東京パラリンピック最終日の5日、視覚に障害のある選手による女子マラソンが行われ、道下美里(44)が3時間0分50秒で悲願の金メダルを獲得した。

リオ大会で銀メダルだった道下は、5年前の“忘れ物”を取り戻し、涙を流した。

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40歳を超えても成長

小学生で目の病気になり、右目の視力を失った道下。現在、左目もわずかな視力しか残っていない。

2016年のリオ大会でパラリンピック初出場を果たし、銀メダルを獲得。2020年には世界新記録をマークするなど、40歳を超えた今でも成長を続けている。

道下は「『よし、成長したぞっ』というレースができた時の達成感の方が大きいので、私の中ではマラソンは魅力的でした」と、マラソンの魅力を走った分だけ成長を実感できる点だと話す。

証明した超高速ピッチ走法

マラソンには、「ピッチ走法」と「ストライド走法」の2種類の走り方がある。

2つの違いは、歩幅と足の回転スピード。「ピッチ走法」の方が歩幅が狭い分、足の回転が速くなる。

シドニーオリンピック・金メダリスト高橋尚子さんの1分間のピッチが210歩なのに対し、道下は“240歩”とするデータもあるほど、道下の高速ピッチ走法は注目されている。

筋肉への負担が小さく、マラソンの場合は“省エネ走法”でゴールに進めるという利点がある「ピッチ走法」。身長144センチと小柄な道下にとって、後半まで体力温存が期待できるという。

「過去の自分に絶対勝ちたい」という一心で、磨き上げた「超高速ピッチ走法」。

リオ大会銀メダルのリベンジを果たすべく、東京パラリンピックの42.195キロに挑んだ。

この種目はガイドランナーのサポートを受けながら走りぬく。

レース序盤から、道下とロシアパラリンピック委員会のエレーナ・パウトワ(35)のトップ争いになるが、30キロ手前で道下が仕掛ける。

道下の武器である「ピッチ走法」でトップに立つと、終盤36キロ過ぎの登り坂でもペースが落ちることなく、ゴールの国立競技場へ走り続けた。

そして3時間00分50秒という、パラリンピックレコードを53秒更新するタイムで見事金メダルを獲得した。

銀メダルだった5年前のリオでは、悔し涙を流したが、東京パラリンピックで自分自身の力でうれし涙へと変えてみせた。

レース後に道下は、「今までいろんな思いをしていろんな練習を重ねてきて、この舞台を迎えることができて本当に皆さんありがとうという気持ちです」と、ガイドランナーと勝ち取ったメダルだと感謝の言葉を口にした。

そして会見の最後には、ある食べ物を食べたいと笑顔をはじけさせた。

「唐揚げが食べたいです。ずっと揚げ物を我慢してきた。今夜は食べます」