若年層のコロナウイルス患者が脳梗塞を併発

新型コロナウイルスに感染した30~40代の患者が脳梗塞を併発する症例がアメリカで相次いでいることがわかった。ウイルスが「血栓」の形成を促進したことが原因となった可能性が指摘されている。アメリカでは今、新型コロナウイルスと「血栓」の関連性が注目を集めている。

マウントサイナイ医科大学病院のチームがまとめた報告によると、新型コロナウイルスに感染した50才未満の患者が、脳梗塞を併発した症例が2週間で5人と相次いだ。5人の新型コロナウイルスの症状はいずれも軽症か無症状。ウイルスの影響で血液の凝固機能が亢進し、「血栓」の形成を促進したことが脳梗塞発症につながった可能性があるという。

マウントサイナイ医科大学病院

同病院では、主幹動脈(脳に酸素や栄養を送っている複数の太い血管)の閉塞による脳梗塞で治療を受けた50才未満の患者は、通常2週間の平均で0.73人。1症例あるかないかだったのが、この2週間では7倍に増加した。この報告は医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に28日、掲載された。

通常、この年代での脳梗塞の発症例は多くない。実際に同病院で治療に当たり、報告をまとめた日本人医師・重松朋芳助教は、当初、糖尿病や高血圧など脳梗塞の危険因子が確認されない若年層が、新型コロナウイルスに感染した後、何の前触れもなく脳梗塞を発症する症例が相次ぎ、驚いたと話す。

重松医師:
「この5つの症例はすべて、50才未満で主幹動脈閉塞を認める脳梗塞。脳梗塞の危険因子である糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群といったリスクが全くないような状況で、発症したので非常に驚いて報告した

ウイルスが異常な血栓を作る⁉ 症例報告した日本人医師に聞く特異なメカニズム

重松医師は、この発症のメカニズムについて、「新型コロナウイルス特有の現象だ」と指摘する。感染すると、なぜ、若年層でも脳梗塞を発症するのか、また、通常の症例との違いは何なのか詳しく話を聞いた。

テレビ電話でインタビューに応じてくれたマウントサイナイ医科大学病院脳神経外科重松朋芳助教

ーー新型コロナウイルスと脳梗塞の関連性、メカニズムは?

解明されていないが、新型コロナウイルス感染症の症例を見返すと、凝固機能が非常に亢進しているというデータがちらほら見られる。新型コロナウイルス自体がなんらかの凝固、血が固まりやすくなる状況を作り出して、異常な血栓を作り、脳梗塞を起こしたのではないかと考えている。
細い血管が血栓によって詰まっていくというようなメカニズムは頭だけでなく、肺などでも起こっている。それが頭の中でおこれば脳梗塞を起こすのではないかなと考えている。

ーーウイルスが血栓を作るというのは珍しい現象か?

新型コロナウイルス特有じゃないかと今のところ言われている。肺炎が重症化するメカニズムでも肺の中の細かい血管に血栓ができて循環が悪くなり、肺炎が悪化し、重症化するのではないか。

ーー新型コロナウイルス特有の症状では味覚障害が有名だが?

味覚障害の直接の原因ははっきりしていないと思うが、同様に新型コロナウイルスによる血栓症もこれまで(関連性が)はっきり指摘されていなかった。

普段は血栓がつかないようなところにつく

ーー今回の症例で特異な点は?

普段は血栓がつかないようなところにつく。頸動脈、首のあたりに血栓がついて、治療したら消えてしまうということもあった。もしくは血管内治療を行った症例では、血栓をある程度とってもまた自然にそこに血栓ができ、詰まってしまうという状態が繰り返されることもあった。

普通、脳梗塞で主幹動脈が詰まる場合は例えば心臓内で大きな血栓ができて、頭にとんで大きな血管が詰まってしまうというメカニズム。その場合血栓は一度回収すればおしまいだが、若い症例では血栓が一度できたら回収してもできやすく、何度でもできやすい。または異常なところに血栓ができやすいというような形だった。だから、心臓から血栓がとぶようなタイプの脳梗塞、我々が普段治療しているような脳梗塞ではなかった。

ーー全米レベルで症例数は?

