データ提供 PR TIMES
本記事の内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES (release_fujitv@prtimes.co.jp)までご連絡ください。また、製品・サービスなどに関するお問い合わせに関しましては、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。

 日常生活において“すべってくれると良いな”と思う場面はないでしょうか。例えば、車に付いた鳥の糞や、窓に付いた雪など、勝手に落ちてほしいと思いませんか?

2016年、花王も “すべる表面”を作るコーティング剤の研究を開始しました。今回は、独自の技術で開発に挑んだ研究員に話を聞きました。

研究チームのメンバー

きっかけは、科学雑誌「Nature」に投稿された論文

ハスの葉のように撥水性を高めたフライパン、サメの肌のように水抵抗を抑えた水着など、「バイオミメティクス(生物模倣)」による商品は意外と身近に多くあります。

2011年、新しいバイオミメティクスに関する論文が「Nature」に投稿され、話題となりました。著者はハーバード大学で材料科学を研究するジョアンナ・アイゼンバーグ教授。一度入った虫はすべって外に出ることができないウツボカズラの袋に着目し、微小な凹凸構造と潤滑油を組み合わせることで、“すべる表面”を作る技術でした*1。この技術はSLIPS(Slippery Liquid-Infused Porous Surfaces)と名付けられ、さまざまな機関で実用化に向けた研究が進められました。しかし、誕生したばかりのSLIPSには、「持続性がない」という課題もありました。

*1  Bioinspired self-repairing slippery surfaces with pressure-stable omniphobicity                ウツボカズラ

◆すべる表面に興味をもった理由

― そもそもなぜ花王でこの研究を始めようと思ったのでしょうか?


研究員: すべる表面というと、日用品を扱う花王のイメージから遠いと思いますが、界面科学に強みをもつ花王の研究員としては、物質がすべる“表面”という現象は身近なテーマです。


― なるほど。「界面(接している2つの物質の境目)があるところに花王のビジネスがある」と、ある社員から聞いたことがあります。石鹸から始まっている会社だけあって、界面活性剤などの界面をコントロールする技術に強みがありますよね。


研究員: 研究を始めてみると、日常生活において“すべると良いな”と思う場面がいろいろあることに気が付きました。例えば、車に付いた鳥の糞や、窓に付いた雪などです。落とすにも、労力やコスト、エネルギーが必要なので、勝手にすべり落ちてくれたら便利なのにと。

◆セルロースナノファイバー活用で潤滑油に覆われた表面をめざす

ウツボカズラの袋を模倣したSLIPSを参考に研究を始めたとのことですが、どんなことが難しかったですか?


研究員: 葉の形状で「水を弾く」ハスとは違い、ウツボカズラの袋は、表面から微量の潤滑液を出すことで虫を「すべり落とす」仕組みです。再現は難しかったですね。表面を油で覆えばその瞬間は物をすべり落とすことは可能ですが、一緒に油も落ちてしまいます。それでは毎回塗りなおす必要があり、実用的ではありません。これが課題となっていた「持続性」です。


― 持続性については、セルロースナノファイバー(CNF)をうまく利用したら改善できるのではという目論見が当初からあったと伺いましたが、それはなぜでしょうか?


研究員: CNFは植物から得られる繊維をナノサイズまで細かくほぐしたものです。潤滑油と組み合わせると、CNFの細かい繊維が潤滑油を保持してくれると思いました。油を吸ったスポンジから、じわじわ油が染み出すイメージです。


― 長期間に渡って微量の潤滑油を放出し続けることができるということですね。すぐに狙い通りできたのでしょうか?


研究員: CNFに潤滑油を含ませるためには、両者の相性を良くする必要がありました。潤滑油は疎水性(水をはじく性質)、CNFは親水性(水になじむ性質)で、もともと両者は水と油のような関係です。しかし、過去にCNFを油になじみやすくする技術を開発していたので、それを活用することで、両者の相性を良くすることに成功しました。

◆研究中の偶然で「持続性」の性能アップを実現

― 持続性をさらに高めるために行ったことはありますか?


研究員: 実は、持続性を飛躍的に向上させることができたのは偶然でした。私たちは、作業者の健康や環境負担軽減のため、有機溶媒を使わない水系のコーティング剤をめざして開発をすすめていたのですが、その水のなかで油を含んだCNFは毬(まり)のような状態になっていることに気が付いたのでした。


― 毬状になることで、より多くの潤滑油を保持できるようになったということですね。それは新発見だったのですか?



研究員: CNFが油を包むように集まる現象は、既に論文で報告されていました。しかし、今回のように多くのCNFが集まり、まさに毬のようになっているというのは、過去に報告がないと思います。その後研究をすすめ、CNFと潤滑油の相性をコントロールして使いやすい状態の毬を意図的に作れるようになりました。


◆今後は産業界に貢献する製品へ

― “すべる表面”を持続させるコーティング剤の技術ができたということですが、どんな用途で使用できると考えていますか?


研究員: まずは産業界で使ってもらえる製品にしたいと思っています。例えば、型枠の内側に塗ることで製品を型から外しやすくする、壁に塗っておくことで落書きや汚れを防ぐ、船の底に塗ることでフジツボの付着を防ぐなどです。さまざまなところで応用できると思っているので、ニーズを探りながら、用途ごとの開発を進めていきたいですね。

×


<製品について>

“すべる表面”技術を応用した花王製品の第一弾は、離型剤「ルナフロー RA」です。

ゴムや樹脂製品の製造時に、製品を型枠からスムーズにとり外すためのコーティング剤で、優れた離型性と一度塗布すれば繰り返し使用できる持続性が特長です。製造工程での作業性向上が期待でき、かつ溶剤フリー・フッ素フリーで環境と作業者の両方にやさしい製品設計となっています。


×





行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ
PR TIMES
PR TIMES