「寝ると嫌なことが忘れられる」は本当? 悪夢の正体とは? 気になる睡眠と記憶の関係を専門家に聞いた

カテゴリ:暮らし

  • 「レム睡眠」の間に嫌な記憶や感情が制御される
  • 連日「悪夢」を見る時は嫌な記憶が固定化されやすい
  • 「リラクセーション 」には不安から意識を背ける効果あり

嫌なことがあった時のリフレッシュ法は、体を動かしたり甘いものを食べたりと、人によってさまざまだが、中には「寝たら忘れるタイプなんだよねぇ」という人も。

この“寝たら忘れる説”、果たして根拠はあるのだろうか? 東洋大学社会学部社会心理学科教授で、公認心理師・臨床心理士の松田英子先生に、嫌な記憶と睡眠の関係について聞いた。

夢を覚えていない人ほど、寝たら嫌なことが忘れられる人

「“寝たら忘れる説”は本当です。体はぐったり休んでいても脳は比較的活性化しているレム睡眠の間は、脳内で記憶情報の整理や感情の適正化が行われます。この時に、大事な記憶は固定され、怒りや恐怖などの情動は抑制されるのです」(松田先生・以下同)

つまり、寝れば嫌な記憶は消去され、マイナスの感情もリセットされるというわけだ。ちなみに、記憶情報の整理には「夢」が関係しているという。

夢はレム睡眠の間に見るもので、人は一晩に3つから5つの夢を見ているといわれている。その内容は現実とリンクしていて、生活の中で見たり聞いたりした要素が出てくる。その作業を通じて、記憶や感情を整理していくようだ。

「夢の内容って、ほとんど覚えていないですよね。でも、朝までぐっすり眠れて、夢が思い出せないのは、記憶や感情が適正に処理されている証拠。逆に、何日も連続で不快な夢を見たり、夢の途中で目が覚めたりする人は要注意です」

松田先生の話によると、正常であれば記憶情報や情動情報を整理できるはずが、かえって恐怖の記憶や不安の感情が夢によって強化されてしまう場合があるそう。

「現実の思考の延長線上に夢があるので、起きている時にあまりに強い恐怖感や不安があると、悪夢となってしまうことがあります。悪夢によって目覚めてしまうと、処理が中断されるので、嫌な記憶や感情が強化されてしまうのです」

「悪夢」が日常の不安感を強めて負のループを招く

ひと口に「悪夢」といっても、いくつかの種類に分けられ、深刻度が変わってくるのだとか。

上から2番目までは、楽しい夢やニュートラルな夢、焦りなどの不快な夢。3番目の「悪い夢」は崖から落ちる、人に追いかけられるといった、現実には経験のない内容の悪い夢。4、5番目の「特発性の悪夢」は、仕事の人間関係や将来の不安など、日常生活で抱えているストレスが現れる悪夢。一番下の「心的外傷の悪夢」は、事故や災害などトラウマとなっている記憶が再現される悪夢。

「下に行くほど悪夢の強度が強くなり、特に4~7番目の悪夢は睡眠が中断され、嫌な記憶が強化されやすいです。『特発性の悪夢』は、見るたびにストーリーの内容が変化する特徴があり、起きる時間に近くなってから見ることが多いです。また、目が覚めた時に夢だと気付きます。『心的外傷の悪夢』は基本的に内容が変わらず、一晩に2~3回見ることもあり、そのたびに目覚めがちです」

松田先生は「悪夢は繰り返し見やすいもの」と、教えてくれた。その理由は、嫌な記憶が強化されていくから。

「恐怖感や不安が高まっている時は、現実の記憶が悪夢と合致しやすい状態です。実際に悪夢を見ると嫌な記憶が強化され、起きている時も恐怖感や不安を引きずり、また悪夢を見てしまうという悪循環に陥るのです。特に、神経質な性格の人は、悪夢を見る傾向が強いといわれています」

寝る前の「リラックスタイム」で記憶の整理をスムーズに

悪夢さえ見なければ、睡眠中に記憶情報の整理は正常に行われる。では、悪夢を食い止める方法はないのだろうか。

「セルフケアとしては、寝る前のリラクセーションが有効です。好きな音楽を聞いたり、ゆっくり呼吸をしたり、軽いストレッチで筋肉を緩めたり、リラックスできる方法であればOKです。リラクセーションは、恐怖感や不安に意識が向かないようにする効果があるので、気持ちが落ち着いて寝付きがよくなります」

ただし、「特発性の悪夢」や「心的外傷の悪夢」を見る自覚がある場合は、専門医による治療が必要になるそう。

「悪夢に悩まされている場合は、睡眠外来を受診、または臨床心理士に相談しましょう。エクスポージャーとイメージリハーサルセラピーという2つの治療法がありますが、中途半端に行って最後まで処理しないと、かえって恐怖度が上がる場合があります。必ず専門家のもとで行いましょう」

●エクスポージャー
悪夢の内容を何度も思い出したり、人に話したりすることで、恐怖度を下げていく方法。

●イメージリハーサルセラピー
悪夢の内容を思い出して、納得のいく結末を付け足し、肯定的に書き換える方法。

ちなみに、「寝ても嫌なことが忘れられないから、寝ない」と、睡眠を放棄してしまうと嫌な記憶や感情はますます深まってしまうとのこと。

「睡眠が取れていないと日中の活動の質が落ち、ネガティブになりやすくなるので、嫌なことがあった時ほどしっかり寝てほしいです。恐怖感や不安があって寝付けない時は、『ひとまず明日はこれをしよう』と区切り、長く考え込まないことが大事。リラクセーションで気持ちを落ち着けて寝た方が、嫌なことは忘れられますよ」

寝ても嫌なことが忘れられない時は、睡眠の質が低下しているということ。睡眠前に心や体をリラックスさせ、睡眠を確保することを意識しよう。質の高い睡眠を取ることができれば、自然と嫌な記憶は薄れ、日中のパフォーマンスも高まりそうだ。

松田英子
東洋大学社会学部社会心理学科教授。博士(人文科学)、公認心理師、臨床心理士。江戸川大学教授、放送大学大学院客員教授などを経て、2015年に東洋大学社会学部社会心理学科に着任。

「人生の1/3を豊かにする“良質な睡眠”」特集をすべて見る!

取材・文=有竹亮介(verb)
表紙デザイン=さいとうひさし

人生の1/3を豊かにする“良質な睡眠”の他の記事