ビヨンセが警鐘「黒人は“不釣り合いに”出勤」

4月18日、アメリカで歴史的音楽イベントが開催され、放送媒体は文字通り「テレビジャック」された。

「One World: Together At Home(世界はひとつ。家で一緒に)」と名付けられたこのイベントは、新型コロナウイルスと戦う医療従事者らへの支援のためレディー・ガガらが呼びかけたチャリティ・イベントだ。スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニーら、名だたる大スターが自宅から歌や演奏を披露。米3大ネットワークがそろって同じ番組を放送するという異例の展開となった。

One World: Together At Homeで歌うレディー・ガガ

多くのスターが医療関係者らの感謝と賛辞を述べる中、ビヨンセが放ったメッセージは黒人の感染率の高さに言及する異色のものだった。

黒人の多くは不釣り合いなことにテレワークをする余裕がなく、“必要な労働者”として出勤しています。黒人コミュニティでは、新型コロナウイルスの影響が深刻です。持病がある人はもっとリスクが高いでしょう。新型コロナウイルスはアメリカ国内でたくさんの黒人の命を奪っています。かなりの高い確率で。

ビヨンセは、職業によって“不釣り合い”が生じ、そのために黒人が高い感染リスクにさらされていることへの危機感を訴えたのだ。

「One World: Together At Home」で呼びかけるビヨンセ

人口比率より多い 黒人・ヒスパニック系 死者の6割強

表情は穏やかだったが、歌姫ビヨンセがならした警鐘は残念ながら深刻な現実だ。
ニューヨーク市の死者における人種別の割合を見てみると・・・(4月16日発表)

黒人      33.2%(人口比率29%)
ヒスパニック系 28.2%(人口比率22%)

白人      30.9%(人口比率32%)
アジア               7.7%(人口比率14%)

カッコ内に示した、人口における人種別の比率と比較して見ていただきたい。黒人とヒスパニック系は人口の51%に及ぶが、死者に占める割合は61.4%。さらに、「入院患者」における人種別の割合を見てみると、黒人は37%、ヒスパニック系は30.4%となる。合計すると、入院患者の67.4%に達しやはり人口比より多い(白人は25.4%)。

ニューヨーク州のクオモ知事は20日、「医療、食料品店や公共交通機関など、必要不可欠な職業についている人の41%が有色人種」というデータを発表した。「ステイ・ホーム」の例外として、必要不可欠な社会活動の基盤となる職業につく人が、感染のリスクにさらされている。黒人やヒスパニック系の多くが必要な労働者として出勤し、その結果感染率が高まっていることを裏付けるデータの一つと言える。

デリバリー業者 距離を取らずにスペイン語で“おしゃべり”

シャットダウン生活が始まって間もなく22日で1ヶ月になるが、実際に、近所で見かける「働いている人」に白人はあまりいない印象だ。といっても、行く場所はスーパーやドラッグストアしかないのだが、レジの担当の人、店内の客が多くなりすぎないように人数制限をしてくれる人、買い物かごを消毒する人など、おそらく通常時より業務が増えていると想像できる。どこのセクションでも、担当者は黒人かヒスパニック系が多い。一方、客は決してそうではなく白人も多い。

さらに、ここのところずっと気になっていることがある。我が家の近くで、午後7時ごろになると、大きなリュックを背負い自転車を停車させている男性が6~7人集まっている。テイクアウト限定となっているレストランと、マンションが多い一角なので、外食宅配サービスのデリバリー担当者の「待機場所」になっているようだ。

外食デリバリーサービスの人たち 距離をとらずに待機していた(7日撮影)

2週間ほど前に通りがかったとき、その人たちの自転車は一カ所にかたまってずっと話していた。スマートフォンで注文が入るまではすることがないのか、おしゃべりをしている。耳をそばだててみると、その会話はスペイン語だった。スーパーのレジ待ちでは「6フィート(1.8メートル)」を遵守するよう言われているにも関わらず、外食宅配の待機場所では、ソーシャルディスタンスの概念は存在していなかった。当時はマスク着用義務化の前だったので、マスクをしていない人もいた。

公共の場所でのマスク義務化となった20日、“待機場所”を見てみると、さすがに全員がマスクをしていて以前よりは少し距離をとっているように見えた。しかし相変わらず黒人やヒスパニック系が多い。

「ステイ・ホーム」を支えるために感染リスクを冒して出勤し仕事をしている人たち。クオモ知事は有色人種が多いというだけでなく、「3分の1は低所得者層だ」とも発表した。

この「必要不可欠な仕事」に従事する人びとに、クオモ知事は「危険手当」として「50%のボーナス」を支払うことを連邦政府に提案したと20日発表した。ただ、支払うのはあくまで国との主張なので支給が実現するかはわからない。

解雇された人の失業手当拡充も必要だし、危険手当など最前線で働く人たちを守る対策も重要となってくるだろう。また、前述の「外食デリバリー」の人たちが、距離をとらずにおしゃべりをしていたということは、もしかすると彼らに正しく“情報”や“注意喚起”が届いていないのかもしれないという懸念もあるのではないか。

ここで、ビヨンセの言葉をもう一度思い出してほしい。

黒人の多くは、不釣り合いなことに、テレワークをする余裕がない

ビヨンセが言う職業における“不釣り合い”は、残念ながら、この国ではすぐに解消される可能性は低いかもしれない。しかし、コロナ災害により、命が“不釣り合い”に奪われることは少しでも止めなくてはいけない。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】