今や学校でもオンライン授業が当たり前となっている。

そんな中で、日本全国に通信教育を提供する勇志国際高等学校は、今年4月からアバターで学校に通うことができる「メタバース生」の入学生・転入生を募集している。同校によると、アバターで通える通信制高校は“日本初”だという。

同校は、広域通信制高等学校として認可を受けた単位制高校で、3年間通学して卒業すれば普通の高校と同じ資格が得られる。

「メタバース生」は、インターネット上の仮想空間であるメタバースの学校に自分の化身であるアバターの姿で通い、ホームルームはVR空間で行うという。

(出典:勇志国際高等学校)
(出典:勇志国際高等学校)
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生徒全員にはVR機器が無償で貸与され、別途必要になるPCは特別価格で提供するとしている。

ただ全ての教科をメタバース空間で教えるわけではなく、教育プログラムの性質に合わせて普通のオンライン授業を行うものもあるそうだ。

同校によると、チャットなど文字によるコミュニケーションは他者との関わり合いが薄くなる傾向にあるが、「メタバース生は、3D空間を積極的に活用することで自分と気の合う友達と出会いやすい」としている。

年間行事やタイムスケジュールによると、放課後には「ネット部活」などもあり、文化祭や体育祭も開催される。

文化祭は、各クラスが考えた出し物をメタバース空間で実施。体育祭ではeスポーツが行われ、学生同士の親睦を深めるそうだ。

(出典:勇志国際高等学校)
(出典:勇志国際高等学校)

なお募集定員は設けておらず、入学試験はあるが一般的な入試とは異なり、志望理由など学校への意欲を確認するものだという。

これまでにもメタバースを教育に活用していた例はあったと思うが、同校は何が違うのだろうか?また、そもそもアバターはどうやって用意したらいいのか?勇志国際高等学校の担当者に聞いてみた。

メタバースでこれまでのネット授業以上に他者とのかかわり合いを学ぶ

――なぜ「メタバース生」を募集することになった?

メタバース教育を導入する意図のうち最も大きなものは、多様化の進む現代社会において、様々な生徒さん一人一人にあまねく教育機会を提供し、また本来は大学や専門学校で取り扱うデジタル技術を早くから学習することで、これからの社会に必要な教育の提供・必要とされる人材の育成を行うことです。

それでは現実社会から遠ざかるのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、メタバース教育が意図するところはむしろ逆で、これまでのネット授業以上に他者とのかかわり合いを学び、人間関係の経験から社会性を身に着けることをねらいとしています。一人一人に最適な、同級生とのコミュニケーションを通した社会的経験、高校生らしい経験をぜひしていただきたいと考えております。


――同校の「メタバース生」の特徴は?

勇志のメタ生は品質面、教育効果の面、コストの面の3つでメリットが大きいです。

品質面:VR機器を前提としていて没入感が高く、また生徒さんに親しみやすいようアニメ調のキャラクターを標準としています。プラットフォームは「バーチャル名鉄名古屋ステーション」という、名鉄さんのメタバースでも採用されたものになっていて、品質が高いととても評判です。

その他、様々なVRイベント等で利用されているものと仕様を合わせてあるので、展開の幅・自由度が大きくなります。

教育面:品質が高いことにより、SHR(ショートホームルーム)もそうですが、特に文化祭を通した教育効果が高いと考えています。これまでのメタバースでは、会話するだけ、手振りができるだけ、そういった手軽なコミュニケーションを重視したものが多かったですが、勇志のメタ生では基本的に全員がVRを利用し、自分自身で空間を開発したりすることもできるようになっています。

このことにより、例えば通常の学校では段ボールを使って教室に飾りつけをして、その企画や計画を進めていく中で高校生らしさというか、非常に教育効果があると思うのですが、勇志のメタ生では、これをデジタルを使ってやることになります。

他にも、学校専用の空間ではなくて他の用途にも使える、そして実際に民間・行政ともに採択されている空間を使っていますので、校外学習的な活用であったり、生徒さん同士で何かバーチャル空間に遊びに行ってもらう等、全日制高校の担ってきた、教育のうち非常に定性的な部分を通信が取り入れた、というのは非常に大きな部分です。


コスト面:最後に学校法人直営であることが挙げられます。他校におけるメタバースの活用はサポート校(編集部注:民間の私塾)であったり、あるいは民間企業が提供するVR動画視聴アプリに留まることが多いですが、本プログラムは学校法人が直接提供しているものになり、コスト面で負担が少なくなっています。

(画像はイメージ)
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――全く素顔を晒さずに卒業することもできるの?

文部科学省の規定により、毎年5日間のスクーリングが必要となっています。その際は学習センターまたは本校にご来校いただく必要がありますが、何かご事情があられる場合は事前にご相談ください。(編集部注:学習センターは熊本県天草市の本校を含め、全国に6カ所)

最初の授業でアバターの設定方法を学習

――アバターはどのように用意する?

最初の授業で、アバターを設定する方法を学習します。既定のものを利用することもできますが、メタバースで一般的なアバターの形式に対応していますので、もしご自身が既にアバターを持っている場合はそれを持ち込んで利用していただくことも出来るようになっています。


――「ネット部活」とはどんなもの?

初年度については、それを希望する生徒さんがいるかどうか次第ではありますが、いくつかのメタバースならではの部活の新設を予定しています。

例えば既存の部活に写真部やイラスト部がありますが、これらはメタ生でもそのまま適用できるものかと思います。ただ、例えば野球部のようなものはメタ生ではe-Sports部という風になるでしょうし、もしかすると、VTuber部のようなものもできるのかもしれません。

最終的には学生の要望をヒアリングしていって、生徒に最大の機会を提供したいと考えています。


――学費は一般的な通信制と同じぐらい?

いわゆるサポート校と比べると非常に安価になるのではと思いますが、直営の学校と比べても、なるべく負担が無いよう平均的な範囲に収まるよう設定しています。

通信制のメリットに全日の「高校生らしさ」を加えたイメージ

――「メタバース生」は、どんな人に向いている?

自分らしい高校生活を探したい、過ごしたい、それを通して自分に合った進路を見つけたいと考えている方に向いていると思います。通信制のメリットに、全日の「高校生らしさ」を付け加えたものと考えていただくとわかりやすいと思います。

もともと勇志はサポートの手厚い学校で、レポートの提出状況の確認や学習指導などを担任を通してまめに行っています。そこに、全国の生徒と同じ学校に所属できるという通信制高校のメリットと、空間を超えてコミュニケーションを取れるメタバースのメリットが加わりますから、
自分とスタイルの合う友達を見つけて、高校生らしく日常を過ごしながらお互い成長していく、という効果が出れば学校としては一番嬉しく思います。

デジタル技術についての知見や、デジタルを活用した企画、コミュニケーション、推進力といった、どのような進路でも役に立つ能力が育つプログラムなので、高校生活を通して希望進路に進むための力を付けながら、自分が何をしたいのかを見つけて行く、というイメージです。

特に最近は総合型(AO)選抜による入試が多くなってきており、デジタル技術に触れることによりそういった進学には特に強くなるのではと思います。

逆に言えば、学校は最小限、最短コスパで卒業するといったプログラムではないので、高校卒業資格だけが欲しいという場合はメタ生は向いていないかもしれません。

(出典:勇志国際高等学校)
(出典:勇志国際高等学校)

同校のメタバース生は、自ら使っているメタバースやVRについての作成方なども学習するという。

大学や専門学校で取り扱う内容を高校在学中から学ぶことができるそうで、その道を目指している子どもたちにとっては、このような学校も選択肢の一つになるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。