まだつかめていない。ただ、血栓症の中でも、脳から戻る血管、静脈に血栓ができる脳静脈洞血栓症という月に1例あるかないかの症例が、新型コロナウイルス感染が始まったのと同時期に急に4例相次いだ。元々は経口避妊薬を内服している若い女性や肥満のリスクがある方に起こる。マンハッタン内でニューヨーク大学やブロンクスの病院でも同じような疾患を見たという話があった。

ーーなぜ若年層に起こるのか?

実際には、コロナウイルス陽性の高齢の方も脳梗塞になりやすいと思う。若い人でも(感染した場合は)凝固機能が亢進するため、脳梗塞がみられるようになってきたし、また、重症なタイプの脳梗塞がみられるようになってきたのではないかと考察している。

ーー治療法は特別なものか?

脳梗塞に対する治療は通常の治療。それにコロナウイルスの治療、呼吸管理、全身管理が必要になってくるかどうかの違いだ。

症状があれば早期受診 脳梗塞患者には検査の徹底を

インタビュー中、重松医師の声のトーンが変化した瞬間があった。それは、症状が確認された場合どのように対処すべきかと質問した時だ。重松医師は「脳梗塞の治療は時間との闘いだ」と強調し、患者、医療従事者の双方に対し、次のように警鐘を鳴らす。

重松医師:
脳梗塞の治療は時間との闘いだ。血管が詰まった瞬間から脳細胞がどんどん死に始め、脳に早く血が流れるようにしてあげないと脳を救うことができない」

特に若い世代の場合、受診が遅くなることが問題で、ダメージが最小限に抑えられなかったり、思うような回復が得られなくなるケースがあったと言う。また、以下の症状があった場合は、若い世代でも脳梗塞の恐れがあると注意を呼びかける。

重松医師:
ろれつ障害、体の片側だけ力が入りにくいなど筋力低下、顔が非対称になる、片側だけ動きにくくなる、半身だけのしびれというのが一般的な症状だ。頻度が高いわけではないと思うが、(脳梗塞の症状が)若い方にも起こりうると認識してもらい、万が一症状が出たらコロナがいるからいやというのではなく、一刻も早く受診してほしい。早く来て早く治療すれば、より回復がよくなる、それを伝えたい」
 

一方、医療従事者に対しては、若い世代を含む全ての脳梗塞の患者に対して新型コロナウイルスの検査をすべきだと強調する。

重松医師:
脳梗塞の患者さんに対しては、症状がなくてもコロナウイルス感染症を疑うことが自分を守る、スタッフを守る、病院を守る、患者さん、また院内の他の患者さんを守るという立場から大事じゃないかと思う。当院では症状が無くても、脳梗塞患者の全症例に、コロナウイルスの検査をしている。安全管理、患者さんマネージメントの面からしても大事なことじゃないかと思う」
 

アメリカメディアによると、新型コロナウイルスと脳梗塞を巡る同様の症例は国内の他の病院でも相次いで確認されていて、大型医療センターが近くデータを発表する準備が進めているという。

また、脳梗塞とは別に「COVID toes(コロナのつま先)」という足の指先の病変も話題に上っている。ノースウェスタン大などによると、若年層の新型コロナウイルス陽性患者のつま先が赤や紫色に変色するもので、ウイルスとの関連性について研究が始まっているという。一部の専門家からは「血栓」との関連性を指摘する声も出ている。

「COVID toes(コロナのつま先)」

アメリカでは一部の地域で経済活動が早くも再開したが、第二波発生の懸念もある。新型コロナウイルス発症と治療のメカニズムの一刻も早い解明が待ち望まれる。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】