人の命と向き合う“医師”と壮大な風景を切り取る“カメラマン”。一見全く異なる2つの活動を二刀流で行う男性が新潟県にいる。2つの道を歩み始めて10年。異なる世界を行き来する男性の思いとその原動力に迫った。
医師とカメラマンの二刀流!?
9月12日、新潟県小千谷市で開かれた秋の恒例行事・片貝まつり。
多くの人でにぎわう花火会場の近くで、真剣な表情でシャッターを切る一人の男性がいた。
「なるべく他の人が撮らないであろう構図、自分じゃないと撮らないだろうなという構図を撮るようにしている」
こう話すのは、上越市在住の石田卓士さん(55)だ。本格的なカメラで次々と目の前の光景を写し撮っていく。

しかし石田さん、本業はカメラマンではない。
平日は県立中央病院で診療部長を勤め、呼吸器内科医として活動する“医師”なのだ。
“風景写真”に魅了され…SNS総フォロワー数は2万人超に!
写真を撮るようになったきっかけは今から約10年前。
最初は家族を撮るために購入したカメラだったが、自身の子どもが部活を引退するなど写真を撮る機会が少なくなったタイミングで、カメラ仲間から「風景を撮ればいいのでは」と誘われたのが始まりだった。
石田さんが最初に撮った風景写真。

普段見慣れた景色が写真を通して新たな表情を見せてくれたことに感動を覚えたという。
その1年後、雲海の上に花火が上がった作品を写真投稿サイトに掲載すると、その年最も注目された一枚として表彰され、一気にカメラマンとしての知名度が上昇。

今では撮影機器を手がける大手メーカーのトークショーやカメラ雑誌の執筆を行うなど活動の幅を広げ、SNSの総フォロワー数は2万人を超える人気ぶりだ。
普段、撮影は診療後や休日などを活用し、主に地元の風景を舞台にするという。

医師として患者を診断する際には、様々な検査をするが、写真を撮る際も下見をしたり、天気予報を調べたり、医師とカメラマンでアプローチの仕方は似ていると話す。
この日も現地に着いて20~30分ほど下見を行い、夜に打ち上がる花火の撮影に備えていた。
花火とともに“生活”を切り取る!石田さんの撮影に密着
午後7時半。あたりはすっかり暗くなると、花火の打ち上げが開始。
絶え間なく打ち上がる大輪を石田さんはタイミング良く捉えていく。下見の成果もあってか開始早々、思い描いていた一瞬を切り取れたようだ。

約2時間半にわたって打ち上がり続ける花火を様々な場所から捉えていく石田さん。
「曇天の日は空がちょっと白い。そうすると、木がシルエットになって見えるので、その中にさらに花火が上がるところを撮りたい」
そうしてできあがった写真から感じるのは花火の美しさだけではない。

医師としての顔を持つ石田さんが撮影の中で心がけるのは、入院中や思うように外出できない人など、花火をその場で見られない人にも楽しんでもらうための工夫だ。
花火とともにそこに暮らす人々の生活が想像できるような一枚。

一見、幻想的な雰囲気を損ないそうな要素も風情に変えてしまう。

終盤にさしかかってきた頃、最後に狙うのは、片貝まつりの代名詞とも言われる“正四尺玉”だ。
この日、一番の轟音とともにまばゆい閃光が夜空を彩ると、その迫力に圧倒されながらも石田さんはシャッターを切った。

撮影を終えた石田さんからは「写真を見てくれた人には、ちょっとほほえんでもらえるだけで良い」と笑顔が見えた。
写真から生まれるコミュニケーション「誰かを笑顔に」
片貝まつりから2日後。
普段の診療の様子を取材していると、患者さんから「写真を見た」という一言がこぼれた。

「先生の写真は幻想的。写真について詳しくないが、教えていただくことも多く、写真を見て話をするのが楽しい」と話す患者さん。
これに対し、石田さんは「実際の診察の間隔は2カ月、3カ月でも、その間に何度か写真を見てくれていると、その間もコミュニケーションが取れているような感じになる」とうれしそうな表情を見せる。
そこには、診療だけでなく、写真を通して明るい笑顔が広がっていた。

平日は患者と接しながら休日は撮影を楽しむ。二足のわらじで歩む石田さんにとって写真とは、自身の目的である、誰かを癒やすためのツールなのだと言う。
「最終的には誰かを笑顔にできるような写真を撮りたい」
そう力強く語る石田さんは今後も医師として命を支え、カメラマンとして心を動かし、二刀流で多くの笑顔を生み出していくだろう。

