親戚のような距離感で子どもたちに寄り添いたい。

 家庭環境や人間関係に悩む子どもたちが安心できる居場所づくりに奔走する大人たちを追いました。

 「おはよう」(生徒)

 まだ眠そうな表情で駆け込んできた生徒たち。

 お目当ては朝ごはんです。

 「友達としゃべりながら食べるのがいいなって」(生徒)

 「(Q・朝ごはんいつも食べる?)たまに食べてくる。寝坊して食べられない」(生徒)

 札幌市の中島中学校で2023年から始まった活動。

 若者を支援する団体「いとこんち」が週に1度、朝と夜、作りたてのごはんを生徒たちに提供する取り組みです。

 「待っている子たちはいるので、朝待ってたよって言われると嬉しい」(いとこんち 森口雅和さん)

 当初は保護者から理解されるのか、心配だったと明かしてくれた横川広志校長。

 しかし、時間がたつにつれ、不登校だった生徒が学校に来るようになったり、仕事の都合でごはんの準備ができない保護者から「助かる」と声が寄せられたといいます。

 「ここを使った生徒たちは顔色が全然違う。栄養的に満たされてるのもあるし、あったかいもの食べて、あったかい言葉かけられて違うんじゃないかな」(中島中学校 横川広志 校長(取材当時))

 「助けてくれるおじさんとおばさん」が子どもたちの身近にいること。

 札幌・中央区で若者の支援を続ける団体「いとこんち」の理念のひとつです。

 若者の支援施設で働く職員がここでは「おじさん」と「おばさん」です。

 そして小学生から19歳までの子どもたちをここでは「いとこ」と呼びます。

 親戚のような距離でサポートすることで安心できる居場所になることを目指しています。

 「児童館やユースセンターに遊びに来れる子は来るけれども、それどころじゃない子っていうのは多くいる。家族とは別に親戚の家にご飯を食べに行ったりできるような場所を作ったというのがいとこんち」(いとこんち代表 松田 考さん)

 代表の松田考さんです。

 4年前の立ち上げからこれまで100人以上の「いとこ」たちと向き合ってきました。

 「ご飯がちゃんと割り当てられないとか親御さんが作る余裕がないとかっていう時にお父さんお母さんが責任持ってやってくださいとかって言って何とかなるもんではない」(いとこんち代表 松田 考さん)

 「ここでいわゆる安心してあえて言うと普通の時間の流れに身を置いて過ごせる」(いとこんち代表 松田 考さん)

 スタッフは子どもの様子に自分の経験を重ねます。

 「反抗期だろうなとか、わかるわかるうちの子もそうだよって。頼れる大人もいるし自分も無理しなくていいんだよっていうのが、わかってもらえるようにこれからも接していけたらいい」(いとこんち 堀 一恵さん)

 小学生から4年ほど不登校だった子や、家族とごはんを食べる時間がない子など、抱えている事情はさまざま。

 スタッフが良い距離で接することが笑顔につながり、安心できる場所になっていました。

 「家族がちゃんと集まって食べることがあんまりない。いとこんちで食べるのは楽しい」(子ども)

 「明るい人たちが多いので考え方っていうのは明るく前向きになってくる」(子ども)


 何やら、にぎやかな「いとこんち」。

 この日は、卒業式です。

 中学や高校を卒業した7人の「いとこ」をお祝いしようと地域の住民が駆けつけました。

 ピザやお寿司に、近所の人たちが手作りした赤飯も。

 次々とごちそうがテーブルに並びます。

 「いとこたち、卒業おめでとう!」(松田 考さん)

 盛大に開かれた卒業式。

 今日は少しでも楽しんでほしい。

 大人たちの想いは届いていたようです。

 「おめでとうって言ってもらえてすごい嬉しいです」(子ども)

 「僕の家、兄弟はいるんですけど、こんなにワイワイした感じではないので楽しいです」(子ども)

 2年間通い続けた19歳の女の子は「いとこんち」が外に出るきっかけとなっていました。

 「多いときだと2週間とか家から出なくてそういう時に(いとこんちに)誘われることが多くて」(子ども)

 「遊びに来たら温かく「おかえり」って言ってくれるような存在」(子ども)

 そう話すと、松田さんを呼び出しました。

 そして…

 「いつも誘ってくれてありがとうございます」(子ども)

 「いとこんちがあってよかったです」(子ども)

 「俺がっていうんじゃなくてスタッフみんなが出会ってくれてありがとうって本当に思ってる」(松田 考さん)

 「そんな言ってもらえて幸せだね。そんな言ってもらえる時が来るんだね」(松田 考さん)

 突然の感謝の言葉に、思わず目頭が熱くなるスタッフも…

 「生まれてくる家は選べなかったけれど、僕がこれからどう生きたいか私がなりたい私を選べるという実感を持てた瞬間に、子どもの貧困からは抜け出せてると思うし、そのためのお手伝いをしたい。「いとこ」であることは終わらないので、それはいつまで経っても顔見せに来てくれたらうれしい」(松田 考さん)

 就職や進学で新たな道を歩み始めた「いとこ」たち。

 ここでの経験とつながりはこれからも続きます。

北海道文化放送
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