見知らぬ人にマッチングアプリでなりすまされ、わいせつな内容など大量のメッセージに恐怖の日々を送っていた女性。発信者情報開示請求で判明した“なりすまし”の人物は、面識のない“元彼の彼女”だった。
400通のメッセージ 恐怖の日々
見知らぬ人物による“なりすまし”の被害について語ってくれたのは佐賀県内に住む平尾曜子さん。

被害にあったのは5年前。見知らぬ人物にマッチングアプリでなりすまされ、本人のSNSには第三者からわいせつな内容など約400通のメッセージが送りつけられてきたという。

平尾曜子さん:
いきなりの大量のメッセージでこれは何だろうと思って。とにかく何が原因で何が起こっているのかも分からなくて手が震えました

恐怖を感じたのは自分自身のことだけではなかった。
家族や職場は大丈夫か…恐怖と不安
恐怖を感じると同時に心配になったのが家族や職場のことだったという。
平尾曜子さん:
家族に何かあったりしないか。元の職場も書かれていたので、元職場の方に連絡が行ったりしないか。自分のこともですけど、周りに何か影響がないかすごく怖くなった

平尾さんは警察、県や国の相談窓口などに連絡したが明確な回答は得られなかった。
このため自分で闘う道を選ぶことにしたが、苦しみの日々は5年を超える長きに及ぶことになる。
投稿者特定へ「発信者情報開示請求」
平尾さんは自ら証拠を集めるなどして最終的に弁護士に相談。投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」を行うことを決断した。

弁護士を通じて約2年がかりで進めた発信者情報開示請求。その結果、自分に“なりすましていた人物”が特定された。
「面識のない“元彼の彼女”だった」
その人物とは…
平尾曜子さん:
開示請求が終わって相手が特定できた。(その人物は)今から数えて15年以上前の元交際相手の面識のない彼女だったんです

情報開示請求の後、平尾さんは裁判に臨む。佐賀地裁は被告が平尾さんの名誉を棄損したと認め、慰謝料160万円のほか320万円の逸失利益などを合わせ、被告に約530万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。

裁判について平尾さんは「主張が認められ頑張ってきて良かった」と語る。
しかし、失った時間は戻ってこない。
「代償が大きすぎる5年半」
平尾さんが被害に遭ったのは2021年の2月。そこから、投稿者を特定するための「発信者情報開示請求」に約2年。

その後、損害賠償を求める裁判を起こし、今年(2026年)7月に判決が言い渡され確定。
約5年半、平尾さんの闘いは続いた。

平尾曜子さん:
女性として一番大事な時期だと思っていたので、代償が大きすぎる5年半でした
新制度で情報開示が短期間で可能に
平尾さんが被害に遭った当時の「発信者情報開示請求」では主に2つの手続きが必要だった。

第一にSNS事業者やサービスの運営企業に対して、投稿者のアドレスなどの開示を求める仮処分という手続き。
第二に通信事業者に対して、投稿した人物の名前や住所などを開示させる手続き。
これら2つの手続きで相手を特定する証拠が出揃うということになる。

しかし、2022年10月に施行された法律では、「発信者情報開示命令」という申し立てができるようになり、裁判所に対して1度手続きを行うことで、裁判所が事業者に対して投稿した人物の情報の開示を命じることができるようになった。
平尾さんの場合は法施行前だったため時間を要したが、新しい制度では2、3カ月ほど短縮されている印象だと専門家は言う。

その一方で、インターネットやSNSの誹謗中傷問題に詳しい専門家は、新制度による開示のスピードが上がったものの、海外のプラットフォームの対応に時間がかかる点など課題も指摘する。
SNSでの誹謗中傷が多額の慰謝料に
では実際に誹謗中傷などの被害に遭った場合にはどうすればいいのか。
パソコンのブラウザから証拠を残すことが大切だと専門家はアドバイスする。

法律事務所アルシエン 清水陽平弁護士:
多くの人はアプリを使うと思うが、アプリだとURLがわからないという問題がある。できるだけスマートフォンではなくパソコンからブラウザで見てPDFなどで保存してほしい

最高裁判所が2026年6月に公表した「発信者情報開示命令」の件数は、法律が施行された2022年10月以降、徐々に右肩上がりとなり、去年1年間の申し立ては初めて1万件を超えた。
軽い気持ちの誹謗中傷が多額の慰謝料につながることもある。SNSの使い方を改めて見直すことも必要だ。

