみ出した家族は「変わった家族」ではなく、法律や制度が「取りこぼして見落とした家族」ではないかと僕は思う。

日本でも同性婚を認めるべきという声は少しずつ広がりを見せている。でも、今の夫婦同姓しか認めない婚姻制度のもと、「明日から婚姻届を出せますよ」と言われたとして、僕らは、南か吉田どちらの名字を選んで婚姻届を出すというのだろうか。

【執筆:弁護士 南和行】

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南和行
南和行

京都大学農学部・同大学院を卒業後、住宅建材メーカに就職。学生時代に知り合った恋人の吉田と二人で弁護士になることを目指して大阪市立大学法科大学院に入学。2009年に弁護士登録(大阪弁護士会)。2013年大阪市北区の南森町に,同性カップル弁護士の法律事務所「なんもり法律事務所」を吉田と二人で開設。  一般民事ほか離婚・相続・遺言・養子縁組など家族の問題を多く取り扱う。性的マイノリティの差別の案件,戸籍の性別の案件,民法772条による無戸籍の案件にも積極的に取り組む。