近年、家庭内で起きる深刻な児童虐待が相次いで発覚し、大きなニュースになっている。
こうした中、様々な子育て支援を実施してきた兵庫・明石市は現在、全国でも珍しい虐待予防を兼ねた事業を検討しているという。
それは、母子の見守り活動を兼ねたおむつ宅配。
0歳児のいる家庭に、1年間毎月無料で紙おむつを届け、手渡しすることで同時に母子の健康や虐待の有無をチェックする計画だ。
実は、この明石市の「おむつ宅配」事業にはモデルがある。
滋賀・東近江市と甲良町では全国に先駆け「見守りおむつ宅配便」を実施していて、おむつやおしりふきなど月額1500円相当の物品を無料で各家庭に届けている。
なぜ「見守り活動」と「おむつ宅配」を合わせた事業を思いついたのか?そして実際にどんなやり取りをしているのか?
まずは、東近江市こども未来部こども政策課の担当者に聞いてみた。
話し相手になることで「見守り」
――事業をたちあげたきっかけは?
始めたきっかけになったのは、平成26年度に行った「家族づくり満足度調査」です。
その中では、「子供はほしいけど妊娠や出産が不安」であるとか、「経済的な負担が増すということが不安」という意見が上位を占めていました。
内閣府の調査でも、0歳児の乳児がいる家庭では、生活用品等の出費の割合が高いという結果が出ています。
「こども未来部」では、こういう諸問題を解決する策はないかと考えていました。
東近江市には、様々な市職員がそれぞれ考えた政策を提案する「東近江市グランドデザインレポート」というものがあります。
そこで提案した、おむつの宅配が採択され、28年度から実施する事になりました。
――なぜ宅配だけでなく「見守り」をすることにした?
先ほど申し上げた「子供が欲しいけど妊娠とか出産は不安」という声があった事に加え、近年は核家族化が進行しています。
少し前なら、おじいちゃん・おばあちゃんにちょっとしたことを相談するという事がありましたが、今ではご夫婦だけで住み、ご主人がお仕事に行ってお母さんだけで子育てするケースが増えました。
すると、お母さんは「最近ちょっとよく泣くなあ」とか「おしりのところが赤いなあ」とか大したことではないんですが小さな不安をたくさん持っている。
それを専門宅配員が荷物をお届けするときに、お話してちょっとした不安を取り除けるようにしたい。
少し話し相手になることで、「見守り」という要素が入っているんです
――虐待の調査ではなく「立ち話」?
立ち話です。
玄関でおむつを渡すそのときに「お母さん元気ですか?」「体調は大丈夫ですか?」「赤ちゃんも元気ですか?」というような声掛けをします。
赤ちゃんも玄関に連れてきていただけるなら、抱っこして出てきていただくというような状況です。
――宅配員が虐待の兆しや異変を感じたら?
宅配員が、お母さんには言えない異変に気付いた場合は当課に連絡が入り、市の担当官と連携して対応にあたります。
この流れについては宅配員には伝えてあり、研修も行っています。
ただし、今まで重篤な連絡というのはありません。
もし虐待があった場合は、児童相談所と連携をして担当課が対応することになります。
東近江市の担当者によると、対象となる0歳児の9割がこの制度を利用しているという。
育児の不安の解消や経済的負担の軽減のために始めて、事業開始以来、重篤な児童虐待の通報はないというが、新たに制度化を進めている明石市はどう虐待防止につなげていくのだろうか。
これまでにも児童虐待防止へ様々な子育て支援
これまで明石市は児童虐待に対応するため様々な施策を打ってきた。
例えば、24時間体制で電話を受け付ける相談窓口を設けたり、全小学校区に「子ども食堂」設置し地域で「見守り」を行ったり、さらに妊婦への面接や乳幼児の検診を通じても虐待の兆候を確認しているという。
だが、明石市に寄せられた児童虐待の相談件数は昨年度1年間で382件だったものが、2019年は4月から9月の半年間で260件と増加している。
当初、明石市は「おむつ宅配」事業を12月に議会に提出する予定としていたが、11月26日になって泉房穂市長が会見を開いて延期を発表。2020年3月に議会に提出し、10月の事業開始を目指すという。
一体、なぜ延期したのか?今度は明石市子育て支援課の担当者に、この事業の狙いとともに聞いてみた。
虐待防止が重要なことの一つです
――なぜ延期するの?
多くの報道では、おむつの無料支給が注目されたようですが、今回の事業は赤ちゃんの見守りを重視ししています。
当初は12月議会への提出を予定していましたが、これを3月議会にすることでその間に議会の意見なども聞きながら、赤ちゃんの見守り方法や体制などの検討を加えたいと考えています。
――東近江市とは違うことをする?
基本的には本市も、東近江市と同じことをします。
配達員は普通の人が見て気づくことを市に報告し、子育ての現場に近い情報を市がいち早くつかむことで虐待を減らしていきたい。
本市は、児童相談所を設置している市ですので、やはり虐待防止が重要なことの一つです。
「おむつの宅配」によって虐待の防止にもつなげていきたいと考えています。
おむつの宅配をしながら、配達員が定期的に家庭の様子をみることは一定の抑止効果にはなるだろうが、虐待のある家庭ほどこのサービスを利用しようとしないという難しい現実もあると思う。
虐待防止が重要な狙いの一つと語る明石市が、当初の予定を延期して検討する「おむつ宅配」事業の効果に注目したい。