コロナ感染防止のため長期休みとなった全国の小中高校。その間の学習の遅れを取り戻そうと、在宅の子どもに行われているのがオンライン授業だ。

しかしオンライン授業では、教育者も慣れておらず、保護者のフルサポートも必要になる。子どもが初めてオンライン授業を受けるとき、保護者と教育者に何が求められるのか取材した。

「保護者によるサポートが不可欠です」の一文が

「最初に学校から来たメールの最後に『オンライン学習中は、保護者によるサポートが不可欠です』という一文があったのですが、これこそが核心だったと後々気づかされることになりました」

こう語るのは、フランスに在住するOECD政府代表部の樫原哲哉氏だ(文部科学省より出向中)。

フランスでは今月16日以降、幼稚園から大学まですべてが休みとなった。樫原氏の子ども(8歳)はインターナショナルスクールに通っているが、ここも同じく休校となり、さらに学校から「休校中はZoomを使ったオンライン授業に移行します」との連絡があったという。

人の姿が消えたフランスの街並み
人の姿が消えたフランスの街並み
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「(元々は文科省の職員なので)GIGAスクール構想が進む中で、双方向型オンライン授業の課題を発見する良い機会だと前向きに考え、テレワークする傍らで子どもの様子を見守ることにしました」(樫原氏)

使用するものは全て自前で用意することに

学校から届いた最初のメールには、「できるだけスムーズにオンライン配信できるように最善を尽くします」との教員のメッセージとともに、保護者にフルサポートを求める文面があった。そして教師のZoomアドレス一覧や、授業で使用するワークシートのアップロード先などのメールが、次々と届いたという。

「使用するものは、全て自前で用意することになりました」と樫原氏は言う。

「端末は3年前に購入していたiPadを使用しましたが、万が一を考えてメールの送受信はできない設定にしています。子ども2人を通わせている保護者は、自分のテレワーク用パソコンがなくなるので、急遽タブレット端末を購入したそうです」

回線は自宅Wi-Fiを使用し、Zoomアプリをインストール。プリンターは自宅にあったものの、授業で使うワークシートやプレゼン資料を印刷すると、あっという間にコピー用紙が無くなってしまう。外出制限令が発出されたパリでは、文房具店などが軒並み休業で、樫原さんはコピー用紙を探し回ったという。

リアルの授業以上にカオスになることも

さらに問題だったのは「場所」だ。

「唯一Wi-Fiが満足に入るのがリビングだったので、小さなダイニングテーブルで、テレワークをする私とオンライン学習をする子どもが一緒になりました。また背景も映るので、家の中が見えない窓際、かつ逆光にならない場所を探し回りました」(樫原氏)

そのほかにも、子どもが長時間スクリーンに向き合うことを想定して、ブルーライトをカットする眼鏡を購入した家もあったという。

この学校では、オンライン授業は通常の授業より少なめの、平日ほぼ4コマ(1コマ45分)で進んでいく。また、最初の数分で内容を説明し、残りはオフラインで問題を解く時間に充てられることもある。

オンライン学習中のルールには、「机かテーブルで勉強してください」、「授業中ものを食べないでください」、「トイレは授業の前に行ってください」といった学習態度に関するものから、「質問がある時は手を上げるか、チャットでメッセージを送ってください」といったオンラインだからこそのルールもあった。

しかし授業中、チャットで友達に話しかけたり、大量のスタンプを投稿したり、さらにはZoomのホワイトボード機能に勝手に落書きしたりする子どもがいるなど、リアルの授業以上にカオスになることもあったそうだ。

全世界が目に見えない敵、新型コロナウィルスと闘っている
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保護者はICT支援員の代わりに

樫原さんは「オンライン授業は確かに魅力的であり、ありがたい存在である一方で、保護者によるサポートが不可欠なのを痛感している」と語る。

「授業中・授業後、保護者は『ICT支援員』の代わりです。Zoomが固まったり、共有されたホワイトボードが自動で表示されなかったといったトラブルが発生すると、小学校低学年の子どもがすべてを解決するのは困難です。そして否が応でも、保護者は日々『授業参観状態』になります。家で会議資料を読み込んでいる最中も、どこかで子どもの一喜一憂に反応してしまいます」

「子どもにオンライン教育を」と保護者は簡単に言うが、実は保護者にはICTに関する様々なサポートが、求められることをよく知っておく必要がありそうだ。

双方向になるとテクニックが必要に

一方、教育者から見たオンラインの使い勝手はどうだろうか?

