お湯ではなくライブハウスを沸かす!? 「南部鉄器エフェクター」

岩手・盛岡市のライブハウスで演奏しているのは、全国から注目を集めるバンド。
ですが...今回の主役は、足元の「エフェクター」。

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Surrounded By Enemies・ベースのAbeKenさん:
最高ですね。ずっとかけていたいような音ですね

南部鉄器エフェクターは、今、岩手を中心にミュージシャンからスポットライトを浴び始めている。

南部鉄器エフェクター あられ」。
一般的なエフェクターは軽いアルミのケースなのに対し、ずっしりとした鉄に、あられと呼ばれる模様があしらわれている。

音への好奇心でケースまで自作

南部鉄器の工房「及富」。
この工房の一角で、電子回路を黙々と作っている人がいた。

福嶋圭次郎さん(33)。
南部鉄器でエフェクターがどうしても作りたいと、神奈川・横浜市から奥州市水沢に移住してきた。

福嶋さん、言わば「音に取りつかれた男」。
「ちょっとした違いで、音は大きく変わる」と、使うはんだやはんだごても選びぬいている。

福嶋圭次郎さん:
1940年代のイギリス製のはんだごて。240Vくらいで動作する。日本じゃ動かせない。これがまた、独特の音がするんですよ。ロックってイギリスで生まれたんだという音がする。すみません、うるさいこと言って

ロックバンドを組んでいていた高校生の時からエフェクターづくりに没頭し、大学卒業後も、実家の店で働きながら取り組み続けてきた。

音への好奇心は、外側のケースにまで及んだ。
ケースの素材が変わると電気回路の流れ方が変わり、違った音が出る。
これに気付いた福嶋さんは、誰も試したことがない、木やプラスチック製品を利用するようになる。

そんな中、南部鉄器についてのテレビ番組と出会った。

福嶋圭次郎さん:
風鈴や鉄瓶をこするような音が、すごく心地よかった

心地よい響きが出る素材を使えば、エフェクターの回路も影響されて、心地良い音が出るに違いない。
福嶋さんは、一念発起して2019年の夏に移住し、銀行の融資を受けて、1人で会社を立ち上げた。

「及富」の職人も型作りから鋳造まで協力してくれて、約半年かけてエフェクターは完成した。

福嶋圭次郎さん:
鋳鉄という素材から影響があると思うが、従来のアルミケースのものより音に厚みがあって、前に飛ぶ感じがある

商品化にこぎつけ、注文をネットなどで募った。
50個を生産し、完成品の出来を確かめている。
しかし、注文がこないと赤字になる。「生活」という文字が重くのしかかる。

福嶋圭次郎さん:
先のことを考えると怖いなと思うんですけど、やらないといけないことは目の前にしかない

悩める福嶋さんのもとに、とあるミュージシャンがやってきた。

佐藤和夫さん:
お邪魔します。SaToMansionの佐藤和夫です。よろしくお願いします

二戸市出身のロックバンド「SaToMansion」のボーカル & ギター・佐藤和夫さん。
「SaToMansion」は2015年、4兄弟で結成されたバンドで、東京を拠点に活動している。
2019年はサッカーJ3・グルージャ盛岡の公式応援ソングを作るなど、地元はもちろん、首都圏でも人気を集めている。

和夫さんは、ファンからの情報でエフェクターの存在を知り、工房を訪れた。
和夫さんが実際に弾いてみることに…

佐藤和夫さん:
いいですね!(音の)粒がしっかりしているというか、単音がちゃんと鳴る。ください!(笑)めちゃめちゃいいですね。全然違いますね

心から感動する姿に胸を打たれた福嶋さんは、プレゼントすることにした。

福嶋圭次郎さん:

拾ってもらった身なので、岩手を盛り上げたいし、岩手でしかできないことだと思うので、これで世界に打って出たいなと

佐藤和夫さん:
最高の武器を使って、全員ぶっ倒しますから。任せてください

その10日後の1月4日、地元・二戸市で行われた凱旋公演。
ふるさとに感謝を伝える、メンバーにとって特別なライブ。

和夫さんの足元には、黒く光る「相棒」の姿があった。

佐藤和夫さん:
もっと伸ばしてほしい、もっと伸びてほしいというくらいに(音が)伸びる。ちょうどいいところまで伸びる。助けていただきました、“あられ”に

千年の歴史を持つ伝統工芸に、ほとばしる新しい熱。
南部鉄器が、お湯ではなく、音楽界を沸かせる。
南部鉄器エフェクター問い合わせは「090-7425-2981」まで。

(岩手めんこいテレビ)

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