「講義だったら問題ないですけど、双方向になるとテクニックが必要になってくると思いました」

こう語るのは、プロジェクト型学習を行うCurio School(キュリオスクール)の創設者、西山恵太氏だ。

キュリオスクールによるオンライン体験型学習の様子
キュリオスクールによるオンライン体験型学習の様子

西山氏は今回、普段はリアルで行っている生徒同士のワークショップ(体験型授業)をオンラインで行うことで、課題点を洗い出そうと実験授業を行った。

「Zoomやスプレッドシート、Apisnoteなどを活用してみましたが、中高生の適応力の高さはすごいです。初めて触れるツールであっても少しやり方を伝えれば、スムーズに取り掛かることができましたので、この点はほぼ問題なしでした」(西山氏)

参加した中高生8人は、キュリオスクールが開催する、企業と連携した「モノづくり」プログラムの経験者だ。参加した生徒は、オンラインのツールの使い方を事前にYouTube動画で勉強してきたので、授業は最初からスムーズに始まったという。

オンラインならではの課題は「場の温め方」

実験授業は2時間。中学生4人と高校生4人がそれぞれチームを組んで、社会課題の解決策を議論するものだ。生徒は当日初めて対面し、議論のテーマ「通学時の困り事を解決する」も授業前に初めて与えられたものだった。

キュリオスクールによるオンライン体験型授業の様子
キュリオスクールによるオンライン体験型授業の様子

授業をやってみた結果、オンラインならではの課題がいくつか見えたが、まず1つめが「場の温め方」だと西山氏は言う。

「リアルな場でも同じですが、最初に場の雰囲気や、参加者同士の関係構築がうまくいかないと、自由に議論しづらくなります。特にオンラインだと相手の表情が掴みきれず、一つ一つの発言の裏にあるニュアンスが伝わらないので、場が温まるのに時間がかかりました」

Zoomには双方向で顔を見られる機能があるものの、カメラをオンにするのを嫌がる生徒もいたという。

「こちらからはカメラはなるべくオンにしてほしいと言いましたが、オンにする生徒とオフにする生徒がいましたね。終わった後の生徒の感想でも、『顔出ししなくてよかった』という生徒がいる一方で、『顔出ししないとニュアンスがわからない』と言う生徒がいました。部屋の中が映り込むのが気になったりするのでしょうが、今後はデジタル加工で徐々に気にしなくなっていくと思います」(西山氏)

保護者や教育者は子どもとITスキルの向上を

授業中の生徒の議論についても課題が残った。

「アイデアを生み出す場合、雑談や余白がないといけないのですが、オンラインだと常にオンの状態なのですぐ煮詰まったり、真面目なアイデアしか出なくなりがちです。これは意図的に雑談や休憩、遊びを取り入れる、もしくは個人ワークの時間をオフラインにすることでうまくいくかもしれないですね」

一方でスプレッドシートを活用することで、「誰がどのような発言をしたのかわかるので、議論のプロセスが可視化しやすい」(西山氏)という効果もあった。

オンラインは、離れた場所にいても授業が受けられる「未来の授業」スタイルだ。

これからも実験を繰り返して課題を克服していくことで、ますます利便性が高まるだろう。その際に必要なのは、子どものスキル向上だけではない。

保護者や教育者が子どもとともにノウハウを磨き、創意工夫していくことが求められるのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。